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独禁法 企業結合規制における一定の取引分野

1.企業結合規制

 合併とは、複数の企業等が完全に一体化してしまうことをいう。

 独禁法15条1項で合併の規制対象としている類型の一つとして、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合がある。この一定の取引分野における競争を実質的に制限する場合の例が、一定の取引分野において競争関係にある企業間の結合である水平型企業結合がなされる場合である(独禁法15条、16条)。

2.一定の取引分野

(1)合併は、当該合併によつて一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、することができない(独禁法15条1項)。ここで、一定の取引分野(市場)は、商品の範囲(商品市場)と地理的範囲(物理的市場)により画定される。見方を変えると、市場の範囲とは、ある商品の需要者が、どの範囲の商品であれば代替可能と考えているのか、及び、どのくらいの距離であれば買いに行っても良いと考えているのか、という範囲である。また、競争が実質的に制限されるとは、競争自体が減少して特定の事業者集団がその意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場支配ができる形態が現れているか、または、少なくとも現れようとする程度に至っている状態をいう(東京高裁昭和26年9月19日)。

(2)一定の取引分野における競争が実質的に制限される場合とは、企業結合により市場構造が非競争的に変化して、当事会社が単独でまたは他の会社と協調的行動をとることによって、ある程度自由に価格等を左右することができる市場支配的状態が容易に現出し得る場合をいう。一定の取引分野における競争が実質的に制限されると、一定の取引分野における競争自体が減少するので、商品の価格が不当に引き上げられる可能性がある。このような事態を放置すると需要者の利益が不当に損なわれることが考えらえるため、一定の取引分野(市場)における競争が実質的に制限する場合を規制対象としている(独禁法15条、16条)。

3.一定の取引分野における競争を実質的に制限するか否かの判断基準

(1)一定の取引分野における競争を実質的に制限するか否かの判断基準として、セーフハーバー基準がある。この基準に該当する場合には、水平型企業結合が一定の取引分野における競争を実質的に制限することになるとは通常考えられないとする。具体的には、仮に合併(水平型企業結合)した場合、合併後のハーフィンダール・ハーシュマン指数(HMI)が所定の条件を満たす場合には、一定の取引分野における競争を実質的に制限することにはならないとする。所定の条件とは、①HHIが1500以下、②HHIが1500を超え2500以下、かつ、HHI増分250以下、③HHI2500超、かつ、HHI増分150以下、の3つのうちのいずれかである。言い換えれば、これらの条件を満たさない場合、一定の取引分野における競争を実質的に制限することになると判断される。

(2)上述のHHIに関する①~③の条件を満たさない場合、単独行動による競争の実質的制限がなされるか、及び、協調的行動による競争の実質的制限がなされるかを検討する。
 これらの検討では、①当事会社グループの地位及び競争者の状況、②輸入に関する状況、③市場参入に関する状況、④隣接市場からの競争圧力、⑤競業者からの競争圧力、⑥総合的な事業能力、⑦効率性、⑧当事会社グループの経営状況、を総合的に勘案して、一定の取引分野における競争を実質的に制限し、価格を引き上げる行為が可能か否かを判断する。

●参考文献
・鈴木孝之・河谷清文『事例で学ぶ独占禁止法』(有斐閣,2017年)21~59, 293~326ページ

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