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独禁法2条9項3号 不当廉売

1.不当廉売規制の趣旨

(1)独禁法は、事業活動の不当な拘束を排除することで公正且つ自由な競争を促進して、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする(独禁法1条)。

(2)独禁法が期待する公正且つ自由な競争は、例えば、企業の自助努力による価格競争である。この企業の企業の自助努力による価格競争のうち、より良質かつより安価な商品を需要者に提供して顧客を獲得する競争である能率競争は、独禁法等の競争を前提とする法制度が歓迎するものの一つである。

(3)独禁法は、価格が安いというだけで規制するわけではないが、価格の安さを常に正当とするものでもない。見方を変えると、能率競争の結果として安い価格を実現できたことは望ましいが、採算度外視の低価格によって顧客獲得を図るのは、独禁法上、問題となりうる。正当な理由が無いのに、採算度外視の価格や生産コストを下回る価格を設定することによって、競争者や競業者の顧客を奪うことは、適正な努力を行っている事業者の事業活動の継続を困難にさせる可能性があるからである。特に、生産コストを下回る価格で商品等を販売し、競争者が市場から退出するのを待つことで市場を独占し、その後で価格を引き上げることで大きな利益を得るという略奪的価格設定が行われる場合には、最終的に社会全体が蒙る不利益が大きくなる。このため、このような場合には、競争者が市場から退出する前に、廉売を止めさせるべきである。したがって、独禁法は不当廉売を規制対象としている(独禁法2条9項3号、一般指定6号)。

2.不当廉売の要件

(1)前述のように、不当廉売は不公正な取引方法の1つであり、独禁法で禁止されている(独禁法2条9項3号、一般指定6号)。

(2)不当廉売の類型は2つある。第一の類型は、①正当な理由がないのに、②商品または役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で、③継続して供給することであって、④他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある場合である(独禁法2条9項3号)。

第二の類型は、第一の類型に該当する場合のほか、①不当に、②商品または役務を低い対価で供給し、③他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること(一般指定6項)、である。

3.第一の類型(独禁法2条9項3号)の要件

(1)第一の類型は、①正当な理由がないのに、②商品または役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で、③継続して供給することであって、④他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある場合である(独禁法2条9項3号)。

(2)第一の類型では、正当な理由がないことが要件となっている。
 このため、例えば、生鮮食料品のように品質が急速に劣化する商品等の見切り販売や今後製造しない製品等の在庫整理で廉売する場合等は第一の類型の要件を満たさない。

(3)第一の類型では、商品または役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で、が要件となっている。
 供給に要する費用とは総販売原価である。総販売減価とは、廉売対象商品製品を供給しなければ発生しない費用である回避可能費用と、廉売対象商品を供給しなくても発生する費用である埋没費用(サンクコスト)の和である。回避可能費用は可変費用と呼ばれ、埋没費用は固定費用と呼ばれることもある。
 商品等の供給に要する費用を著しく下回る対価とは、回避可能費用よりも少ない対価である。

(4)第一の類型では、継続して供給することが要件となっている。
 継続してとは、相当期間にわたって繰り返して廉売を行うこと等である。このため、毎日継続することまでは要しないが、毎週末に廉売を行っている場合には、継続しての要件を満たすことがある。一方、一次的な特売等であれば、継続して供給されるわけではないため、第一の類型の要件を満たさない。

(5)第一の類型では、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあることが要件となっている。
 他の事業者とは、原則として、廉売対象商品について当該廉売を行っている者と競争関係にある者を指す。
 事業活動を困難にさせるおそれがあるとは、実際に事業活動が困難になることまでを必要とはしておらず、事業活動が困難になる可能性が認められる場合を含む。
このような可能性の有無は、廉売行為者の事業の規模等、廉売対象商品の数量・販売期間・特性、他の事業者の実際の販売状況、等を考慮して総合的に判断される。

(6)具体例
 独禁法2条9項3号該当性が認められる例として、スーパーの牛乳の廉売を行って集客した例(公取委勧告審決昭和57年5月28日 審決集29巻13頁・18頁)がある。この例では、①牛乳専売店の牛乳仕入れ価格が一本185円程度で、販売価格が190円から230円程度出会った場合において、②スーパーが、数か月間、150円以下の価格で本数制限無しで販売している。

4.第二の類型(一般指定6項)の要件

(1)第二の類型は、第一の類型に該当する場合のほか、①不当に、②商品または役務を低い対価で供給し、③他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること(一般指定6項)、である。

(2)第二の類型では、不当に、が要件となっている。
 このため、例えば、生鮮食料品のように品質が急速に劣化する商品等の見切り販売とうは、第二の類型の要件を満たさない。

(3)第二の類型では、商品または役務を低い対価で供給することが要件となっている。
 この低い対価とは、総販売原価を下回るが、回避可能費用を超える対価である。
 総販売原価を上回る価格で競争者が淘汰される場合、その競争者は同等に効率的な競争者ではなく淘汰されても仕方がない。しかし、総販売原価を下回るが、回避可能費用を超える場合には、不当に競争者を排除しようとしている可能性を検討する必要がある。このため、第二の類型では、商品または役務を低い対価で供給することを要件としている。
 
(4)第二の類型では、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあることが要件となっている。この要件は第一の類型と同じである。

●参考文献
・鈴木孝之・河谷清文『事例で学ぶ独占禁止法』(有斐閣,2017年)197-216頁

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