静かに父に告ぐ

わたしと父についての回想を綴る。
※軽い暴力表現あります



わたしと父は昔から喧嘩ばかりで、「長女と父親が喧嘩するなんて…」と思われるかもしれない。2歳頃、わたしが病院に行くことを渋った結果、父親はわたしに手を出した。またわたしが小学生の時、算数の不出来を克服させようと、夜中の1時まで算数ドリルをやらせたり、問題を間違えたら「なんで間違えたの?」「何回もやってるよね?」と、椅子を振るったりすることもあった。わたしが悪い面があるとはいえ、父親の影響は着実に、知らないうちに、わたしに及んでいった。


わたしにとって、父とは長らく「未知」と「恐怖」だった。手を出すこともそうだが、なんでも父親は非常に不器用な人間だと思う。特にコミュニケーションにおいては。
例えば、わたしが帰ってきた時にあいさつをしなければ、「普通帰ってきたらあいさつするよね?」「なんでこんな簡単なこともできないの?」と、小さいわたしにとっては少し威圧的に感じる言い方をする。

もう少し成長したら、「あ、ごめんなさーい」くらいで流せるようになったけど、小さい頃はなかなか言葉の裏にある真意を読み取ることは難しかった。
そのせいで、わたしは父親に対する恐怖心をより一層強め、父親と平常心で日常会話ができるようになったのは高校に入ったくらいの時である。


わたしは父親に嫌われているとずっと思っていたせいで、なかなか父親に対して心を開くことができず、コミュニケーションからずっと逃げていた部分はある。幼少期なんて特に主観的になってしまいがちな時期だから、一度先入観が入ってしまうと抜け出せない。わたしの中でずっと父親はただ「怖い」存在として、溝を深めていった。


大学生にもなって、わたしは父親と大喧嘩をした。理由はバカバカしくて、わたしが「今日一日だけは距離を取りたい」「体調が悪いから話したくない」と言ったところ、父親は「突然すぎる」「家族にもかかわらず、感じが悪い」と、わたしを怒鳴りつけた。(こう書くとアナ雪のアナとエルサの喧嘩みたいだけど…)

この時ばかりは、わたしも体調が優れず、感情的になってしまった。
そして、父親が「もういい。お前なんて出ていってしまえばいいんだ」と告げて、わたしは怒って家を出た。

家を出て、どうせなら全く知らない場所に行ってやろうと思った。夏の夜中、無一文であてもなくふらふらして、心配させてやろうと思った。


しかし、夜風にあたって2時間ほど知らない土地を散策していると、わたしの方が先に冷静になってきてしまった。2時間も経つと、親を心配させてやろう、という気概はなく、ただ居場所を失った虚しさと、なぜ父親にあんな仕打ちをしてしまったのだろうか、という後悔、しかし家を出たのにノコノコ帰って泣きつくのも恥ずかしいという羞恥が残るだけであった。結局、その日は非常に複雑な心持ちで家に帰った。


家に帰り、「おかえりなさい」と待っていたのは母親だった。母親は家を出たわたしにも温かい眼差しを向けた。しかし父親はいなかった。
わたしは「父親はどこに行ったのか」と母親に尋ねると、「家を出たあなたを探しに行ったんだ」と答えた。出て行けと言ったそばから、出て行ったわたしを探しに行くとはなかなか変なことをするな、と思っていたが、


「いつわたしに手を出すかわからない恐怖」「わたしのことを大嫌いで、憎んでいるに違いない」あまつさえ、「あの人なんて別にいなくても悲しくならない」と父親に対して思っていたが、だんだん「わたしとのコミュニケーションに対して、少なからず努力してくれてはいたのかもしれない」と感じてきたのである。


家出から1ヶ月間、わたしは父親と全く口を聞かなかった。あいさつすら交わさない、目も全く合わせなかった。
そして最近、父親がわたしに開口一番


「家に帰ってきたら、あいさつくらいしたらどうなんだ」と。そっちこそあいさつしなかったくせにそりゃねえぜ、またあいさつかよ、とも思えたが、次々と出てくる言葉は、わたしの心に浅い傷を作っていった。


「俺はお前のこと、何一つとして理解してなかったことがわかった」
「もう今更口を出すこともしない」
「お前の好きなようにしてくれ」
「干渉されたくなきゃ出て行ってくれ」


誤解を重ねた末に訪れた結末は「諦め」。


ここで初めて、「もう少しわたしの気持ちを伝えようと努力すればよかった」と心の底から後悔した。知らないうちに、わたしも父親に傷を作っていた。
父親に少しだけでも歩み寄って、わたしのありのままの気持ち「父親は本当にわたしのことが嫌いなのか」「父親に対しての負い目」「父親ともっと仲良くなりたかった」ということを伝えていれば、コミュニケーションを放棄せずに済んでいたかもしれない。

お互い頑固だからか、なかなか素直になって話すことができなかったのである。とはいえ、今更やり直すこともできないし、やろうとも思わないけど。


暴力を受け、ひどい言葉もたくさん言われて、わたしも少なからず傷ついたことは当然ある。

しかし、頭が恐怖に支配されすぎて、父親が本来わたしに伝えたかったことがずっとわからなかった。
父親も、わからないなりにわたしのことについて悩み、どうにかして良い方向に進ませようと努力していたかもしれない。


叶わない願いではあるけど、もしやり直すことができたなら、どこかのタイミングで冷静になって、父親と「本気のコミュニケーション」というものを取ってみたい。


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