『言葉と夢』
ふたりの間には、もう何年も封印している言葉がある。
それは甘美にしてとても危険な言葉。
口にした途端、この世界が崩れさる禁断の言葉。
以前は日々の挨拶のように交わしていたのに、、、。
夢を観た。
不思議なことに夢の中の僕は、
夢を夢として認識していた。
ドアの向こうには待合室のように木のペンチが並び
その奥のドアを抜けると
湖に続くテラスに出ることを僕は知っている。
僕が立っている場所から一番近いベンチは
やたらと暗く、そこに腰掛けている人物が
かろうじて女性であることしか分からない。
表情どころか顔さえも見えないが、僕の心は
その顔の見えない女性が彼女なのではないか
という思いを半信半疑ながら確信へと変えていく。
僕は尋ねるように彼女の愛称を呼んだ。
女性はつぶやくように「うん」とだけ答える。
僕は女性の頬にそっと手を這わせながら
この夢が終わらないように願っているが、
その願いはもろくも崩れ去り
僕は夢の世界からはじき出されてしまう。
そして夢から覚めた僕は、いつもの見飽きた天井に
彼女に触れた感触が残る手をかざしながら、
あの時、封印した言葉をささやいていたら
この世界はどうなっていただろうかと考えていた。
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