#14 ただ、愛されたいだけだった

僕は両親が赦せなかった。

妹の代わりだと殴られた日も、

裸に剥かれて外に放り出された日も、

子どもなんか犬猫と同じだと言われた日も、

全部全部赦すことができなかった。

痛くて、怖くて、悲しくて、辛くて、

逃げたいのに逃げることすら許されなくて、

誰も助けてくれないこと、酷く恨んでいた。

みんな死んでしまえばいいのにと、何度願ったか分からない。

親を殺して家に火を着ける妄想を、何度したか分からない。

そういった

恨み辛みを

空っぽになるまで全部吐き出して、

最後に残ったのは

「本当は愛されたかった」

という望みだった。

殴らないで、ただ話をしてほしかった。

言い訳を、否定しないでほしかった。

お前はできる子だからと、言ってほしかった。

誰と比べることなく自慢の子だと、

さすがお父さんとお母さんの子だと、

そう言ってほしかった。

ごめんなさい。

こんな子どもでごめんなさい。

気付いたら僕は、

幼い子どものように泣きじゃくっていた。

「大丈夫よ」

看護師さんが、背中をさすりながら言ってくれた。

「あなたはもう、大人なんだから、大丈夫」

無力でどうしようもない、子ども時代じゃない。

僕はもう、

自分の力で選択して、生きていける大人なんだ。

「あなたの中にいる、幼いあなたを、大人のあなたが抱きしめてあげて」

看護師さんの声はどこまでも優しくて、

僕は生まれて初めて

「安心して帰れる場所」を得たような気がした。

僕は、退院することを、決めた。

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