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【連載小説】母娘愛 (27)

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 恵子はテーブルに出しかけていた寄付金を、仕舞う間もなく放り出し壁際に逃げる。そして、恵子の手から離れた札束は床に散乱。逃げ惑う団員たちの土足で踏みつけられ、引き千切られたお札が数枚宙に舞った。

 悲鳴や言葉にならない叫びを伴いながら、壁際にひとかたまりになる団員たち。恵子は言い知れぬ、疎外感を味わいつつ、突然会場に雪崩込んできた男たちの動向だけを追っていた。

「大人しゅうしときゃあ、コイツも大人しゅうしとる・・・」

 手元の拳銃をチラッと見ながら、ドスの効いた男の声が、会場の団員たちの動きを完全に牛耳ったぎゅうじった

「早う!掻き集めるんじゃ!」

 男がもう一人の連れの若い男に指図している隙に、山岡がハチゲンと何かを話そうとした。

 そのとき!

「動くなッ!っていってんじゃろう!が・・・」ドス声の男が二人を、鋭い睨みで射る。

「モタモタしんさんな!」

 ドス声男が現ナマを、掻き集める若い連れに振り向いた。その隙に、山岡はハチゲンをドアから外へ逃がせようと試みる。

「何やりょうるんじゃ!」ドス声の男が、逆上して恵子の二の腕を、鷲掴みにして自分の胸元にひきつけ、恵子の喉に拳銃を押し付けて言った。

「誰かが動きゃあ!誰かがお陀仏じゃ!」

 とうとう!恵子が人質になってしまった!

「佐伯さん!」

 恵子を助けようと、二、三歩近づいてくる山岡に、容赦なくドス声男の拳銃が炸裂した。

「パキュ~ン!」

 意外にも乾いた拳銃の音が、不気味に狭い会場の壁で跳ね、団員たちに極限に近い恐怖感を浴びせかけた。

 恵子は、一瞬、覆っていた両手を、顔面から解いたが、胸から鮮血を流して、仰向けに倒れている山岡の姿に、再び両手で顔を覆うのだった。

 静まり返った会場では、若い男が散乱している札束を掻き集める音だけが微かに聞き取れる。気づけば、ハチゲンはいつの間にか姿を消している。

 いや、ハチゲンのみならず、花輪興業のヤツらは、どさくさに紛れて雲隠れしたのだろう。そういうところが、プロなんだろう。

 恵子はドス声男の屈強な腕の中で、小鳥のように小さく震えているしか、なすすべがなかった。

 だが、しばらくして、その束縛感が頼りなく、スルリと解けた!

「そろそろ、山ちゃん!カタがついたけぇ!」

 会場にいる誰もが予想しなかった言葉が、ドス声男の口許から漏れた。続けて、撃たれて血だらけで身動きしなかった山岡が、何でもなかったように、立ち上がり叫んだ!

「長居は無用じゃけいの!」

 山岡の号令で、三人は階段の方へ駆け出した!それを見計らって、恵子はその場でヘナヘナと崩れる。

 唖然!呆然!そして騒然!とする残された人々を尻目に、一目散と駆け出したのである。もちろん、現ナマを詰め込んだジュラルミンケースを抱えて・・・。

「動くな!」

 背後からの掛け声に振り向いた三人組は、各々が握りしめていたジュラルミンケースを床に、放り出して再び階段へ駆け出そうとする。

「動くな!」

 彼らの行く手からも、制止の号令が轟いた!




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