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【連載小説】母娘愛 (26)

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【連載小説】母娘愛(25)話 までのあらすじ👇

佐伯裕子(46)は、実家を棄て東京暮らしも二十数年。実家・広島で一人暮らしの母・佐伯恵子(66)と、数年前から携帯でのやり取りだけは再開していた。母の不十分な携帯による紹介のため、母の婚約者である・福田誠(56)と、東京でイイ仲に堕ち入ってしまった裕子。その争奪戦の収拾に広島へ乗り込む。母娘は福田がとんでもない詐欺師であることを知る。二言目に「学がないんじゃけ」という恵子は、新たなる詐欺に、またひっかかりそうである。なんとか、その罠から逃れさせようとする裕子に、妙案はあるのだろうか?母・恵子は大がかりな詐欺集団の企てに、まんまと大金を吸い取られるのだろうか?後ろ髪を引かれながらも、仕事復帰で東京へ戻る裕子は、母への憐憫の情で涙に濡れるばかりだが・・・。

連載小説・母娘愛(25)までのあらすじ


<原爆死没者慰霊事業へご支援を!>の横断幕のズレを直している山岡のスマホが、胸のあたりで鳴った。「お~!佐伯の婆さんが、玄関に着いたってか・・・」スマホにオウム返しする山岡の声が、本番スタートの合図になった。

「さあ~行こうでぇ!」山岡の掛け声で、会場の動きは活発になる。静かに威厳をたたえていた、ハチゲンですら背筋を伸ばし、マスクの位置を直したようだ。
 
 銀行員役の亀田良子は、お札を数えながら、寄付者役に何やら話しかけている。その後ろに立つ警備員は後ろ手に組み、その光景を神妙な面持ちで眺めている。その横には、ジュラルミンケースが、横積みされている。

 エレベーターホールあたりだろうか、一際ひときわ大きな女声がした。「今日は、お世話になります」佐伯恵子の声に間違いない。山岡は会場のドアへ小走りで駆け寄った。

「こちらへどうぞ!」佐伯の婆さんを案内する、NPO役の松本の声が、会場前の細長い廊下に響いている。山岡は頃合いを見てドアのノブを回した。

「お暑い中、本日はご足労いただきましてありがとの」「いえいえ、松本さんのお車は、エアコンがよう効いて、ぶち快適じゃったけぇ・・・」恵子は微笑みで応えた。

 恵子が部屋へ入ろうとしたとき、カメラクルーが寄付者役とのやり取りを始めた。「ホットしたよ、おかげさまでスムーズにご寄付ができた。ありがとうの!」年配の紳士が、インタビューされているところだ。

 恵子はその光景に少し動揺したようで歩みを止めた。「佐伯様!こちらへどうぞ!」ニセNPOの松本が、そんなことにお構いなしに恵子を席に誘う。

 ここまでは上々だ!山岡は心の中で安堵し、続くスペシャルストーリーの開幕をひとりごちていた。

 恵子がキャリーケースから、現金を出してテーブルに並びかけたとき、なんだか、廊下が騒がしくなった。

「われ!いったい誰じゃ!」花岡興業の若い衆が、トイレあたりから飛び出してきた男に、大声で叫んだ。「せせろーしい!これが見えんのか・・・」ドスのある男声が、若い衆を黙らせた。乾いた破裂音が廊下で炸裂したのだ。

「ボス!ヤバいスッ!」会場のドアが開くと同時に、廊下で若い衆が吠えた!「ヤツはハジキを持っとる!」

 和やかだった会場が、一遍に騒然となった。

 


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