見出し画像

経済書(3):世界の経済学者・エコノミスト

今回は私が読んできた本の中で、世界の経済学者・エコノミストを紹介していきたいと思います。(と言っても、やはり米国が中心となりますが。)

ポール・クルーグマン

まず始めに、2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン教授です。
クルーグマン教授は元々は国際貿易理論が専門のようですが、ニューヨークタイムズのコラムで、時の政策や著名な経済学者にズバッと切り込むコメントが多く、たびたび大論争を巻き起こすことでも有名です。

当初はインフレターゲット政策を支持し、アベノミクスも評価していたようですが、途中からバズーカ砲と呼ばれた「日銀の金融政策には効果がない」と発言するようになったそうです。

「現代の経済学は市場は失敗しないという前提で、景気変動は中央銀行の金融政策だけで制御できると考えていたがそれは間違いだった。財政出動で政府が介入しなければならない」(Wikipedia より)

時として政治色の強い発言が多いとも見られていますが、自身の経済理論にこだわるリフレ派学者とは異なり、理論と現実のギャップを常に見据え、鋭く切り込んでいく姿勢がグルーグマン教授人気の理由の一つだと思います。

ロバート・ライシュ

つぎに、クリントン政権時代に米国労働長官を務めたロバート・ライシュ教授です。労働経済学が専門ですが、古くから米国における中間層衰退や所得格差について警鈴を鳴らしていました。

30年前に知識労働者(シンボリック・アナリスト)とブルーワーカの経済格差拡大を予言した「ザ・ワーク・オブ・ネーションズ」を始め、「勝者の代償」「余震(アフターショック)」など、経済学者の中でも私が最も読んできた著者です。

2016年に邦訳が出された「最後の資本主義」で、ライシュ教授は

 ・もはや、大きな政府か自由市場かという議論は意味がない
 ・金融資本と富裕層が政治に働きかけて自分たちに有利なようにルールを
  作り変える
ので、力がある側にとって市場は有利な仕組みになっている

と中間層衰退や経済格差に背景にある米国における様々な制度・ルールの問題点(悪巧み)を看破しています。

最近の中国 習近平主席の「共同富裕」への政策転換を見ると、やり方は確かにラディカルですが、この本で資本主義国側のルールも決して全てがフェアなものではないなと気づかされた一冊です。

グローバリゼーション

これまで私自身も海外出張が多かったことから、「世界の経済学者」とともに、経済学者が「世界経済」をどう捉えているかも興味が尽きないところです。

一番、始めに紹介したいのは経済学者ではありませんが、ニューヨークタイムズの記者 トーマス ・フリードマンが2006年に出版した「フラット化する世界」です。

これまでのグローバリゼーション (1.0:国家や軍事力が主役、2.0:多国籍企業が主役)から、グローバリゼーション3.0では、ネットに繋がれた個人が国境を越えて力をあわせ、競争を繰り広げるという時代になったと書かれています。

世界のフラット化を生んだ圧力としては、以下の10の要因を上げています

 ①ベルリンの壁崩壊 ②インターネット普及 
 ③共同作業を可能にするソフトウェア ④アップロード 
 ⑤アウトソーシング ⑥オフショアリング(海外移転) 
 ⑦サプライチェーン ⑧インソーシング(専門的業務受託) 
 ⑨サーチエンジン ⑩ステロイド(どこからでもアクセスできる) 

欧米諸国や日本などの先進国が10億人以上の人口を擁する中国インド、また東欧やASEAN各国にアウトソーシングやオフショアサービスで依存し始め、それが脅威になりつつあったのもちょうど、この頃です。

つぎに紹介するのはトルコ出身の国際経済学・政治経済学者のダニ・ロドリック教授の「グローバリゼーション・パラドクス」です。

ロドリック教授はグローバリゼーションと国家主権、そして民主主義を同時に追求することは不可能で、どれか一つを犠牲にする「政治的トリレンマ」理論をベースに、グローバリゼーションのさらなる拡大(ハイパーグローバリゼーション)のためには、今後の世界が採る選択肢は3つの道しかないと問うています。

 ①グローバリゼーションと国家主権を取って民主主義を犠牲にするか
 ②グローバリゼーションと民主主義を取って国家主権を捨て去るか、
 ③あるいは国家主権と民主主義を取ってグローバリゼーションに
  制約を加えるか、

2013年に邦訳が出版されていますが、すでに英国のEU離脱を予言していたように、いまにして思えば感じます。

最後にジュネーブ高等国際問題・開発研究所 リチャード・ボールドウィン教授による「世界経済大いなる収斂」です。

情報通信技術によって、世界は姿を一変させ、貿易以上に「知識フロー」の変化こそが重要。保護主義は時代錯誤だ。と述べています。

90年代以降、グローバル・バリューチェーン革命により、モノだけでなく、アイデアの移動の制約も著しく低くなり、、グローバル化の質が大きく変化している。
先進諸国からアウトソーシングやオフショアリングにより生産委託・サービス委託を受けた一握りの新興国は、経済的利益だけでなく「生産技術やソフトウェア開発」の知識を蓄え、結果的に世界経済はG7等先進国と一部の新興国を中心としたグローバルネットワークに収斂しつつあると論じています。

成長経済学の流れ

最後は、2018年にノーベル経済学賞を受賞したポール・ローマー教授について著したボストン・ブローブ誌のコラムニスト デヴィッド・ウォルシュの書籍です。

本書ではローマーの研究者としての足跡をたどりながら、経済学のスター教授となるまでのドラマを描いています。

ポール・ローマー教授はイノベーションが経済の持続的な成長をもたらすというソロー・モデルの限界に対して、新たなモデル「内生的成長理論」と使い、知識こそが経済成長の源泉とするローマー・モデルを打ち立てました。

前半は彼が登場するまでの「経済学人物史」と呼べる内容で、登場する経済学者もロバート・ソロー、ロバート・ルーカス、ポール・クルーグマンポール・サミュエルソン、ケネス・アロー、宇沢弘文など多士済々です。

ドラマ仕立てとはいえ、経済理論の内容はかなり高度で、経済学の深化も他の学問と同様、先陣の研究や理論の上に成り立っているのがよく理解できました。(米国経済学会の裏話も多数出てきますが。)

今回は以上です。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?