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ずっこけ熟年三人組

この作品の中で
主人公たちは50歳。
老後だとか、親の介護とかそれから自分の体調不良など
そういったことが起きてくる年代である。
この作品の中では、本人たちはまだ健康ではあった。


作者は、もう十年経った後の、
健康不安の主人公など書きたくないからこれで辞めるという。

主人公の三人は
企業の職員(モーちゃん)
中学校の教師(ハカセ)
市議会議員(ハチベエ)
として働いているので、その三者の目線から
立体的に浮かび上がってくる現実を、我々は体験できる。

商業地区の再開発から話が始まったので
汚職だのなんだのそんな話になるのかと思ったら
さすがにそんなドロドロした話ではなかった。

市は、天候不順の豪雨に襲われるのだ。
豪雨の土砂崩れで住宅街に大被害が起きる。
広島出身の作者は
広島で起きたその土砂災害を入念に取材したそうだ。

土砂崩れの被害に
生徒があったハカセは、クラスの子を一人亡くす。
モーちゃんは、愛妻家の先輩が
一階で寝ていた妻が行方不明(のちに死亡で発見)という
悲嘆と慟哭を眼にする。
ハチベエは市会議員として今後の市政に関わらなければならない。


作者の書いた2015年のあとがきが今を見抜いている。

平和と民主主義の申し子として彼らを描いてきたが
今、この国の平和にも民主主義にも暗雲がかかり始めている。
もしかすると「戦前」になるかもしれない時代に
この三人の物語は書き続ける気にはなれない、と。


天災や宗教的なネグレクト、ヤングケアラー
急に来るヘイト

今はそういう時代である。

敵基地攻撃が「アリ」になってしまった時代は
はっきりと戦前である。
わが県も「敵基地攻撃の後」の攻撃が来そうな地域だ。


2021年に亡くなった那須正幹さんは
最後にどんなことを考えたんだろうか、
安らかに眠れない時代でごめんなさい と思ってしまう。
私には一票しかないんだけど。





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