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闘争・逃走中は考えられなーい!

ニュージーランド在住で、総合診療科医、ライフコーチ、Havening technique ®️プラクティショナーなどをしています。

最近、「不安でどうしたらいいかわからなくなって、学校から母親に電話をかけまくっている」という高校生の女の子が、お母さんと一緒に患者さんとして来ました。
もう2年ぐらいこんな感じで、学校のカウンセラーと時々セッションをしているのですが、「良くならない」という事。

彼女にその前に会ったのは、小学生の頃でした。
「外交的で、活発でおしゃべりな女の子」である記憶が残っていました。
その時は「不安のかけらもない」という感じでした。

このぐらいの年(ニュージーランドは中学が2年で、高校は5年なので、13歳ぐらいの高校入学時期)から、不安を訴える子供が多くなる印象があります。

脳を含めた体の成長や、環境の大きな変化など、いくつかの要因が重なってそうなるのだと思います。

彼女に話を聞くと、特に予定外、予測外のことが起こると、パニックになってしまって、胸はドキドキするし、何も考えられなくなってお母さんに電話するとの事。

私達general practitioner (GP 総合診療科医)の診察時間は15分で、この状況では、患者さんは、医師しか出来ない事(薬の処方や、何処かへ紹介など)を期待して診療に来ているので、私がしたい「薬以外でのインターベンション」をするのが、時間的にはとても難しいのが現状です。

(日本の精神科医の方は5ー10分の診療時間でやっているとしたら、どうやるのかとても興味があります。)

でも彼女に「どうしてこんな事が起こっているのか、どんな事を最初に試してみれば役に立つかもしれないか、話してもいい?」と訊くと、彼女もお母さんも乗り気だったので、少し話をしました。

(その人によっては「薬が試してみたい」と望んで来ます。
その様な状況では、その診療時に薬以外のインターベンションをしてもあまり効果的でないと判断し(時間も無いし)、他のオプションとしてカウンセリングなどがある事を説明をし、インターベンションは他の人(カウンセラーなど)に任せます。)


今回、彼女に話した事は、まず

  • 彼女の様な歳で不安になるのは良くある事で、私もそういう若者をよく診る

  • 脳を含めた体、ホルモンの変化、また大きな環境の変化と環境から求められるものの変化、子供から大人へと変化する中で自分が自分に期待するものの変化など、に対応していくのは、誰にでも簡単では無い事

  • 彼女が、自分自身で「どんな状況に対応するのが難しい」と自覚があるのは、素晴らしい事だ

と伝えました。

次に、アメリカ人の精神科医、小児科医で多くの本を出版しているDr. Dan Siegelの手を使った、脳のモデルの話をしました。
下のビデオはDr. Russ Harris というオーストラリアのGPのビデオで、彼はacceptance and commitment therapy を広めています。
(Dr. Siegel 自身のビデオは日本語の字幕が無いのですが、Dr. Harrisのこのビデオは日本語字幕を選択して表示できるので、これを選びました。)

つまり、人間は闘争・逃走モードになると、脳幹(モデルでいう手首の部分)と大脳辺縁系(親指と手の平)が働いていて、冷静に考えるのに必要な大脳皮質(指)が働かない。

「すごく不安な状態」= 闘争・逃走モードでは、
「本当に、これは心配しないといけない事なのか」とか
「どんなステップを次に取ったら良いか」とか
考える事が出来なくなっている。

そこで自分で出来るまず最初の段階は、自分がその「闘争・逃走モード」に入りそうであるかどうかを、できるだけ早い時期に探知する。

Dr.Siegelのモデルでいうと、指(大脳皮質)が、親指(大脳辺縁系)をカバーせずに、大脳辺縁系が暴走し始める段階です。

自分の心拍数が上がってドキドキし始めたとか、小さな体の変化に目を向ける。
それが上手くなってきたら、最初は小さな不安を鎮める練習する。
(カウンセラーの助けなどを借りて。本当は私がそういうスキルを教えたりもしたいのですが、なんせ診療時間が足りない。)

この説明で、少しでも、彼女(と彼女の母親)の行き詰まった状態から、希望が持てる気持ちになってくれたら良いのですが。

カウンセラーに予約する説明をし
抗うつ剤(SSRI)の処方箋を、副作用などを説明してから渡しました。
処方箋に関しては
「もう一度カウンセラーを試してみて、どうしても行き詰まったと思ったら、薬局へ行って薬を貰って、始めてもいいよ。
どちらにしても1ヶ月後にはまた診察に来て、様子を教えてね。
薬を始めたとしても、あなたのスキルが上がれば、相談して早い時期で止める方向で考えているから。」
と伝えました。

これは、私の日常良くある診療です。
この状況では、薬を始めない人は1/4から1/3ぐらい。
多くの人は薬を始めます。
特に親が薬を希望している場合は、ほぼ100%。

本人も、自分が自分をコントロール出来ない状況から早く抜け出したい。
それ以上に、親が、子供が辛い思いをしているのにどう対処して良いかわからない。
とにかく「早く良くなって欲しいから薬!」となる親の気持ちは、自分も一人の親として、よく理解できます。

以前書いた様に、私の医者としてのスタンスは「薬が必要な人は、常に薬以外のインターベンションも始める」です。

もしもDr. Siegelのモデルについて「興味深いなあ」と思われたら、
ご自分が、そしてお子さんや周りの人がどんな状態にあるのか
このモデルを使って考えてみて下さい。

(例 : 泣き喚く子供に、何かを説明しても、彼らの頭には「恐怖」や「怒り」という大脳辺縁系が支配する「感情」以外は何も残らない、とか。)

今日も長文を読んで頂き、ありがとうございました。

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