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さようなら。どこかの世界のどこかの国。さようなら。


「でも、おかしいよ、おかしいでしょ?」


電車の中で学生たちの声がふと、耳についた。
何かと思って見れば、
一席空け、並んで座っている学生の内の一人が、先程の少し深刻そうな声を出し、もう一人のスマホを弄る学生に訴えている。
「まぁー、そうかも知れないけどさぁー、やっぱヤバイって。
政治のこととやかく言うのは」
「だって、こんなおかしなことやってるんだよ…なんとかしなきゃ」
「なんとかって、なにをー」
自分の方を全く向かずにスマホを弄る学生を、
「うん……なんだろう。
絶対おかしいのに、何をやればいいのか分かんないや………」
おかしいと言っていた学生は、泣き出しそうな声で、その後押し黙った。


何か、言わなければならない…のでは……?

そうは思っても、初対面の大人がおそらく10も下の学生に話しかけられるキッカケも思いつかずに、
モダモダした気持ちのまま目的駅に着いて、降りる。
改札に向かいながら、

「何かすべきだったのか」
「いや、いきなり話しかける大人とか気持ち悪いからこのままでいいのだ」
「でもあのまま見過ごすのは大人として…」
「いやでも………」

そんな言葉が頭をぐるぐると回っていたら、いつの間にか家に着いていた。

そのままぼんやりとした意識のまま家に入ると、全世帯に給付された告知ロボが反応する。
「お帰りなさい!
手を洗い、うがいをし、小指でマスクを取ってから、お風呂に入りましょう!
あなた個人の無責任な行いが社会全体を巻き込む迷惑行為にならないように、行動しましょう。
繰り返します、手を…」
勝手には止められない甲高い声を毎回辟易しながら手洗いなどをしてら風呂の準備をする。水音を聞かせないとその間の電気代が高くなるから、素早く動くのも慣れたもんだ。
その間に習慣のテレビをつけると、
子供の出生率の低下、今年の新入社員は例年通り無気力、惑星からの発明などほぼ変わらないニュースが流れるだけだ。
子供の出生については教科書で年1万人以上を国として目指す、大規模な啓示活動がされていたのが思い出す。今もたまに無責任な若い世代に向けロボが言ってくるので、その度に反省して行動しているから、効果は抜群だ。
「そういえば…昔はこういう提案の度にデモとかあったっていうけど、今集まるだけで規制されるのにどーやってたんだろ…
あんなマスクせずに集まって大声上げるとか…」
本当に、教科書を見るたびに不思議に思っていた。
現代に近づくにつれ、マスクをしての集会もあったようだが、現在は規制されているのでそれも過去の遺物だ。

風呂上がりに、テレビをニュース番組から、予約していたオンライン演劇のページに切り替えて夕食の準備をする。
この間、数文字でやりとるするSNSで流行っていたのでどんなものか楽しみだ。
「というかオンライン演劇、って演劇自体オンラインでしかやってないのに、オンラインとかついている本当に不思議だよなー。
これも昔は小さなホールで集まったやってたっていうけど…」
その昔はあったらしい、小さな映画館、小さな演劇場。何で無くなったかは教科書に書いてなかったが、きっとウイルスの第一次拡大時期だったから、その中でクラスターがつくられ、たくさんの患者が出て運営できなくなったのだろうと、学校の先生は言っていたっけ。

ブーーーーーー

「お、始まるか」
画面の赤い幕が上がっていく。


オンライン演劇は、ネットの書き込み通り面白かった。あとで感想を書かないとな、と思いながらテレビの画面をニュースに切り替える。
すると今この世界で一番貿易が盛んな惑星特集だ。
政治状況、緩やかな人口増加、毎月何かの進展がある新天地での日々。
写る人、それぞれが充実しているような顔をして、インタビューに惑星共通語で答えている。
見た目同じような感じの人が話しているのは、惑星移住式典についてだ。

昔、この国は今も続くウイルスの大流行とともに、優秀な権力者に有利な法案を通し、
最終的には国が国民すべてを監視し規制する社会をつくった。
その過程で反対意見や陳情などの誹謗中傷する人々を、
「反政府の意思を持つ極悪人」として該当者を老若男女関わりなく処罰した。
他の国からバッシングなどが酷がったらしいが、
この星とほぼ同じ規模で人が住める環境下の惑星が発見された事により、自体は一変する。
もともとこの国以外が発表した地球温暖化による水位の上昇や、天変地異並みの災害データと共に(この国としては対策中として、他のデータが出ている)、
移住出来る場所を宇宙に探すのが国の外では急務とされていた。それが発見されたら一つの国の内部の事所では無かっただろう。
即座に調査団として移住できる人材を、
世界各国の人々が貴賎問わず募集を掛けられ、
そこに色々な経緯があったらしいが沢山の処罰された人たちや家族が向かった。
こちらの政治家は今も昔も彼等を「臆病者の負け犬」とみんな言う。教科書にも載っている、誰もが知る言葉だ。

…あれは、いつだったか教科書の惑星特集の最初のページにこの国から調査団に入った人が泣いている写真と供に、
「故郷を捨てたくなかった。
でももうそこには安心して住むことが、私や子供も含めて出来ない。
だから行くしかない。とても、悔しくて悲しい……」
とあったのを思い出す。
その後の惑星の発展具合は凄まじいが、こちらで特集を組む時は毎回そのような写真やコメントを入れなければ惑星側に多額の違反金を支払わなければならならず、
そのセコさは国民の憤慨対処になっている。
今じゃ国に監視され、規制されるのは当然、
優秀な権力者の身内であればそれが合法非合法問わずにどんなことでも出来るのが当たり前の時代に生きる者としては、
そんな大それた決意をしなければ生きていけない人たちがいたのに同情を覚える。
普通のことをすればこの国に住めるのに、と。
普通に、政府の言うことは全て信じて、
みんなと同じことをして、文句は絶対に言わずに、
出来なかった奴はみんなで叩き出して、笑顔を忘れずに、
国に絶対に頼ること無く、
補償を受けるのは恥。それをするくらいなら野垂れ死ぬ覚悟を常に持ってさえいれば、
この国の安全さときたらどの国にも引けはとらないのに。
なんで惑星も、他の国もこの国を「王政と奴隷達」というのか理解できない。
きちんと法律がある法治国家なのに。


「あー、やっぱりあの子にいえば良かったなー。
政府のやること文句言うのは憲法違反って。
まだ若いから、分からなかったんだろうな…しまった…」


テレビから、式典の為にあの写真が今年も使われるニュースが流れた。




今回、文章がとても面白くて味わい深い岸田さん主催のキナリ杯に、
今の自分のモヤモヤを小説の形で吐露する形で参加させて頂きました。
こうなったら嫌なのに、成りかけていると不安に感じる事をSFもどきにして文字に出すと、
やっぱりホラーだなぁと思います。
そうなら無い様に何をすべきか、考えていかなくては。
試行錯誤する機会を頂き、ありがとうございます。

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