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『ザ・ロード』(コーマック・マッカーシー ハヤカワepi文庫)



この本との関係を、一度清算するべき時がきた。

『ザ・ロード』 コーマック・マッカーシーが描いた終末後の世界。 廃墟と化した大地を、人間性を失っていくわずかな生き残りの中を、父子が旅していく。

父は子を守る。ひたすらに守る。それが、彼の保つ生へのよすがで、灯火なのだ。子は父を守る。守られるべき存在として共にあることで。

この本を、ずっと鞄に入れていた時期があった。

たぶん、辛かったのだ。苦しかったのだ。

この本が、お守りだった。

毎日少しずつ、慣れたページをめくりながら、また、めくらない日も、この本が鞄の中にあり、この本が鞄の中で子どもを守り、生きる道を探し、どんな絶望からも逃げおおせようと、一歩一歩進んでいることを思っていた。

いつこの本を鞄から出したのだろう。

哀しいことは、もう終わったのだろうか。

まだその最中なのだろうか。

それでも幸せな瞬間は確かに生まれていて、私は、あの頃この本に持っていた気持ちを、思い返す事ができている。

地元に帰ってきて、もうすぐ一年がたつ。

希望とは、何であろうか。

『ザ・ロード』(コーマック・マッカーシー ハヤカワepi文庫)

(この文章を書いてからもう10年ほどが過ぎていて、それでもずっと大切な作品です。作者が天国で穏やかに過ごされますように)

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