イオンモールの23年2月期本決算を分析

イオンモールが4月11日に23年2月期の本決算を発表しました。どんな結果だったのか分析していきます。

前期は下方修正通り、今期経常35%増益へ

前期実績

事前に業績を下方修正した通りで着地しました。23年2月期の営業収益は25.7%増収の3982億円、営業利益は15%増益の439億円、経常利益は11.9%増益の364億円、最終利益は32.6%減益の129億円。なお前期に収益認識基準を変更しており、営業収益は実質10%増収とのことです。

また特別損失として「新型コロナ感染症による損失」や減損損失など132億円を計上しています。

2期連続で増収経常増益ですが、下方修正前の計画では、経常利益が39.8%増益の455億円でしたので、業績回復が遅れていることになります。なお2期連続で大幅な計画未達であり、いくらコロナの影響があったとしても見通しが甘いと言わざるを得ません。

出典:株探

今期予想

同時に24年2月期の業績予想を開示しています。

営業収益は12.2%増収の4470億円、営業利益33%増益の585億円、経常利益34.6%増益の490億円、最終利益2.1倍の270億円。経常利益ベースで3連続増益の見込みですが、22年当初計画と比較するとあまり上積みできていない印象です。最終利益が大きく伸びるのは、前期に大きな特別損失を計上した反動です。

出典:株探

売上は伸びても利益の回復は遅い

前期比では中国を除いて増収増益

イオンモールは国内のほか中国とアセアンにショッピングモールを展開しています。国内・海外ともに増収増益ですが、国内の営業利益は6.8%増益に留まり回復の遅れが目立ち、中国は営業収益は伸びているものの、ここに来て営業利益が小幅な減益に転じているのが気になります。

決算短信によると、中国では「ゼロコロナ政策に基づく厳しい行動規制が敷かれ」一部のモールが休業するなど、コロナの影響を大きく受けたことが書かれています。中国で行われていたゼロコロナの影響の大きさが窺えます。

出典:決算短信

コロナ前との比較で国内の営業利益は7割弱に留まる

地域別では前期比では中国が小幅な減益に落ちたものの、国内・海外ともに増収増益でした。前期比では業績が回復しているように見えます。ではコロナ前との比較はどうなのか見ていきます。

コロナ前の2019年度=2020年2月期との比較では営業収益は順調に伸びています。ところが営業利益を見ると、中国とベトナムこそコロナ前を大きく超えて成長していることが分かりますが、国内は7割弱に留まっています。

イオンモールは中国やアセアンにも展開しているとはいえ、国内の既存モール85に対して中国は21、ベトナムは6であり、国内の比率が2/3を占めています。国内の回復が遅れていることがイオンモールの業績が伸び悩んでいる最大の要因と言えそうです。

出典:決算短信

専門店売上高は足元で回復している

イオンモールの収益源は売上に連動したテナント収入です。そこで確認したいのが専門店の月次売上高です。ここでもコロナ前の2019年度との比較していきます。

国内既存83モールの専門店売上高推移

いまだコロナ前には戻らず4四半期ともに100%割れとなり、年平均では90.8%に留まっています。

なお下期は94.9%、2月は100%超と緩やかに回復しているように見えます。足元の23年3月は「ウィズコロナへの移行に伴い消費行動は 徐々に活発化し、既存モール専門店売上(前期比)109.4%」とのこと。国内は度重なるコロナ感染増で、何度も回復しては落ちてを繰り返してきましたが、今期はコロナの行動制限が全て解除されたことで今度こそ回復軌道に乗るのか、観察していきたいところです。

出典:決算説明会資料

中国既存19モール専門店売上高

営業収益全体ではコロナ前を超えている中国も、専門店の売上高は4四半期ともに100%割れであり、年平均では85.9%に留まっています。

ゼロコロナの厳しい行動制限で上期にモールの休業を余儀なくされたほか、ゼロコロナが緩和された12月7日以降も感染爆発が起こり、今度は専門店の従業員が出勤できない状況になり、多くの専門店が休業したことが影響しているようです。

なお12月下旬以降は感染爆発の反動で感染者数が急減し、消費行動が一気に活性化し「既存モール専門店売上(前期比)は1・2月累計で113.3%と急回復」とのこと。まさに怪我の功名で、このままコロナが完全収束するなら、今期は大幅な売上増が見込めそうです。

出典:決算説明会資料

本当にコロナの影響だけなのか?

決算書を読むと会社は「業績の回復が遅いのはコロナのせいなんだ」と言っているように取れます。国内・中国ともにコロナによる行動制限と消費行動の変化で打撃を受けたことは確かで、専門店売上高もコロナ前に戻っていないので、その説明にはある程度の納得感があります。

しかし、本当にコロナだけなのでしょうか? 疑問の根拠が利益率の低下で、営業総利益率21.4%→18.9%営業利益率12.1%→11%に低下しています。一方で販管費率も9.4%→7.9%に低下しているので人件費の上昇が理由ではないことが分かります。損益計算書を見ても従業員給料及び賞与は横ばいです。つまり営業原価が増えて利益率が低下していることになります。

出典:決算説明会資料

営業原価の内訳が開示されていないので断言はできませんが、水道光熱費の上昇などをテナント料に転嫁できていない可能性が考えられます。国内モールの売上総利益率は23.8%→20.3%、中国は22.6%→20.1%で日本のほうが低下しています。中国も電気代は上がっているはずですが、日本のほうが物価高が深刻で影響が大きそうです。

また国内の回復が遅い中で、新規モールを次々にオープンさせていることも利益率が下がる要因と考えられます。

キャッシュフロー計算書を見ても営業CF+1014億円に対して投資CF-1032億円であり、稼いだお金と同じくらい投資に回していることが分かります。

コロナ前の最高益は遠い

イオンモールの業績はコロナの影響を受けて回復が遅れています。2期連続で業績の下方修正を余儀なくされ計画未達に終わりました。

今期は経常利益35%増益の490億円を予想していますが、最高益だった20年2月期の9割弱に留まります。

出典:株探

今期こそコロナの影響がなくなって回復軌道に乗ることを期待したいですが、専門店売上高がコロナ前を超えても、足元で起きている水道光熱費の上昇などをテナント料に転嫁できないなら、最高益更新は遠い印象です。


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