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盗まれた狛犬 物部氏のゆかり?信州高遠「守屋神社」

長野県伊那市高遠、伊那から諏訪方面へとぬける峠道R152沿いにひっとりと佇む神社。

名前は、守屋神社
数年前からパワースポットとしてちらほら噂を耳にしていたのに加えて、最近はさらにおもしろい話に出会った。

それは、飛鳥時代の大豪族である物部守屋にゆかりがあるということ。


由緒ありそうな感じです

神社の背後にそびえるのは標高1,650mの守屋山もりやさんで、初心者にも登りやすい低山として、このあたりでは人気の山です。

言い伝えによると、

大和政権の中枢にいた物部守屋だが、582年に蘇我馬子との戦に敗れた。その守屋の次男が諏訪の地に逃れて、諏訪大社神長・守矢もりや氏の養子となり神長職を継いだ。そして森山に物部守屋の霊を祀ったので、守屋山と呼ぶようになった。

「諏訪の神さまが気になるの」より抜粋


いやいや、いくらなんでもそれはこじつけ過ぎでは?
しかし、長い歴史を持つ諏訪大社の筆頭神職家に伝わる古文書に書かれていること。無下にもできません。


「物部守屋神社」とあります


狛犬さん

この狛犬をみたとき、あれっ?と思いました。
石段や鳥居のつくりと比べるとずいぶん新しく、なんだかちぐはぐな印象。ちょっとした違和感を感じたのです。

ふむ。しかし何はともあれ、まずはお参りしましょう。


階段の先にある拝殿

境内ですれちがった参拝者はわずか2組、山へ登る前か後かという出で立ちでした。きっと守屋山の登山者でしょう。

さきにお参りしていた方が長く丁寧なお祈りを終え、慣れたようすで拝殿から竹箒を取り出したと思ったら、おもむろに落ち葉などを掃き清めはじめました。

地域のかたかな? 挨拶をすると、

「あ、こんにちは。どうぞ、お参りしてください」

笑顔で返してくれました。
ではと、お賽銭を用意しながらもたもたしていると、

「ごめんね、賽銭しにくいでしょ。格子扉があって」

たしかに、賽銭箱は格子扉の内側にあり、手を入れるのに気をつかいました。無人の神社ではときおり見かけるつくりです。

「まえに賽銭箱が盗まれたことがあってね。何しろ賽銭よりも賽銭箱を作る方がお金かかっちゃうから」

賽銭箱が盗まれる・・・どこか遠い場所の話かと思っていましたが、こんな(と言ったら失礼ですが)ところでもあったなんて!なんと罰当たりな輩がいるものだと憤慨していたら、さらに驚きの話が飛び出しました。

「ここね、狛犬が盗まれたこともあるんだよ。パワースポット?とかで有名らしくて」

こ、狛犬―?!
賽銭箱はまだわかる、てっとり早く現金調達できるから。
でも、狛犬は・・盗んでどうするの? 闇サイトで売買? それとも単なる自己満足コレクター?

いや、どちらにしてもとんでもないこと。神社の狛犬を盗むなんて。きっとバチがあたりますよ・・おじさまに言葉を返すと、

「それがね、数年後に戻ってきたんだよ。神社の横にね、ある日置かれてた。せっかく盗んだものをわざわざリスクを冒してまで戻しにくるなんて、よっぽど怖い目にあったのかねって、仲間で話したよ」

なんと!戻って来た!
それは間違いないく天罰が下ったのでしょう。狛犬さん、マイホームに帰ってこられてよかったね。


帰還しました!


斜め45度


後ろ姿

くりっとした目、ボンレスハムのような弾力を感じさせる腕、もふもふした尻尾の後ろ姿、どこから見てもとても素敵。とくべつ狛犬マニアというわけではないのですが、こちらの狛犬さんにはただならぬ魅力を感じました。

帰還したのは大変喜ばしいことですが、しかし神社ではすでに新たな狛犬が置かれたあとだったので、先代はこうして社殿のそばに据えられたのだそう。

鳥居前の狛犬をみて感じた違和感は、そういうことだったのですね。

拝殿へお参りしたあと、さらに後方にある本殿(これまたおじさまに教えていただいた)へもお参りします。雪が降ったらちょっと怖そうな階段ですが、きょうは大丈夫。


本殿


本殿脇の石碑と祠

お参りを済ませてまわりの石碑や祠を眺めていると、あとから来た登山スタイルの二人組が、さらに奥の山の方へと向かって歩いてゆきました。どうやらここから守屋山へ登るルートがあるようです。

ふたたび階段をおりて拝殿へもどると、さきほどのおじさまの姿はもう見えません。こちらの神社には御由緒が書かれた案内板のようなものが何もないので、そのあたりのことを聞いてみようかと思ったのですが・・・ちょっと残念。


帰りみち

狛犬の衝撃的な話にすっかり気をとられていましたが、帰りみち、あらためてこの神社をじっくり味わってみました。

赤松が多くみられる境内、ゆるやかな階段をおりながら耳をすませると、この季節にしては珍しく、かわいい小鳥の声が聴こえます。脇を流れる小川のせせらぎも僅かにとどき、清廉な空気を感じました。

とても気持ちよく、わたしとの相性も良さそうです。



車へ戻ってポットの白湯を飲み、ほっとひといきついた後、冷たくなった手をこすり合わせながらついつい妄想しました。

盗賊はどんな怖いめに遭ったのだろう?

夜な夜な狛犬が憤怒の表情で現れて、金縛りにあったとか?
身の周りに、不幸が立て続けに起こったとか?

知りたいような、知りたくないような。


鳥居の脇にしだれ桜らしき木もあったので、また春になったら訪れようと思います。そして守屋山に登るのが、今年のひそかな目標です。

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