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トルコの攻撃で団結するクルド


トルコが9日に突如シリア領への侵略を開始して以来、世界はクルド人の運命に大きな同情を寄せています。もはやクルド人の友人は山だけでなく親トルコ勢力を除く全世界になろうとしています。クルド人内部にも団結の機運が生まれています。クルド人の最大の敵はトルコでもイラクでもイラン、シリアでもなく内部分裂でした。クルド人を倒すのに兵も武器もいらない、ただ分裂を煽ればいいという言葉もあるくらいです。トルコがクルド敵視政策にシフトするきっかけになったシェイフ・サイードの乱でも少数派アレヴィークルドはアタテュルク側に付きました。またシェイフサイードの落ち武者は落ち延びた先のイランでもクルド人の攻撃に曝されました。イラクのクルディスタン地域はクルディスタン民主党(PDK/KDP)とクルディスタン愛国者連盟(YNK/PUK)に分断されています。クルディスタンの歴史において、ある部族が強力になり国家樹立の動きを見せると対抗する別の部族ないし宗派のクルド人が体制側につくということが繰り返されてきました。北シリアを指導する「民主統一党(PYD)」の党名にはこうした負の歴史を克服しようという意志が感じられます。

クルディスタン地域政府(KRG)の大統領ネチルワン・バルザニはアメリカ軍部隊が撤退しシリアの侵略が迫る8日ロシア外相ラブロフと会談し、シリアのクルド人を守るよう要請しました。元大統領マスード・バルザニもシリアのクルド人の防衛のために動いていると報じられました。KRGはトルコ寄り姿勢を見せてきました。トルコが北部の山地を空爆し国土に兵を駐留させても断固たる措置は取りませんでした。というのもトルコがイラク越境の口実とするクルディスタン労働者党(PKK)は、トルコの学生運動の残滓から生まれ、反部族主義勢力として旗揚げした経緯があります。部族の頭領という性質を色濃く残すバルザニは激しく敵視しています。反部族闘争の機運が高まることを恐れているからです。バルザニはPKKとイデオロギーを共有するシリアのPYDとその軍事部門人民防衛隊(YPG)も敵視しています。しかし、2014年後半から2015年1月にかけてのイスラム国によるコバニ包囲の際に、バルザニの私兵ペシュメルガは現地入りしたと伝えられています。

KRGはシリアから難民となったクルド人を受け入れました。

マスード・バルザニはトランプに向けて「クルド人の血は(トルコに売却される)兵器や(トルコから得られる)金よりも尊い」とツイートしました。

トルコの人民民主党(HDP)はバルザニのメッセージを歓迎しました。バルザニの行動の背景にはシリアに自身の影響力を及ぼそうとする下心があることは明白です。とはいえ同盟相手のトルコに配慮せずこのような動きをしたことは歓迎すべきです。

今回の攻撃に対するクルド人の反応で特筆すべきはイラン領東クルディスタンにおけるデモです。

イランはクルド運動においてフォーカスされない地域でした。イランのクルド人は政権嫌いではあっても、クルド民族主義より「イラン」という枠組みを優先していると思われてきたからです。2017年後半から年末、翌年にかけてのデモのように、時折東クルディスタン全域で反政権デモが吹き荒れることはありました。全クルディスタン的なキャンペーンに呼応した動きは報じられることは少なかったと言えます。イスラム国によるコバニ包囲の際には大きなデモがあったようです。

今回の軍事行動の前段となった昨年のアフリン侵略でも、目立った反応は無かったと思われます。イラン当局は今回の動きを自国に対する抗議ではないのでガス抜きとして容認している可能性はあります。イランはトルコの軍事行動に激しく反発しています。侵攻直後には無通告の軍事演習を国境地帯で実施したとも報じられました。イラン当局からすると官製デモ扱いなのかもしれません。

トルコ国旗をつけたロバを先頭にトルコへ抗議するデモも行われました。

ペルシャ語で「トルコに死を」を叫んでいます。これはイランではアメリカとイスラエルに対して用いられるフレーズです。

トルコはNATO加盟国中2位の軍事力を過信し冒険を始めました。耄碌するエルドアンは「クルドを倒すには分裂を」という基礎を忘れてしまったようです。シリアのクルド人はイスラム国との戦いを通じて国際社会を徐々に味方にしてきました。そして今トルコの侵略により内外のクルド人の団結も強まっています。装備に劣るクルド人は知略で既にトルコに勝っています。

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