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合成生物学の衝撃 (須田 桃子)

(注:本稿は、2020年に初投稿したものの再録です。)

 久しぶりのサイエンス関係の本ですが、生命科学の現在の到達点が素人にどの程度理解できるものなのか、興味深く読んでみました。

 以下、特に印象に残ったくだりを書き留めておきます。
 MITで「遺伝子ドライブ」を研究しているケビン・エスベストの言葉です。

(p71より引用) 遺伝子ドライブは、たった一つの実験室での事故が、実験室の外の多くの人々に影響しうる特殊な技術だ。それは科学に対する社会の信頼を破壊しかねない。だからこそ、僕は最良の防衛策は、規制ではなく、すべての科学を公開で進める仕組みを確保することだと考えている。そうすれば、人々は研究全体を眺め、何が起きているかを把握し、科学者が危険なことをしようとしているときは警告する。何をしているのかが分からなければ、要望することもできない。もし科学が公開で行われれば、事前に問題を特定し、研究が害にならないようにすることができる。

 「遺伝子操作」「ゲノム編集」は倫理上の問題はもとより、想定外の生命体を生み出してしまうという自然環境に対するより現実的なリスクを抱えています。また、軍事目的への転用という “デュアルユース” の可能性とも同居しています。

 ケビンの提案は対応策としてはひとつの有益な案だと思います。他方、こういった研究が実施される以上は、物理的に「外部に流出する」可能性を「0」にすることはできないでしょう。

 とすれば、その「流出の影響」を “どこまでリスクとして甘受できるか” という「覚悟」の問題に帰結するように思います。そして、その「覚悟の正否」を“オープンに検討・検証できるようにしておく” ことです。

 覚悟が「個人レベル」だとすると、それは極めて危険です。絶対避けなくてはなりません。



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