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未来を予見する「5つの法則」 (田坂 広志)

 田坂広志氏の本は、以前、「これから知識社会で何が起こるのか‐いま、学ぶべき「次なる常識」」を読んだことがあります。
 本書は、前書に似たトーンで、田坂氏が予見した「未来の方向性」が紹介されています。

 田坂氏は、未来の予見にあたって「哲学」が必要だといいます。それが「弁証法」です。
 田坂氏は、弁証法が教える社会の変化・発展・進化の法則を「5つの法則」として整理しています。

(p17より引用) 弁証法の「五つの法則」
第一の法則-「螺旋的プロセス」による発展の法則
第二の法則-「否定の否定」による発展の法則
第三の法則-「量から質への転化」による発展の法則
第四の法則-「対立物の相互浸透」による発展の法則
第五の法則-「矛盾の止揚」による発展の法則

 第一の「螺旋的プロセス」による発展の法則から敷衍される未来の予見のヒントとして、著者は以下のように語っています。

(p67より引用) 世の中の変化において、何かが消えていったとき、それを、ただ「存在理由が無くなったので消えた」と思うべきではないのです。
 むしろ、消えていったものが持つ「意味」や「存在理由」を、深く考えてみるべきなのです。
 なぜなら、そのことによって、見えてくるからです。
 これから、何が「復活」してくるか。
 その「未来」が、見えてくるからです。

 「消えていったもの」の「存在理由」によっては、時代の要請がその優先順位を下げているだけかもしれないというのです。その場合には、時代の要請が極大点を過ぎて回帰してきたとき、過去に「消えていったもの」が、再度新たな姿で脚光を浴びる可能性をもつことになるのです。

 つぎに、第二の法則です。この例のひとつとして、著者は「市場の進化」をあげています。

 ネット革命の進展によって、売り手から買い手(顧客)に主導権が移り、「中間業者(ミドルマン)」を中抜きするモデルが台頭しましたが、最近は「中間業者」が復活してきました。しかし、その中間業者は、以前とは異なる「ニューミドルマン」だといいます。

(p105より引用) 「ミドルマン」と「ニューミドルマン」は、何が違うのか。
 向いている方向が違うのです。
 小売や卸売などの「従来の中間業者」(オールドミドルマン)は、「企業」の方を向き「販売代理」のビジネスモデルで仕事をしていました。
 これに対して、「新しい中間業者」(ニューミドルマン)は、「顧客」の方を向いて「購買代理」のビジネスモデルで仕事をするのです。

 第二の法則-「否定の否定」による発展の法則により、否定されていた「ミドルマン」が再度否定されて「ニューミドルマン」として復活するというわけです。

 これらのほかに、第三以降の法則の説明が続きますが、ちょっと面白いヒントになる考え方だと思ったのが、第五の法則について書かれていた点です。
 著者は、第五の法則-「矛盾の止揚」のためには「割り切らない」ことが重要だと説いています。

(p151より引用) 企業にとっての「矛盾」とは、ある意味で、それがあるからこそ、企業の「生命力」が生まれるのです。
 従って、企業が抱える「矛盾」を機械的な「割り切り」によって解消してしまうと、「矛盾」とともに、「生命力」や「原動力」も消えてしまい、進歩や発展が止まってしまうのです。

 著者が勧める「矛盾」を止揚するマネジメント法は、「振り子」のようにバランスをとって振る舞うことです。「振り子」を振り続けながら、長期的に矛盾を止揚していくのです。

 さて、最後の章で、著者は、「弁証法的思考」をもって予見される未来の姿を12の「パラダイム転換」としてまとめています。
 そのうちのひとつ。多様な価値観を受容する時代の到来についてのフレーズです。

(p207より引用) 「多様な価値観の共生」という言葉は、しばしば、「異なった価値観をも、許容して、その共存を認める」という意味に、誤解をして使われることがあります。
 しかし、この言葉の本当の意味は、「異なった価値観が共生することに、最大の価値を認める」ということであり、それこそが、「コスモロジー」のパラダイムに他ならないのです。

 「異なった価値観の許容」に止まらず、積極的な意味で「異なった価値観があることが大事だ」との主張です。



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