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折れない心の作り方 (齋藤 孝)

 齋藤孝氏の著作は、以前にも「私塾のすすめ-ここから創造が生まれる」「日本を教育した人々」等何冊か読んでいます。

 本書は、それらと比べるとちょっと趣きの変わったものです。
 昨今特に、ほんのちょっとしたことで傷つく、自信を喪失するといった人々が目立ってきています。そういうデリケートな若者に対する齋藤氏流の「こころの処方箋」です。

 齋藤氏の主張のキーワードは「自己肯定力」です。

(p21より引用) 自分を保つ力、自己を肯定できる力を持てれば、他人から承認、肯定してもらうことに依存しなくてもいい。
 他者とのつながりを必要としないのではなく、他者からの承認要求を小刻みに求めつづけなくても大丈夫な自分、安定した自己を築くことができる。

 「自己肯定力」を強化するためには、「縁」「深く交わる力」「アイデンティティ」の3つの要素が重要と話します。

 まずは、「縁」

(p39より引用) その出会いが何を生み出したか、自分にとってプラスがどのくらいで、マイナスがどれくらいか、といった計算を度外視したところで続いている関係こそが、人生にとってかけがえのないものになる。

 「腐れ縁」を積極的に評価にし、「縁」による偶然の触発を大事にします。

(p53より引用) 初めから計画を立てて拡張していく事業というのは、人の想像できる範囲のものに収まってしまいやすい。ところが、外の世界の何かに触発されて展開していくところには、予想を超えた面白さがある。

 次に「深く交わる力」
 人との関わり方はネット社会の進展にともなって大きく変わってきました。
 私の学生のころは友達の下宿に行き来したり、寝泊りしたりするのが普通で、そういった環境の中で体感的な他人との接点がありました。
 今は直接的な交わりが希薄で、その分、他人と接する皮膚感覚がきわめてデリケートになってしまいました。他人の言葉に対する耐性が、明らかに弱くなったようです。

(p119より引用) 元々、批評精神というものは、自分のワールドに埋没するのでなく、他者性を持って外の意見を取り入れることを非常に価値のあるものだと見なすところから始まっていた。たとえ完膚なきまでにやっつけられて敗北を喫したとしても、その応酬によって成長することができるという発想のもとに立っている。

 齋藤氏は、「縁」「深い交わり」を通して、自己肯定の礎となる「アイデンティティ」が確立されていくと説いています。

(p220より引用) 縁と深い交わりとアイデンティティというのはそれぞれ別のファクターだが、縁があって深く交わったものは自分のアイデンティティの一部になっていく。

 「アイデンティティ」を強く持つための方法のひとつとして齋藤氏は「私淑」というコンセプトを紹介しています。

(p199より引用) 心の味方や心の師を持つと、自己否定に潰れなくなる。

 「私淑できる人物をもつ」ということは、自分を孤立化することを防ぎ、自分と他者とのつながりの根を自覚させる有益な方法だというのです。
 「尊敬」というよりも「自己の思い込み」を感じるおもしろいコンセプトだと思います。


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