(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)
いつも利用している図書館の新着書リストの中で見つけていたのですが、長い長い予約待ちで、手にするのが遅くなってしまいました。
白井聡さんの著作は以前「永続敗戦論」を読んだことがありますが、本書のスコープは “現代” によりウェイトがかかっています。
本書においても、白井さんはとても明晰で鋭利な立論を展開していますが、まずは、その手始めとして、「主権者のいない国」になり下がった日本の近年の状況(≒安倍一強体制)を、政治学者中野晃一氏が提起した「2012年体制」という概念を紹介しつつ、こうコメントしています。
とても辛辣な書きぶりですが、さらに白井さんは、本質的な問題をこう設定しました。
こちらも今の国民に対するかなり強烈なメッセージですね。
そして、こう議論は進んでいきます。
まさに、この課題設定とその回答が本書の核となっています。
その「闇」とは、「戦前天皇制国家から引き継がれた臣民メンタリティに内在する奴隷根性」だと白井氏は喝破するのです。
この「奴隷根性」は、現下の新型コロナ禍という社会状況のもとでは、たとえば、こういう形で表出してきます。
もう一点、私の興味を惹いたテーマが「反知性主義」でした。
この「反知性主義の思考様式」について、白井さんは、日本人の特性と言われる「同調圧力」から議論をスタートさせます。
さて、本書を読み通しての感想です。
ひと言でいえば、前に読んだ「永続敗戦論」と同様、白井さんの論考はとても刺激的で首肯できるものでした。(ただ、ところどころ “哲学的思索” が登場すると、私の理解力がまったくついて行けなくなるのが情けないのですが)
一点、強いて付言すると、白井さんの著作は、自らの思索の表明という意味では十分にその役割を果たしているものだと思いますが、本書でもしばしば指摘しているような “現下の「戦後の国体」を維持しようとする支配層とそれを支持する群衆” という構造の変革を求めるのであれば、こういった著作とはまた別の手立てが必要だろうと感じました。
白井さんは、本書の終章でこう叫んでいます。
そのとおりではありますが、ただ、今の社会状況に対して問題意識を持っていない人々は、そもそも本書を手に取ること自体、稀だと思うんですね。
“人として当たり前の欲望に目覚めさせる” 役割は、また別のアプローチに委ねるざるを得ないのでしょうか。その有力候補は “マスコミ” であり “メディア” のはずですが、今はそれらへの信頼性は絶望的なほど揺らいでいます・・・。
こういった劣化したマスメディアの現状も踏まえると、私たちは「ひとりひとりが、自らの “主権者としての決意” を何らかの行動という形で地道に継続することで、諦めることなく周りを感化していく」という道程を重ねざるを得ないのでしょうね。