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『Blue』


「あおが好き」と自分に言い聞かせるように囁いたら、「落ち着いてる色が好きなんだね」と彼女は言った。 

「待たせいたしました、カチョ・エ・ぺぺです」とギンガムチェックのコックシャツを着ている女性が言った。

カルボラーナを頼みたかったのにローマの名物パスタという説明文に惹かれて頼んでしまったことを後悔する。

婉曲に意味を伝えようとするようなフォントで「いかれた幕情が好きです」と一言プロフィールに載せていた彼女が「他にはなにが好き?」とやわらかな声で言った。

携帯が光り「今夜夕飯いらないかな?パスタくらいなら作りにいくよ」と色白であろう女性が煙草を喫いているロック画面がInstagramのバナーに表示され、僕はカカオフィズを飲み干した。


「いらっしゃいませ何名様でしょうか?」と声が聞こえ、送り梅雨特有の湿気が身体に纏わり付く。


かさ



「もう一件行かない?」と彼はいい。
流されるがまま「うん行こうか」と私は言った。

雨が降っていて気温はさほど高くないのに、じっとりと蒸すような夜だった。

雑多な居酒屋に入った。
彼の緊張の糸が解れたことを感じた。
笑い方や独特の言葉遣い、たまに見せる笑った顔が好みだった。

関西弁に憧れ、わざわざ大阪に実習がてら旅行に行った話を聴き写真を見ながらツッコミを入れ合う。

少し不細工な関西弁も愛おしく感じた。

二時間もすれば、汚い部分すら見たくなるほど惹かれている私が居た。


路地裏渋谷


オンボロな階段を上がり、麦わら帽子を被った小綺麗なワンピースを着た少女がブランコに揺れているリトグラフが飾ってある部屋に入った。 

「麦わら帽子が似合いそうだよね」と僕は言った。

心の中で思ったはずがいつのまにか口に出てしまうことが僕にはよくある。

グレージュ色の髪が靡くように振り向いて「そんなことないよ」とやわらかめな声で彼女は言った。

外と同じくらい蒸し暑く感じる部屋で腰を下ろした。

引っかかっていた言葉を口にしようと思った。
だけど、言葉の蕾の上に彼女の話が被さり言い出すことは出来なかった。

黒のブラウスから肩が出ていて、かなり細いのになだらかに曲線を描いていて柔らかそうだと思い視線をずらした。

彼女の肩が僕の肩にこすれ、傘に収まりきれずに濡れた暖かさを感じた。

剥がれているペデュキュアを目恥ずかしそうに手で隠す仕草を見ながら香水の匂いを感じ動悸が早くなった。

彼女は火照った顔で「どうしたの?」僕の名前を呼び見つめて言った。
視線を逸らさずに「どうもしてないよ」と僕は言った。

拍を置いた掛け時計のbpmが早くなったような気がした。僕は彼女を見つめ続けることができず視線を逸らした。

経堂の古着屋で買ったというハングルに触れ、指一本一本をなぞるように彼女の指が絡まる。


リトグラフ


隣で眠る彼女の携帯が光った。
知りもしないはずのユーザー名を覗き込み、僕は身支度を整えライターをポケットにしまい部屋を出た。

窓から朝焼けの光が差し込んで梅雨の終わりを感じた。アメスピを咥えながら「ごめんね。忙しくて寝てた。今日会えそうだから会えるかな?」とDMを返す。


朝焼けの光が似合わなくて笑ってしまう。
電車沿いの信号機はまだ青に点滅をしていなかった。

朝焼けに照らされる青い煙を眺めながら、

「おーい 明日はいい天気だからBBQでもしようよ」高校の時から、仲良い友達のグループラインを覗き込んだ。


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