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永遠の愛。

「彼、私のことが好きなの」

冬にしては暖かな日差しの入るカフェで、彼女はアイスティーのコップを少し傾けながらそう言った。
揺れた氷が、からん、と音を立てて光った。

一瞬、視線を落として、私はそれを「うん」と小さく肯定した。

彼女は嬉しそうに彼のことを語った。
幸せそうな彼女の顔を見ていると、私はなんとも言えない気持ちになる。

ーー好きって、そんなずっと続くものなのかな。

私にはよくわからないことが二つある。

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ひとつは、相手がずっと自分のことを好きでいてくれるという確信めいた気持ちだ。

私からすれば、人なんて瞬きのその一秒に満たない時間で誰かを嫌いになることが可能だと思っている。

きっと冷たいのだろう。いや、怖いのかもしれない。
得体のしれない「永遠の愛」というものが、私は怖いのだろう。

今、愛を囁いてくれている彼が、明日には自分のことを嫌いになるとは思わないのだろうかと思う。

ただ、これは私が「不倫をされた」ということを経験していることが大きく影響しているから、分からない人は分からなくていい感覚だと思っている。

わからないけれど、誰かの愛を信じられることは素晴らしいことだと私は思っているし、私もいつかそういう信じられるものを見つけたいと思っている。

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ふたつめは、好きな人が複数人いるひとの気持ちだ。

好きにはいろいろある。
でも私の中で「体を許すほどの好きな人はひとりしかいない」ので、それが複数人いる人の気持ちがさっぱり分からない。

こちらも好きで、あちらも好きなのだという。

それは昔元旦那が説明してくれたから知っている。
知っているだけ、だが。

好きにもいろんな形があるよな、と思う。

彼女の言う「彼」という存在は、彼女のことも好きで、きっと奥さんのことも好きなんだろう。
定型文みたいな「彼、奥さんとは仲が悪くて」なんて言葉を彼女の口から聞いて、良かったね、なんて返事をするのは、私にはとても難しい。

彼女は彼の「好きだよ」を信じている。
そこに永遠が、あるようなそんな勢いで。

私にはそれが、うまく信じられない。
私の世界では愛も、恋も、一瞬で消えてしまうものだから。

楽し気に話す彼女の言葉をうまく咀嚼できないから、私が頼んだホットコーヒーはなんだか味がしなかった。

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