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日本の民藝館めぐり(1)松本民芸館

二月。雪国育ちのわたしにとって、東京の冬は晴れて過ごしやすくも、乾いた空気がつらい季節です。そのうえ今年は、年明けすぐにかかったインフルエンザが体というより心に深くダメージを残し、なかなか癒えてくれません。

わたしは心身を潤そうと、特急あずさ松本行きに乗りました。車窓の景色は徐々に都会を離れ、山梨県を過ぎたあたりでしょうか。ちぎり絵のように山が幾重にも重なって、水分をたっぷり含んだ灰色の雲がどん帳のように降りてきています。どこまでが地上で、どこからが空なのか。曖昧な世界に時おり雪が舞い、なんとも冬らしい景色。しかしその冬も一瞬で過ぎ、あずさは終着駅に止まりました。

旅の目的は、長野県松本市にある「松本民芸館」です。

松本市は、松本城を中心に発展した城下町。わたしはこれまでの少しの経験から、焼き物の窯元とお城はセットだなぁと感じていたのですが、松本に○○焼があるというのは聞いたことがありません。はたして民芸館では、どんな出会いがあるのでしょう。

松本駅に到着すると、外は雨。左手で傘をさしながら右手でリモワを転がし、旅館へと向かいます。心身を潤す旅、違う意味で潤いすぎて寒々しいスタートです。初日は民芸館に行かず、市内を観光したり旅館に置いてある本を読んだりして過ごすことにしました。

桜咲く季節の晴れた日に行ってみたい松本城。冬の曇り空では、ちょっと重たいです。

内部は当時のまま。柱に残されたノミの跡、黒光りする板の間、開放的な月見櫓が印象に残っています。

雨が降っていきいきしているビオランテ。ではなく、草間彌生。松本市は草間さんの故郷。松本市美術館には、これでもか!という量の草間作品が常設されています。体感型の作品も多く、草間ファンではなくてもアートを楽しめそうです。

松本民芸館の初代オーナーとなる丸山太郎が営んでいた、ちきりや工芸店。店内は国内外の工芸品が天井までぎっしり。器などの手軽に買えるものから、美術館に展示されていそうな逸品までありました。

宿泊はまるも旅館。昔ながらの建物に置かれた松本民芸家具。プラス1,000円くらいで、小躍りしたくなるような「ザ・旅館の朝食」をいただけます。

翌日。晴れ渡った青空に気持ちが高まります。美ヶ原温泉行きのバスは松本城のお堀に沿って半周分だけ走り、市街地を離れました。数分後には車内アナウンスが「松本民芸館」を知らせます。バスを降り歩いてすぐ見えてきたのは、冬の木立と漆喰の長屋門。松本民芸館です。どんぐりでできたかわいらしい雛人形が迎えてくれました。

松本民芸館は、前出のちきりや工芸店店主 丸山太郎が創館しました。国内の民芸品はもちろん、世界各地の品々も多く、民藝運動のコアメンバーの写真や手紙も豊富に展示されているところが、他のローカルな民芸館にはない特徴に思います。

先ほどの写真のこたえがこちら。柳宗悦、河井寛次郎、棟方志功、濱田庄司らそうそうたるメンバーが集まっています。

ここから先、松本民芸館でみつけたお気に入りを気ままに並べました。

民芸のあるところに、バーナード・リーチあり、ですね。

長野県にはかつて「浅間焼」がありました。やはり、焼き物の窯元とお城はセットでした。浅間焼は、交通の発達により競合に負け、大正時代に廃窯となったそうです。民芸は、今となっては贅沢な世界です。

メキシコの人形。人に民芸が好きだと言うと、たいがい「渋いね」の一言で済まされますが、これなんて自由が丘あたりのインテリアショップ(今っぽく言うとライフスタイルショップ)に置いていそうです。

丸山氏が孫たちにおくった愛情あふれる手描きの絵本。孫のためだけとは、世界一贅沢な絵本です。

緻密に編まれた鈴竹のお弁当箱。このあとに寄った上原善平商店で似たようなものを買えばよかったと、今になって後悔しています。

外国のお面なんかもチラホラ。さすがちきりや商店の丸山氏が創館した民芸館です。

松本民芸家具の代表といえば椅子かもしれません。細かな細工や曲線美が自慢の個性あふれる六脚がおしゃべりしていました。

こちらが民芸館の最後の部屋です。ここまで来ると、もうお腹いっぱい。良いものを後世に伝えたいという丸山氏の誠意と熱意を感じたひとときでした。

帰路につく前に柏善上原善平商店へ寄り、山のように積まれた国産のカゴやザルの中から、ひとつだけ購入。

帰りのあずさは、冠雪富士のおまけつきでした。

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