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オレのウダツが上がるまで

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くも膜下出血で倒れた40代男が、遠のく意識の中で何を思うのか・・・。
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オレのウダツが上がるまで(あとがき)

九年前父親を亡くしました。

亡くなる二年程前に前立腺ガンを患い、本人はガンという事に大変衝撃を受け、今まで見たコトがない程、憔悴していました。

でも医師に「進行が遅いガンで、寿命が先か・・・といったモノでしっかり治療すれば大丈夫ですよ。」と言われ、当時66歳だった父は徐々に生きる気力を取り戻していきます。

その時よく耳にした言葉が「ワシはようもって二年くらいやろな!」でした。

何を根拠にそ

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オレのウダツが上がるまで(最終話)

ーーーコウキは届いた封書の
   その軽さとは真逆に
   何か重みのあるモノを感じた。

   「国際デザイン連盟」・・・。

   ヒロヨシの職業はデザイナーだ。
   
   客の要望に応えるよりも
   自分の思いをぶつけ過ぎる
   傾向があったタメか
   変わりモノ扱いされ
   お世辞にも順調な受注とは言えない
   売れないデザイナーだった。

   ヒロヨシが倒れる前の
   

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オレのウダツが上がるまで(第二十九話)

〜残された者たち〜ーーーヒロヨシが亡くなると
   家族はすぐに葬儀の手配に
   取りかからなければならず、
   突然現実の世界に引き戻される。

   喪主はコウキが務めるコトになった。

   ヒロヨシは密葬を希望していたので
   身内以外にはごく親しい
   彼の古くからの友人や
   仲良くしていた近所の人たちに
   声をかけた。

   慌ただしく過ぎる時間というのは
   悲し

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オレのウダツが上がるまで(第二十八話)

〜さよなら現世〜

ーーーヒロヨシの脈拍が下がり始めた。
   
   ベッド横のモニターからは
   危険を意味するアラームが
   病室内に鳴り響いた。

   医師達が駆け付ける。

   でも動揺しているのは
   家族だけだった。

   医師達にはもう分かっている事だ。

   脈拍は下がり続ける。

   苦しそうなヒロヨシを見て
   家族はただしっかりと
   彼の手を握り、
 

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オレのウダツが上がるまで(第二十七話)

〜遠吠え〜オレのおじいちゃんは
亡くなる前にこう言ったそうだ。

「我が人生に悔いなし」と。

オレもそう言いたかったけど
残念ながらその言葉を
胸を張って言えるほど
全てをやり切っていない。

でも悔いを残さないタメに
思いついたコトは
なるべくやってみるようにした。

たとえそれが
ウマくいってもいかなくても
やるにはやったんだから
そこは良しとしていいよな。

負け犬の遠吠えかな。

でもオ

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オレのウダツが上がるまで(第二十六話)

〜真っ白な空間で〜ーーーヒロヨシが倒れてから
   十日が過ぎようとしていた。

   これまでの感覚と違い、
   どこかずっと彼方の
   なんにもない真っ白な空間

   そんな場所にいるような
   気持ちだった。

妻はソバにいるのか?

コウキは?マイは?

誰の気配も感じないぞ・・・。

ーーー延命処置により息はしているが
   長くても1〜2週間の命だろうと
   皆、医師から聞か

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オレのウダツが上がるまで(第二十五話)

〜理由〜ーーー真夜中に実家で
   ヒロヨシの遺書みたいな手紙を
   全て読み終えたコウキは
   しばらくの間、部屋の天井を
   ボンヤリ眺めていた。

   顔を天井に向けるコトは、
   父と過ごした
   これまでの日々を思い出すと
   どうしようもなく流れ落ちる涙を
   食い止めるのに都合が良かった。

   ヒロヨシは口うるさい父親だった。

   それは
   コウキが不器用

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オレのウダツが上がるまで(第二十四話)

〜遺書みたいな手紙・その3〜「マイへ」

オマエは女だから
お母さんの気持ちを
一番分かってあげられるよな。

お母さんが困ったり
悩んでいたりしたら
話をよく聞いてやってくれよ。

お母さんはあまり弱音を吐かない。
その分全部一人で抱え込んでしまうんだ。

いつもと少し様子が違うなと感じたら
きっと何か悩んでいる。
間違いない。

マイがソレを感じてくれさえすれば
お母さんもソレに気付くんだ。

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オレのウダツが上がるまで(第二十三話)

〜遺書みたいな手紙・その2〜「コウキへ」

コウキ、オレがいなくなったら
くれぐれもお母さんのコトを頼む。

お母さんはオマエたちの前では
気丈に振る舞っているかもしれないけど
あれでなかなか弱いトコロがあるんだ。

だからオマエたちが支えてやってくれ。

オレもまさかこんなに早く
自分が死んでしまうなんて
思ってもみなかったからな。

コウキとマイだけが頼りなんだ。

もう少しは生きて
オマエた

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オレのウダツが上がるまで(第二十二話)

〜遺書みたいな手紙・その1〜「妻へ」
家族に宛てた手紙。

自分がこの世からいなくなるとか、
考えたコトもなかったからさ。

ちょっと照れ隠しに
遺書みたいな手紙ってコトで。

「妻へ」オレがガンになったってコトで
こんな手紙を書いている。

まさか自分がガンになるとはな。

オレ自身ビックリしているんだ。

オマエには本当に迷惑をかけてきたな。

オマエは自分の仕事を
持ってはいたけど
オレがし

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オレのウダツが上がるまで(第二十一話)

〜予兆〜ーーー脳死を告げられたヒロヨシ自身も
   さすがに何かを感じていた。

   四度目の破裂のその瞬間、
   突然どこか未知の世界にでも
   吹っ飛ばされたような感覚があった。

あれ、オレどうしたんだろう?

何か違うな。今までと。
フワフワしてるっていうか
宙に浮いているような感じ。

もしかしたらもう死んじゃったのかな?

あ、そうそう。
もし本当に死んじゃったのなら
あの時家族

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オレのウダツが上がるまで(第二十話)

〜遺書〜ーーーコウキが実家に着いたのは夜の0時頃だった。

   誰もいない実家
   妙に物悲しい空気感

   つい最近までヒロヨシがここで
   生活していたこの場所

   コウキはそれまで涙を流すコトを
   必死で押し殺していた。

   でもここに着いた途端それは解き放たれてしまった。

   コウキがヒロヨシの脳死を告げられた後、
   なぜか急に直感というか、
   何かの知らせ

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オレのウダツが上がるまで(第十九話)

〜その言葉の重み〜ーーー大学病院への搬送も出来なくなり、
   目の前のヒロヨシを呆然と見守るだけ・・・。

   “脳死” という言葉を耳にして
   妻や子供達は “もしかして”
   という一つの単語に
   二つの意味を持たなければ
   ならなくなってしまった。

   そしてその二つの意味すらまた
   一つの現実にさらされる事になる。

   夜明け前、三度目の破裂が起きてしまったの

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オレのウダツが上がるまで(第十八話)

〜予期せぬ日〜ーーーヒロヨシが大学病院に
   搬送される正にその時、
   落ち着いていた症状が急変する。

   脳内で2回目の破裂が起きたのだ。

   「この破裂は取り返しのつかない事態に
    成り得るかもしれません・・・。」

   すっかり搬送の準備をして、
   なぜだか安堵感までをも抱いていた家族は
   医師の容態の急変という言葉に耳を疑った。

   医師はこう続ける。

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