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アボジの作品 #4

このエッセイは、2017年、約4か月にわたり韓国の有機農家さん3軒で農業体験取材を行い、現地から発信していたものです。これから少しずつnoteに転載していきます(一部加筆、修正あり)。

2017/05/12

 今朝、トマトのハウスに行くと、作業の前にトマトさんのアボジお父さんがこんなものを見せてくれた。

トマトさんのお父さん

 1年前からタンクの中で発酵させてきたトマトだという。上からギュッと押すと発酵液がジュワッと染み出してくる。この発酵液と水を混ぜ合わせてトマトの根元にかけていくそうだ。

トマトのエキス

 「トマトの中で1番栄養があるのはどこだと思う?」と聞かれ、はっとした。トマトの実、そのものだ。ひび割れして販売できなかったトマトをこうしてタンクに貯め、翌年のトマトを育てるための栄養分にするというのは、無駄がなく、とても理にかなっている気がした。

 昨日、農園を訪問した人たちに、トマトさんがこんな話をしていたのを思い出す。「“これは自分の作品だ”と思って作物を作っている農夫は、ほとんどいないんじゃないでしょうか?」

 トマトさんはハウスの中で作業するアボジの背中に目を向けて、「うちの農園にはそんな方がいますよ。あそこに」と笑った。

 アボジは多くを語らない人だが、研究熱心な姿や農園での仕事の様子を拝見する限り、熟練した職人であり、遊び心を持ち続けているアーティストのようでもある。

トマトさんの家

 4年前に作ったという家の庭は、アボジがデザインしたそうだ。いつどの時期に何の花がどんな風に咲くか。計算しつくして、木や花が植えてある。

トマトさんの庭

 下の写真の植木は、韓国の地図をイメージして作ったんだとか。オモニお母さんは濃いピンクの花を指さして「この辺が済州島ね」とにっこり。

韓国の形の植木

 ジミンさんが「これはハートの花」と教えてくれた。韓国では금낭화、日本ではケマンソウと呼ばれているようだ。

ケマンソウ

 今日はトマトを収穫するほか、山盛りのビーツを洗い、ひたすら細かく切っていった。ビーツはピクルスやサラダで味わう他、リンゴと一緒にミキサーにかけてジュースにすることもあるという。今日細かく切ったビーツは、砂糖をまぶして漬けるそうだ。

ビーツ

 16時半頃「チジミ(부침개)を焼いたので食べよう」と誘われ、アボジ、オモニ、ジミンさんと4人でひと休み。Cassというビールと共に、セリやタマネギの入ったチジミをいただいた。

チヂミ

 トマトさんちのご飯は、何を食べても本当においしい。これまで、韓国に来たら常に外食で、それでも毎回「おいしい」と感じていたけれど、やはり家庭料理の味にはかなわない。しかも、すべて自家製の有機野菜。食べることが豊かである生活は、体も心も潤してくれる気がする。今日もチャルモゴッスムニダ(ごちそうさまでした)!

▲エッセイ『韓国で農業体験 〜有機農家さんと暮らして〜』 順次公開中


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