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【長く愛されるブランドづくり】ティファニーのテーブルマナーが古びない理由。

ティファ二ーのテーブルマナーブックを知っていますか?
筆者がブランディングワークで迷走した際に、立ち返る本の一つです。
今から53年前の1869年に発行されたマナーブックが、なぜ色あせることなく読まれ続けているのか?そこには現代のブランディングにおいても参考になる3つの視点がありました。

ティファニーとはどのようなブランドなのか?

ティファニー(TIFFANY&Co.)は、カルティエ、ブルガリ、ハリーウィンストン、ヴァンクリーフ&アーペルと並ぶ世界5大ジュエラーブランドの一つで、世界中の幅広い世代に愛されています。
創業180年の歴史があるティファニーは由緒正しい伝統を守りつつ、いつの時代も愛されるようコンテンポラリーなスタイルも取り入れてきました。それは、映画『ティファニー で朝食を』でオードリー・ヘップバーンが演じているニューヨーカーならではの洗練さと、エレガントなスタイル、自由奔放な魅力そのものです。
また、シルバージュエリーの展開など、幅広い価格帯を用意し、どんな年代でもティファニーを愛用してもらいたい、そんなブランドの願いが込められています。また今日のダイヤを婚約指輪に贈るという習慣をつくるなど、ジュエリー文化を作ってきたブランドの一つです。

ティファニーのテーブルマナーとは

ティファニーブルーで目を惹く装丁は、シンプルなデザインで、インテリアとしてもさりげなく部屋に置いておきたくなる1冊です。

ティファニーのテーブルマナー
著書:W・ホービング 絵:J・ユーラ 訳:後藤 鎰夫
販売元:鹿島出版会

FOR TEENAGERSとタイトルに入っているように、これから大人になる若者に向けた本だとわかります。挿絵のドローイングはモダンで洗練されている中に、程よく力が抜けたタッチで描かれており、幅広い世代に読みやすくなっています。余白を十分にとった適度な文章量は、読みやすく、随所にマナーを守るルールよりも、食事の場を自然体で楽しむ姿勢を、ユーモラスな視点を交えながら描いています。

若い男性は、右側の若い女性を助けて、楽にさせてあげるのがならわしです。二人が腰かけ終わったら、豆鉄砲を食った鳩のように、キョロキョロ見まわさないで、右側の女性の方に顔を向けて、話しはじめましょう。


上の絵のように、ゴルフのクラブのような握り方をしてはいけません。これではスープコース落第です。


もし、アスパラガスが長くてほそいときは、右手でフォークを使って、はしを切って、フォークに刺して食べます。そうすれば、上の絵のようなあざらしの曲芸を演じなくてすみます。

約100ページで構成されているこの本は、前半は基本的な洋食コースのテーブルマナーで構成されており、最低限のテーブルマナーがわかります。後半のベからず集では、食事の場での振る舞いや、心構えについて書かれていて、誰にとっても読みやすく構成されています。

では、当時ティファニーの会長だったW・ホービングが書いたこの本が、53年経った今でも古びないのはなぜか。

ティファニーのテーブルマナーブックが古びない3つの理由。

カルチャーにはトレンドが常にあり、数年経てば時代遅れになってしまう。
また、デザインや写真も同様にその時代のトレンドが反映されており、古い表現になってしまいます。もちろん、レトロという言葉があるように、古いデザインを好むトレンドもあるが、この本はそれとも少し違う。
ではなぜ、この本からは古さを感じないのか。

そこには、現代のブランディングにも通じる3つの視点がありました。

1、テーブルマナーという行為そのものが、トレンドに左右されない普遍的な価値である。
まず、テーブルマナーにはトレンドがなく、子供から大人まで、世代を超えた共通テーマが、世界中で幅広い世代に読まれ続ける理由です。
テーブルマナーの行為は、気持ちの表れです。一緒にテーブルを囲む人たちを不快いにさせたくない気持ち。料理を用意してくれた人への敬意。そういった行為は時代や世代を超えた普遍の価値であり、トレンドや時代を感じさせない大きな要因になっています。
→モノは古くなるが、行為は古くならない。

2、マナーは守るためにあるのではなく、食事を楽しむためにある。誰もが共感できる本質的なメッセージ。
ティファニーのテーブルマナーブックを1冊読めば、基本的なテーブルマナーがわかります。ですが、この本の著者であるW・ホービングは、マナーは守るためにあるのではなく、食事を楽しむためにあると伝えたいのです。この本は随所にウィットな表現が散りばめられており、食事の場を楽しむ姿勢を表現しています。
そして、全てのマナー解説を読み終えた最終ぺージに、象徴的な一文があります。この一文に、ティファニーがこの本を通して伝えたかった本質、ブランドメッセージが込められているように感じます。
→ブランドの哲学は古くならない。

「これで作法の心得がわかりましたら、作法を破ることができます。しかし、作法を破るには、十分社交知識の心得がいることを忘れないでください。」


3、全編通してシーンを描いている時代を感じさせないドローイング表現。
ビジュアルは全編通して、ドローイングで描かれています。もしも、この本のビジュアル表現が写真中心で構成されていたらどうだっただろう。おそらく写真表現にしていたら、料理やテーブルウェアなどのテーブルセッティングが必要になっていたと思います。スタイリングにはファッション同様にトレンドがあり、どうしても時代を感じさせてしまいます。
ドローイング表現で、要素を極力削ぎ落とすことが可能になり、エレガントと洗練、そしてティファニーらしく自由奔放な気持ちを表現しています。本来ティファニーの銀食器を宣伝したいのであれば、写真で表現できたはずです。にも関わらず、ドローイング表現によって、本質がモノでは無く行為にあるメッセージ性を感じます。
→トレンドに左右されない表現は古くならない。

ライフタイムバリュー(LTV)

昨今のブランディングに重要な要素として取り上げられるライフタイムバリュー。それは短期的な関係ではなく、長く愛されるブランドになれば、顧客が生涯でサービスや商品に対してもたらす利益が高くなること。「顧客ロイヤルティ=顧客のブランドに対する愛着」が高い企業ほど、1人の顧客がもたらすLTVが高くなる傾向があります。
書籍のタイトルに、「 FOR TEENAGERS」とあるように、若い世代に向けたマナーブックは、ティファニーのテーブルマナーブックは短期的なファン獲得や売り上げ獲得を狙ったものではなく、長期的な視点でのファン獲得と、ラグジュアリー文化の継承を視野に入れているとわかります。

長く愛されるブランド

そもそもジュエリーはファッションとは違い古びない。もちろんデザインの変遷はあるものの、時代とともにその価値は世代を超えて受け継がれていくもの。この本からは、由緒正しいラグジュアリーな文化を自然体で楽しむためには、その場を楽しむための最低限の心得が必要ですよ。とメッセージしています。それは、ジュエリーを身につけるという行為であっても同様なのではないでしょうか。
ラグジュアリー商材はステータスシンボルとして身に付けることも多く、富を得た一握りの人たちのモノかもしれません。ですが、ティファニーはモノではなく行為そのものに本質的な価値を見出し、エレガントであることの意味を伝えてくれているように思います。そのメッセージが、時代や世代を超えた共感を生み、長く愛されるブランドをつくります。


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