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パロディとオリジナルの権利

パロディはコピーではない

知財のプロにとっては当たり前のことのようですが、素人には驚きの判断があります。パロディは法的に認められるのです。

パロディは元のデザインを真似した別のもので、コピーはほぼ同じものと判断されます。コピーは”本物を装ってだます”商売なので明確に違法とされていますが、購入者が本物と勘違いすることはほとんどないパロディはほとんどが法的には認められています。

アメリカの裁判で、パロディは”公正な使い方”

Louis VuittonがMy Other Bag...というトートバッグブランドを、デザインを盗んでいるということで2014年6月に訴えました。論点はパロディによる商標の侵害と希釈化、判決はパロディでは誤解は起こらない、公正な使い方 (fair use) である、というものです。

論点になった商標の希釈化すなわち価値を下げる行為だという問題では、公正ではなかったとしてもその影響はわずかだということです。Louis Vuittonのブランドはよく知られているから。そして著作権の侵害も検討されたが、トートバッグはキャンバス地に印刷しただけのものであって、高級なLouis Vuittonのバッグの置き換えるものではないとのことです。本物と思って間違えることはないと。

2016年1月に上記の判決が出ていますが、後日談が続いているのが興味深く理解が深まります。Louis Vuittonは多くの裁判を起こして、その態度が威張り散らしているようだとか特許侵害を訴え巨額な賠償金を得ようとするパテント トロールだとか言われているようです。一方で、膨大な時間とエネルギーを注いでブランドを築き維持をしている企業としてはそれを守るのも公正な行為だと私は思います。ちなみにLouis Vuittonよりも前にHermesもMy Other Bag...を訴えて、和解をしたそうです。My Other Bag...は、他にもBalenciaga、Celine、YSLなどのパロディのトートバッグを販売していました。

2016年1月:勝ったMy Other Bag...が訴訟費用の負担を請求。アメリカの法律では、特許に関する訴訟は訴訟費用を負けた方に負担させる”例外的な”判断を裁判所の裁量に認めているそうです。この法律はトロール対策と考えられます。

2016年12月:負けたLouis Vuittonは控訴を試みたけれども、認められませんでした。

2018年10月:韓国でMy Other Bagと化粧品メーカーThe Face Shopがコラボし、パロディの化粧ポーチは認められない判決。Louis Vuittonが勝ちました。理由は、ポーチの片面に「My Other Bag...」の文字は書かれているけれどもパロディという要素が含まれない、コラボ品だとはわかりづらいから。My Other Bag...が韓国では広く知られていないことなども指摘し、The Face Shipが商品を”くっきり目立たせるため”にLouis Vuittonと比較されるMy Other Bag...のパロディ製品を使用したとして、The Face ShopにLouis Vuittonへの罰金の支払い$45,000(約480万円)を科しました。

2019年3月:訴訟費用の請求は認められない判決。4年を超える醜い争いが続き$1M(約1億円)の訴訟費用を、Louis Vuittonがその支払いを負うことはなくなりました。論争は様々あったけれど、これで最終ラウンドだと。訴訟費用の請求がトロール対策だとすると、Louis Vuittonはトロールのような悪質な訴えではなく、争うに値する訴えだということになります。具体的には当初は$424,266.94(約4,500万円)の訴訟費用が$802,939.05(約8,600万円)になっています。$30(約3,200円)のトートバッグを販売している企業にとってはそれなりの意味のある金額でしょう。

この投稿を書いている2019年9月時点で、My Other BagのWebサイトはなくなっています。経営破綻等のニュース記事は見つけられていないのですが、少なくともアメリカでの事業は継続していないようです。My Other Bag MexicoのWebサイト(販売代理店の可能性あり)があったり、日本ではAmazon.co.jpや楽天で販売店経由の販売は見られます。

Louis Vuittonのパロディに関する訴訟相手はMy Other Bagだけではなく、まだまだ続くようです。

日本での判例「フランク三浦」

日本では時計ブランドのフランク三浦の裁判が知られています。知財高裁の判決は、フランク三浦(株式会社ディンクス)側の勝訴で、「フランク三浦("浦"の右上の点なし、以下点ありの"浦"で記述)」の商標登録が認められました。ここで注意しなければならないことがあります。この裁判は商標に関するものであって「フランク三浦」と「フランク ミュラー」や「FRANK MULLER」が似ているかどうかです。そのため、製品のデザインの類似性やそれに伴うフランク ミュラーのビジネスの損害は争点ではありません。

争点となった商標の類似性ですが、単純にこれだけ見ると似ているとは言い切れないと私も思います。左の商標が、右のそれぞれの商標と似ているかどうか、消費者に混同を招くかどうかです。判決文を読むとなかなか面白いのですが、「浦」の漢字の右上の点がなかったり手書き風の字だったりについてあまりにきっちり真面目に書かれていて、フランク三浦の面白さをさらにジワジワと倍増させてくれます。

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一方で、商品を見ると明らかに似ています。似ているからと言って法律的な禁止事項ではないのです。パロディに関しては、日本においては通常不正競争防止法に基づいて判断されるものとのことです(大学院の知財に関する講義にて弁理士の講師より)。そしてパロディは認められるのが通常の認識(判例に基づく)だそうです。私が講義を受けた弁理士の方ではありませんが、こちらの法律事務所のコラムの記事で詳細に説明されています

パロディや風刺の旧来の意味のように、このフランク三浦の製品が高級品やその使用者への批判の意味であれば表現の一つであるでしょうし、デザインを模倣して安く提供しているとすればやや眉をひそめてしまいます。法律の素人ですので法律ではなくビジネスとして、私は少なくとも他者の知名度を借りて宣伝効果を得ていると考えます。それによってフランクミュラー側が目に見える損失を被っていないのかもしれませんが、少なくともその上澄みを享受していると理解できます。

日本の法律のデザインに関する考え方

法律も万能ではありませんし、時間とともに社会が変化し法律も変化します。私が課題と感じているのは、デザインに関する権利保護は技術に重点を置き市場価値を考慮していない点です。

不正競争防止法で、他人のデザインの模倣は禁止しています。損害賠償には「営業上の利益の侵害に対して」判断されますが、そもそも見た目がどれだけ似ているかどうかが侵害しているかどうかの判断基準なので、顧客が感じる価値や便益は考慮されていません。一方でビジネスの考え方では、ブランド価値とは企業側が定義するものではなく顧客がどう感じているかによるものです。特許庁のWebサイトでビジネス関連発明(ビジネスモデル特許)を解説しているページでも、そこにある図版に顧客やユーザーの概念がないのです。

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ブランドという時間をかけた価値の醸成と新しい価値を提供し続ける意義の二つを区別する必要があると考えます。

最後に、私は法律や知財の専門家ではないため、理解不足の可能性はあります。間違いや誤解を招く記述などがありましたらご指摘いただきたいと思います。

情報ソース、参考情報

「My Other Bag Victorious in Louis Vuitton 'Parody' Battle」、The Fashion Law、2016年12月22日:http://www.thefashionlaw.com/home/my-other-bag-victorious-in-louis-vuitton-parody-battle

「Louis Vuitton Wins the Last Round in Fight Over "My Other Bag"」、The Fashion Law、2019年3月18日:http://www.thefashionlaw.com/home/louis-vuitton-wins-the-last-round-in-fight-over-my-other-bag

「Louis Vuitton Scores a Win Against The Face Shop in "Parody" Fight」、The Fashion Law、2018年10月30日:http://www.thefashionlaw.com/home/louis-vuitton-scores-a-win-against-the-face-shop-in-parody-fight

知財高等裁判所の判決 - 商標登録を認める判決「平成27(行ケ)10219」、2018年4月12日判決言渡:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/835/085835_hanrei.pdf

上記知財高裁のもととなった審決 - 商標の登録取り消しの特許庁の判断「無効2015-890035」、2015年9月8日:https://www.jpo.go.jp/torikumi_e/t_torikumi_e/pdf/decisions/2015_890035_j.pdf

裁判所の判例検索:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1

特許庁関連情報サイト:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

「フランク三浦」の商標登録関連情報:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2012-023292/28736E4C0085DCE322F5CE76C3849F9F57B0BB1F1679641D07AEEE3DFBB60884/40/ja

「フランク ミュラー」の商標登録関連情報:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2005-026157/E68BF20072B09E83E081D5DEE1B6ACCD8EB3B2ABBAE2AC83D3CB6C0E0922C3F2/40/ja

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