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本物のミニマリズム/人と物7 秋岡芳夫

あらすじ
消費社会の中で立ち止まった工業デザイナー秋岡芳夫の過去の随筆をまとめた本書。人と物の付き合い方を改めて考え直し、消費から愛用する暮らしを提案する。

物の持つストーリーに介在すること


 本書のテーマになっている「愛着」「愛用」の度合いはユーザーが物が持つストーリーにどれだけ介在することができるのかによって決まる。つまり愛用するということは自分によってストーリー性のある所有をすることと言える。

 消費社会の象徴とも言える使い捨て品は言うなれば「結果としての所有」。つまり目的を果たすために「これでいい」としょうがなく持っている妥協や代替だ。使い捨て品の持つストーリーに自分はいない。持っているだけなのである。

 ブランド品や作家性の強い作品はブランドストーリーや作家性の「模倣品の所有」だ。歴史や試行錯誤の上に成り立った「傑作」を所有する欲を満たす。高価だから由緒正しいだろう、高品質(試行錯誤の上のもの)だろうという打算的な所有であり、そのストーリーにユーザーは介在していない。強いていうのであればブランド品を所有するためにあくせく働いたという思い出としてストーリーに介在することはあるだろう。

 生業型の工芸品・誂え物は職人がクライアントの希望を代行し「職人気質」でクライアントが思い描くストーリーを自分の信条に乗せて納得いくまで制作するという併走した製品。さらに言えばユーザーの主観では見えない部分を、第三者視点で職人が提案することでさらに生活を豊かにする方法を考えることができるだろう。

本当のミニマリズム


 ミニマリズムは自分にとって不要な物を手放し必要な物だけをて物に残すライフスタイルを指す。浪費の否定や思考のリソースを余計な物に割かないといった目的でアメリカの富裕層から広まったスタイルだが、本当の意味でのミニマリズムは自分がストーリに強く介在している愛着品だけを身の回りに置き、使い続けるごとに執着が増していくような物なのかもしれない。

 自分にとって何かしらの象徴が身の回りに溢れていると、きっと満たされた気持ちになる。例えば卒業アルバムは同級生全員に一律に配られる物だし、大きくて幅を取る物であるが、どこか手放しにくくとりあえず引越しをする時に持っていこうという人も多いだろう。必要不必要はともかく自分やその周りの環境を記録したアルバムは自分のストーリーそのものだ。そういった物で溢れている暮らしなのであれば、ある意味ミニマリズムと言えるのではないだろうか。

 質の良い暮らしと聞くとすぐにその道のトップランナーのブランドの製品(たとえば無印)を所有することを想像する人も多いだろう。質の良い製品を買ったからといって、それに合わせてライフスタイルを合わせることは意味がないように思う。自分の必要以上の機能があり高価な物を買ったり、もったいないからといって自分が思うように使えない物を持つのではなく、自分の身の丈にあった機能と価格の物を持ち、さらに自分に合うように改良するべきだ。

 私はリサイクルショップで服を買って自分でリメイクしてみたり、ジャンク品を買って修理をして使ったりしている。正直まっさらな既製品と比べて機能が劣っていることも多いが、「これどこの?」と聞かれた時に話題にできたり、少し壊れたり汚れたりするくらいではまた直せばいいかと使い続けることになる。

 物のサービス化はサステナビリティなどの面から言えば理にかなっているが、物に対して愛着を持ちにくい。くらしの原器は愛用品に、それを取り囲む消耗品などはサービス化してみるといいかもしれない。消耗品をサービス化することによってユーザーが丁寧に使うことも促されるし、企業にとってもたくさん売ろうという思考から1つのものを長く使いたいという思考にシフトすることもできる。

 単に物を持たない主義としてのミニマリストではなく大切にできる物を持つミニマリストが増える土壌を作っていくことが求められるのではないだろうか。


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