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粗利率を上げる

第5章 本屋をダウンサイジングする(8)

 細部まで世界観をつくりこむために、できるだけ小さくありたい。けれど一方で、一般論としては、本屋の面積が倍になれば、並べられる本も倍になり、売上も倍になる。売上は〈客数×客単価〉にすぎないので、広さに比例して売上が上がるのはよく考えると不思議な気もするが、傾向としてはやはり、そうなりやすい。

 小さな店で、少ない売上でも、なんとか自分の目の届く範囲で、濃い店をやっていきたい。そのためにできるだけ経費を減らす話をしてきた。もうひとつ減らせるとすれば、原価だ。つまり粗利率を上げる。

 とはいえ、古本ならばともかく、新品の本を中心とするのであれば、仕入値がそれほど大幅に変わることはない、と前章で書いた。「掛率の平均は自然と七〇~八〇%台」と書いたとおり、一〇%程度の差しかない。

 しかしよく考えてみると、一〇〇〇円の本の掛率が八掛ならば粗利は二〇〇円、七掛ならば粗利は三〇〇円となり、そこには一・五倍の開きがある。仮に、月二〇〇万円の売上を上げられたとして、その粗利率が二割で四〇万円なのと、三割で六〇万円なのとでは、かなり大きな差だ。そこから家賃や光熱費を支払わなければならない。

 これも「誠光社」の堀部氏が、独立するにあたり考えたことだ。本来は取次を経由して八掛近くで仕入れるところを、自分の店で扱いたい本を出している出版社に、返品しない代わりに直接七掛で仕入れさせてもらえるよう、一社ずつお願いをして回った。そうして、店全体の粗利率をなるべく三割に近づけた。

 これは、もちろん堀部氏の「恵文社一乗寺店」時代の実績と信頼があったからこそできたことでもある。しかし同時に、取次を通さないぶん、出版社にとっても無理な条件ではない。堀部氏は、直接口座を開くことができた出版社のリストを「誠光社」のウェブサイトで公開している。すべての出版社が応じてくれるわけではないだろうが、これから小さな本屋をはじめる人にとっては、役立つリストになっている。

 まるで食品かと思わせるほど賞味期限が短い本もあるが、長い時間をかけてでも売りたいと思える本を自分で選んでいれば、それが腐ることはない。もちろん、いつ訪れても新しい発見がある、新鮮な売り場を保たなければ、客は離れてしまう。けれど本章で述べているような小さな本屋には、どんどん入荷と返品を繰り返すことで新鮮さを保つような形はそぐわない。

 思い入れをもって選び直接仕入れた本を、最後まで責任をもって読者に届けようと、売場で工夫し続ける。その提案に新鮮さがあれば、その本の新たな魅力が引き出され、これまでその本を手に取らなかった客にも、再発見されるかもしれない。粗利率を上げられれば、そのぶん丁寧に、価値ある仕事ができる。理想論かもしれないが、小さな本屋であればこそ、細部までそうした手を入れ続けられる可能性がある。

 とはいえ、ただ小さくしたからといって、本を売ることだけで生計を立てていくことは、決して簡単ではない。実際は「誠光社」や「本屋Title」をはじめ、本章に「ダウンサイジング」の例として挙げた本屋は、それぞれの「掛け算」にも取り組んでいる。次章ではそのことについて述べる。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P198-P200より転載


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