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都心の夢

人疲れした夜は、誰もいない街を想像する。
東京という大都会に、人が忽然といなくなった、静まり返った夜。

都心から郊外へ、血脈のようにはりめぐらされた線路の上を、さびた鉄の音を軋ませながら、無人の電車が走っていく。
繁華街のネオンは、招く客がいないのも無頓着な様子で、ただこうこうと光を放っているままだ。
入り組んだ首都高はオレンジ色の光に照らされ、東京タワーは明々と夜闇に浮かび上がり、そびえ立つスカイツリーは白紫の光の帯をまとって、音もなく、それを規則正しく脈打たせるばかり。
その姿はまるで、人のいなくなった街でも確かにまだ機能していることを誰にともなく知らせるように、一定のリズムに従って、くるり、くるりと帯を巻く。
人のいない電車が、ガタンゴトンと川辺を走る。
波のない運河は、スカイツリーの光の呼吸を鏡のように映している。

やがて深夜を過ぎると、定刻通りに最終電車は車庫に収まり、辺りは一面しんとした沈黙に包まれる。
夜の帳が、からっぽの街に降りてくる。
街の光の届かない陰のなかに、自分は誰にも気づかれずに、ひとりで眠っている。
闇は深い。
しんと静かだ。
朝が来て、何事もなかったかのように街に人があふれ出し、慌ただしく動きだすときまで、私たちは、人のいない、温かな光の街に抱かれた夢を見る。

今晩も、みなさまどうかよい夢を。

最後まで読んでくださってありがとうございます。 わずかでも、誰かの心の底に届くものが書けたらいいなあと願いつつ、プロを目指して日々精進中の作家の卵です。 もしも価値のある読み物だと感じたら、大変励みになりますので、ご支援の程よろしくお願い致します。