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理想のラタトゥイユ

今年も理想のラタトゥイユに巡り合えなかった!

ラタトゥイユ。
それは言わずと知れたフランスのお惣菜で、平たく言えば「夏野菜のごった煮」だ(これを書くためにウィキペディアを見たら、フランスでは刑務所などで出される「くさい飯」としておなじみだった……的なことが書かれていて驚愕)。
ナス、ズッキーニ、玉ねぎ、パプリカなんかをころころに切って、オリーブオイルとニンニクで炒める。ここにトマトか、トマトの水煮缶を投入して煮込み(ハーブなんかを入れてもおしゃれ)、塩コショウで味をつければできあがり。
料理を始めたばかりの人でも作れる「それっぽい」おかずなので、私はこれを長年作り続けてきた。

だけど、今ここで(どうでもいい)カミングアウトをさせていただく。

私は自分のラタトゥイユにまったく満足していない!

今も私は、私の理想のラタトゥイユを求めて、レシピ流浪をしている真っ最中だ。

***

単純な料理ほどコツがいるし、作り手の腕が出る。
卵焼きにお味噌汁、炊き立ての白いご飯なんかはその筆頭で、レシピの手数が少なければ少ないほど、材料が少なければ少ないほど、技術やアレンジの妙が求められ、味に差が出てくるように感じる。

そしてラタトゥイユである。

私の理想のラタトゥイユはあれだ。いいレストランのサラダの横とか、結婚式の料理の前菜の横なんかに、ちまっと添えられているラタトゥイユ。
決して大皿でどんとは出てこず、主役が別にいる皿の中に、「目立ちたくないので」と言わんばかりにちょこっとだけいる。そいつ、私はそいつが作りたいのです!!

そういうラタトゥイユはだいたい冷製で、キリッと冷やされた状態で供されてくる。野菜はくったくたに煮込まれていて、かといって「あれ? このぐにゃっとしたの何?」と正体がわからなくなるほど溶けてしまっているわけでもない。何よりトマトの甘味と酸味のバランスが絶妙だ。ラタトゥイユに限って言えば、甘味が強めであるほうがおいしいように思う。

最初に作ったのは、水煮缶を使うどシンプルなレシピだった。

野菜をニンニクで炒めて、水煮缶を入れる。ハーブ類は特になし。味付けは塩コショウ。以上。
これだけでも、そこそこおいしい。

だが何度か作るうちに、この味が物足りなく感じてくる。
最初に思ったのは、「味に奥行きがない」ということだ。
大層な舌を持っているわけでもないのに奥行きってなんやねんとどつきたくなる感想だが、言っているのが自分で作っているのも自分だから、粛々と改善を試みる。

まず投入したのはコンソメキューブ、そしてローリエだ。
シンプルラタトゥイユしか作ったことないという方はぜひお試しいただきたい。これだけで結構本格的な味になる(気がする)から。
動物性たんぱく質パワーと香草の風味のおかげで、お惣菜からおもてなし料理くらいにはレベルアップを図れたと思う(実際お客さんに出してそこそこ好評だった)。

だがやっぱり「なんかちがう!」と自分の中のお客様が皿を投げ始める。
「味が平たい気がする!」
要するに、水煮トマトのありきたり感(我が家ではトマトと名の付く料理はほとんど水煮缶を使用しているため、味が一辺倒になりがちなのである)をなんとかしたいのである。
料理に謎の3Dを求めるお客様に、自分の中のシェフは生のトマトという解答を導き出した。

けれど、これが物足りなさに加速をかけた。
そもそも品種的に、日本のトマトよりイタリアのトマトの方が煮込み料理に向いているらしい。グルタミン酸の量が多いのだとか(さすがトマトの国)。
……。
シェフー、シェフーーー……!! 
私だ。

醤油を入れ(隠し味)、コンソメを抜き、コンソメを入れ(出汁は必要だった)、バジルを入れ、バジルを抜き(なんか違った)、くったくたに煮てみたり、一方でさっと煮て終わりにしてみたり(どっちもおいしい、好みの問題)、母親の育てているローズマリーをくすねてこようかと考えやっぱりやめ(正解)、砂糖を入れてみたりもし(甘味追加)……。

それでもやはり、理想の味にたどり着けないのである。

***

今年試したのは、生のトマトを使ってサッと煮る系のレシピだった。

隠し味にウスターソース、そしてケチャップ。
生のトマトの物足りなさは調味料で補おうというわけである。
友人に以前おみやげでもらったトマトペーストを入れようかと思って久々に缶の中を見てみたら、綿綿になっていて(※腐っています)断念。

いけるかな⁉と思ったのだが、調味料の味が勝ちすぎてしまい(自分的に)、これもちょっと違う……という結果に。
ちなみに具は、ナス、ズッキーニ、パプリカ赤黄、トマト。面倒がらずに玉ねぎを入れたほうが良かったかなあ……と、作り終えてから遠い目をした。

もちろん十分おいしいのだ。
いろいろな人が配合を考えて練られているレシピを、こちらは拝借しているわけだから、文句を言ったら罰が当たりそう。
でも、残念ながら今回も理想のあの味ではない。

こうして今年も夏野菜の季節が終わる。ズッキーニが120円を超えてきたら、もう買えない(エンゲル係数的に)。
もういいじゃん、おいしいんだから……いやいやいや。いかん、自分の中のシェフが白旗を上げそうだ。

ちなみに夫は、こうして妻がレシピを変えていることすら知らない
「おいしいおいしい」
と口いっぱいの夏野菜をもぐもぐするのみだ。

理想のラタトゥイユを追いかけて、私の小さな、そして孤独な挑戦は続く。
もし、これ入れれば?というおすすめがあったら教えていただきたい。

サポートをご検討いただきありがとうございます! 主に息子のミルク代になります……笑。