印象

 サークル飲みやゼミ飲みなど、大人数で飲む際にはやはり居酒屋の方がいいことが多く、また学生だけだったりすれば、チェーンの居酒屋の方が値段も手ごろだし、いい。
 しかし、気心が知れた仲間だけで、それこそ少人数だったりすれば、宅飲みという選択も悪くない。
 家主さえ許せば時間の制限もなく、居酒屋でついつい頼んでしまうことに比べれば財布にも優しい。
 学生の住める安宿では部屋と部屋の間の壁が薄く、あまり騒ぎすぎると隣人の迷惑になることもあるが、それでも居酒屋のように話の内容によって店員さんに注意されたりすることもない。
 しかしまあ、家で飲むとゴミの処理や、残してしまったご飯ものや酒類の処理が面倒ではあるのだが。

「いやあ、彼女が欲しい。」
 飲み始めてからもうどれほどの時間がたっただろう。
 少なくとも普通の居酒屋ならもう追い出されるくらいの時間が経っていた。
「それ、さっきから何度も言ってないか。」
 大河の嘆きに俊作はツッコむ。
「まあまあ、その気持ちは分かるよ。」
 そう諫めるのは、俊作と大河と同じ、進藤ゼミに所属している三木 渡(みき わたる)だった。
「わかるって、お前は彼女いるだろー?」
 大河は大きな声で叫ぶ。
「おい、ここ渡の家だから。あんまりうるさくすると、迷惑だろ。」
「すまん!」
 大河は手にしていた缶チューハイを机に強く置きながら謝った。
「だから!」
「いや、大丈夫だから。」
 一番大人になって諫めているのは、先ほどからずっと、家主である渡だった。
「というか、二人とも彼女いるじゃんか。」
 結局この話に戻ってきてしまう。
「いやまあそうだけど。」
「何が気持ちが分かるだ。」
「いやそりゃあもちろん俺だって男だもん。彼女がいないからほしい、って気持ちはわかるさ。」
「うー。」
 大河は返事になっていない唸り声を出した。
「俊作は、岩井さんと付き合ってるだろ。」
「おお。」
「お似合いだよ。」
「ああ、ありがとう。」
「で、渡は、なんだっけ。高校の同級生っ付き合ってるんだっけ。」
「うん、そう。」
「彼女もこっちで大学通ってるんだっけ?」
「そうそう。でもうちと学校遠いから、住んでる場所は全然違うけど。」
「渡はさ、彼女と初めて会った時の印象はそんなだったの?」
「うーん、まあ可愛らしい子だな、くらい。」
「ほお、それで。」
「それで?」
「そんな深掘りすんなって。」
「いや、俺は聞きたいんだ。」
「おいおい。」
「まあまあ、いいよ。俺がサッカー部で、彼女がマネージャーで、だから話す機会も多くて、それで、みたいな。」
「……いいなあ。」
 大河は絞り出すように言った。
「ありがとう。」
「俊作は?」
「え、俺?」
「そう。」
 もうすっかり酔っている大河を足蹴にするのも面倒に思い、俊作は話し始めた。
「まあ、学園祭実行委員で知り合って、なんか班みたいのが一緒で自然と。」
「うーん、二人ともふわっとしか言わないからためにならん!」
 先ほどまで持っていた缶チューハイを再び机にたたきつけたかと思うと、そのまま後ろに倒れる大河。
「おい、大丈夫……」
 心配する必要もないほど、大きないびきをかき始める大河。
「とりあえず、なんか毛布でも持ってくるよ。」
「ありがとう。」
 二人は少し呆れた表情で大きないびきをかきながら眠る大河を見ていた。

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