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「骨を弔う」宇佐美まこと

余計なことが多い。
本作を読んでまず思ったのはその点だった。
どういうことか?を語る前に、まずあらすじを紹介する。

四国の田舎町である出来事がおきる。
土手から埋まっている人骨が発見された、と思ったら骨格標本だったというお騒がせニュースだ。
そこで本作のメインキャラクターとなる男性は思い出す。
かつて幼馴染たちと一緒に骨格標本を埋めたことを。
リーダー格の女子が、嫌な性格の担任教師を困らせる為、理科室から骨格標本を盗んだ。
それを隠蔽する為に、みんなで協力して山奥に埋めたという過去の、ちょっとした冒険の思い出だ。
そこで疑問を抱く、自分たちが捨てたのは山奥、発見されたのは土手。
本物の骨格標本は土手に埋められたもので、自分たちはリーダーにだまされて本物の人骨を埋めたのではないかと。
疑念にかられた彼は、かつての幼馴染をたずね歩き、過去をあきらかにしようとする、というストーリー。

これが松本清張あたりだとどうなるだろう。
サラリーマンである主人公の目線で物語は進み、少しずつ事態が明らかになっていく。
そして真相が見えたあと、その事件に至る経緯に思いをはせて遠い目をする、そんな感じかな?
事件の解決にはロジカルな謎の解明があり、本格推理小説マニアも満足させる、そんな小説になるのではないだろうか。

これが、本作だと違う。
一部界隈でイヤミス作家と言われる宇佐美まことの本領発揮。

まず、一人の視点では進まない。
幼馴染や当時の関係者の目線に切り替わりながら進んでいく。
それぞれ「〇〇の章」と章立てされている。

疑念を持ったメインキャラクターは、彼らにとって懐かしいとともに、日々の生活をみだす異分子としてあらわれる。
そして、余計なことに幼馴染や関係者たちの現在は、それぞれこれでもかというほどややこしい事情を抱えているのだ。
事件の謎を追っているのか、様々な事情を抱えた登場人物たちにやきもきする、一種の群像劇を読ませられている気がしてくる不思議。
事件の真相もまた、それに至る経緯がなまなましく、読むのがきついぐらいな描写で迫ってくる。
本当に余計な描写だ。

事件自体や真相について、そこまでインパクトのあるものではない。
そこに作者がものすごく余計な肉付けをすることで、この物語は魅力的なものになっていると思う。

ただこの余計な肉付けが、最後の最後に効いてくる。
この演出が、良い。
普通のミステリーって、真相がわかったら即終了が多い。
でも本作は真相がわかったあとでも、余計なページが続くんだ。
だが、これが良い。
自分としては、本作の評価は最後の1章で名作へとギュンと変わった。
宇佐美まこと、「イヤとみせかけてイヤジャナイミス」なのでは?


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