左手を添えてお釣りを渡すように(オバラミツフミ)【#2:今月のテーマは「偏愛」】

上京してから、商店街が好きになりました

背の高いビル、スーツをビシッと着こなすビジネスマン、3分に一回来る電車、高級ディナー…。僕が、上京前に憧れた風景です。

でも実際に東京に来てから性懲りもなく足を運んでいるのが、商店街。背の低いお店、普段着で出歩く地元の人、ママチャリ、どこにでもありそうな精肉店…。対極にある風景なのに、気づいたら週に一度、必ずどこかの商店街にでかけているんです。

貧乏学生だった数年前に比べると収入も安定し、たまには高い焼肉を食べにいける余裕もできましたが、どうしても1本140円の「ももにんにく串」が食べたくなってしまう。

エプロンをつけて食べる霜降り肉も涙が出るほど美味しい。でも、手がタレでベトベトになり「最悪だ」とこぼしながら食べる「ももにんにく串」は、なぜかもっと美味しかったりする。どうしてでしょう…?

東急東横線・目黒線 元住吉駅

好きなことって、好きなものって、実は言語化するのが難しい。「好きだから、好き」。その一言で片付けられるから、好きなんじゃん。なんて思うんですが、僕自身、どうして商店街が好きなのは気になる。

この気持ちをどうやって文字にしようかな…と考えていたら、尊敬するライター・西山武士さんが書かれている何気ない日常をコラム化するための、具体的な手順・考え方のひとつなる記事を見つけてしまいました。

普段は誰かにインタビューをするのが生業なので、今日は僕自身にインタビューをさせてください。

“人肌のぬくもり”を感じられる環境が好きなんじゃない?

ーーどうして商店街が好きなの?

なんといか、“地元感”があるじゃん。東京ってビルとか、ビジネスとか、そういうイメージ。でも商店街に行くと、背の低い建物が密集してて、お店の前に人が立っている。もっと言えば、お会計も商談には見えないし、当たり前に金銭のやりとりがある。

ーーとか言って、東京来るまでは真逆のこと言ってたじゃん。

まあ、それはいいじゃん(笑)。東京に来てから商材を売る代理店ビジネスとかやってたんだけど、なんか面白くなかったんだよね。好きでもないことで、無理に背伸びしている感じがして。欲しくもない人に一生懸命商品の良さを説いて、煙たがられてた。

ーーうんうん。でも、そういうときあるよね。分かる。

ありがと。でも、商店街って、当たり前に生活の中にあるような気がするじゃん。たとえば八百屋さんとか、野菜が欲しい人がいて、野菜をあげる人がいて…。ビジネスというよりか、商売というか…。

ーーなんとなく分かるよ。それがつまり君が言いたい“地元感”?

あー、分かってきた。商店街って、顔が見えるんだよね。オレ、実家に帰ってきたら「あじさいのカツカレー」を絶対に食べるんだけど、カツカレー食べたいのと同じくらいマスターに会いたいのよ。商店街には、そんな環境がいっぱいあんのよ。

京王線 千歳烏山

東京、キッチンジロー、トロワ・バグ

ーーなるほどね。たとえば商店街以外に好きなものないの?

あとはね、純喫茶が好き。純喫茶が商店街の中にあるってのもあるけど、結構頻繁に行くよ。ちょっと高いから、控えなきゃなんだけど。一番好きなお店は、神保町のトロワ・バグ。

ーー純喫茶はなんで好きなの?

これ、話すと結構長いけどいい?

ーー今日だけね。

親父も東京で大学生やってたのよ。当時家業がまあそこそこ儲かってたのもあって、住む場所に飽きたらすぐ引っ越してたんだって。たしか上京1年目が笹塚で、翌年は三軒茶屋。その次、麻布十番。バカだよね。そして、最後が神保町。やっとキャンパスの近くに引っ越したわけよ。

ーーそれで、それで?

引っ越し好きの親父が、神保町は最高だって言うわけよ。だから家族の東京旅行は、もれなく神保町に連れていかれてさ。でも、4時間も新幹線に乗るもんだから、疲れんのよ。ただね、東京駅に降りると、ホテルも寄らずにタクシーで神保町。どんだけ好きなんだよって話。

で、昼飯は九割九部キッチンジロー。で、十割メンチカツにスタミナ焼きをトッピングした、通称"スタミナメンチ"。他にも食べたいのあると、それを俺に頼ませて「一口ちょうだい?」って。それ見て母さんはめっちゃ怒る。

ーー幼稚な父さんだね。

しかも食べ終わるとだいたい「バグに行ってくる」って、いなくなっちゃうのよ。散々振り回しておいて、このザマよ。もうね、精神年齢末っ子。

まあそれはいいとして、親父がどんな大学生活を送っていたか知らないけど、バグはけっこう思い出が詰まってんだろうなって。毎回行くからさ。

トロワ・バグのハイブレンド

オレが初めてバグに行ったのは、大学受験のときね。受験が終わって、親父が「バグ行こうぜ」って。ホテルでゆっくりしたかったんだけど、とりあえず着いていったの。

したらさ、テレビの取材やってて具志堅がコーヒー飲んでるわけよ。もうびっくり。「これうまいよ!」とか言って。全く食レポになってないとは思いつつ、様子を見る限り相当うまいんだなーと。本当に美味しいものって、なんか表現しづらいじゃん。

ーー“「好きだから、好き」。その一言で片付けられるから、好きなんじゃん”ってやつね。

そうそう、それ(笑)。で、俺も同じの飲んでみたのよ。そしたらスッゲーうまいの。

ーーどんな感じ?

初対面なんだけど「受験おつかれさま。手応えどうだった?」とか聞いてくれたんだよね。テスト終わったばっかりだったから、まだ結構ソワソワしてて、うまく答えられなかったんだけど。

でね、なんかコーヒーが甘いのよ。正確には苦いんだけど、なんか甘さを感じるわけ。

ーー優しい味…的なこと?

喉を伝ってくコーヒーがね、不安とか、心配とか、そういうのをぐーっと流してくれる感じがして。オーナーは三輪さんっていうんだけど、そういう気持ちを察して淹れてくれたのかな?って。

ーー味の感想、全くないけど。

いいだろ、別に。もちろんうまいけど、オレ、そういうのが好きなのよ。「誰かのために淹れたコーヒー」とか、「親友の母ちゃんが作ってくれた生姜焼き」とか、なんかいいじゃん。

ーーつまり、人間関係が見えて、想いのこもってるものが好きなのね。

そうそう。それでいうと、商店街って“情の見えるコミュニティ”なのよ。Amazonとか便利だけど、できるだけ、知り合いのお店で買いたいと思ってて。左手を添えてお釣りを渡してくれる人とか、大好きなわけ。何かしらの意図があるわけじゃん。丁寧に、大切にしてるの分かるじゃん。

ーーオッケー、オッケー。意図せず長くなっちゃったね。今日はこの辺で。

ありがと。

人が介在価値になるから、好きなんだ

インタビューの内容をまとめると(笑)、僕は人の存在が介在価値になっている商品やシーンが好きなんです。その集合体が、商店街。

そして僕がこうしてライター・編集者をやっているのは、おそらく自分が介在価値として存在できるから。もちろんどんなことであっても成り立つことだとは思いますが、誰かの想いを受け取り、それを知らない誰かに伝えられるこの仕事は、僕にとって紛れもない天職じゃないかと思うんです。

技術どうこうの話をしてしまうとまだまだ未熟なんですけど、腕はなんとかなる。大切にしたいポリシーをマイペースにつらぬける今の環境は、厳しくも楽しく、何にも代えがたい。

「馬主」のように「これ」といった夢はないけれど、幸せを感じながら現時点を必死に生きられることこそが僕の夢であったりします。今までの人生はほとんど顧客として、子供として生きていたから、いつも受け取る側。ただ、これからは伝える側として、自分がいいなと思ったものを伝えていきたいです。だから、ライターはやめられない。

次回の更新は11月15日、書き手はチーム長谷川の太陽・なつこ姉さんです。お楽しみに!

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ライティング・ミレニアルズ

長谷川リョー、オバラミツフミ、梶川なつこ、小池真幸、井下田梓の5名からなるチームによる共同マガジンです。 特定のテーマについてリレー形式でnoteを更新していきます。(たまにゲスト寄稿者を呼ぶかも?) 今月のテーマは【チーム長谷川で働くということ】です! (毎週水曜日更新)
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