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音楽よもやま話

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自分を形作ってきた大切な音楽たちをエピソードを交えたり、交えなかったりして話します。
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音楽よもやま話-第14回 YUI-過ぎてきた日々全部で 今のあたしなんだよ

どこかにあるはずの未来の鍵を握りしめ…2007年2月某日深夜、インフルエンザを発症していた僕は寝込んでいた。このまま死ぬんじゃないかと思うほどに連夜続いた高熱も、発症三日目ともなれば随分と下がっており、関節痛も和らいでいた。それはだいぶマシという程度のモノだけれど。それよりも僕を心底悩ませていたのは、恐ろしいほどの退屈な時間だった。睡魔の方が飽きてしまうくらい、彼とは夢の中で遊び倒し、起きている間に暇つぶしに読んでいたマンガ「花より男子」も全巻読み終わってしまっていた。録画し

音楽よもやま話-第13回 フィロソフィーのダンス-陽気なアイドルが地球を回す

メジャーデビュー8月6日のオンラインライブ「5 Years Anniversary Party」にてメジャーデビュー日が告知されてからずっとソワソワしっぱなしだった。本当は、このコロナ禍がなければきっともっと早く、もっと違った形で発表され披露されていたんじゃないかと思ったり。与えたがりの、サービス精神いっぱいの彼女たちのことなので、ファンいっぱいのライブハウスの中、フルバンドセットで花びらや金テープが舞うような中で喜びを知らせたかったかもしれない。でも「本当なら」とか「たとえ

音楽よもやま話-第12回 YUKI-世界がその一点のみで魅力的に映るんなら、正直、うれしすぎて抱きあいたい。

じっと黙ったミラーボールこれ好きなんだよね、と彼女はデンモクを手に取りタッチペンで操作をし始めた。 しばらくして曲が始まる。軽快なミドルテンポのイントロに彼女は少し体を揺らし、最初のワンフレーズが画面にテロップするとマイクを口に近づけ「メランコリニスタ」と歌い始めた。 彼女の気取ったハスキーボイスはフラット気味ではあるものの、YUKIのその物憂げなダンスチューンにはよく似合っていた。 テーブルの上に散乱する、3分の1ほど残ったボトルウィスキー、単価の高いつまみ、握りつぶされた

音楽よもやま話-第11回 クイーン-死んだら We will rock youに合わせて木魚なんて叩いちゃってさ

44年前の青春1975年の初来日から1年が経った1976年の大阪、英国紳士の風貌とはちょっとかけ離れた4人のバンドマンが、熱狂的な日本人ファンにまたしても迎えられた。15才の誕生日を迎えたばかりの、まだ幼気な少女だった僕の母親も多分に漏れず、ロジャー・テイラーの虜だったようだ。「ベルサイユのばら」のアンドレだかオスカルだかが、ザラザラしたまんがの紙面を飛び出したかのようにキラキラ見えたのだろう。また別バンドだがキッスも好きだったらしい。 なぁ、僕は両親について時々不思議に思う

音楽よもやま話-第10回 ポルノグラフィティ- 誰かが手を握ってくれる

オフィスビルに一つ残るこのままじゃ何者にもなれなさそうだぞ、と目の前のパソコンの液晶画面に映る、数字や文字の羅列を眺めながら僕は思った。僕はため息をつき、ネクタイを緩め、少し背伸びをした。それからネジをゆっくり回すみたいに右肩を回し、左肩を回した。椅子から立ち上がり、右側の疲れ切った筋肉をほぐし、そして左側の筋肉をほぐした。天秤に分銅を載せて左右のバランスをとるように。それで幾分身体のこわばりみたいなものはほぐれ、左右のバランスも良くなった。ところが、気持ちの天秤はずっと片方

音楽よもやま話-第9回 Mr.Children-友とコーヒーと嘘と胃袋

プロローグ—ねぇ、くるみあぁ、曇り。灰色のカーテンが街には降りている。 街頭ビジョンに流れるCMは、企業の宣伝を15秒の間にきっちり終えてしまうと、すぐ次のCMへバトンを渡した。そんな液晶画面から零れる赤や黄色や緑の光が、くすんだキャンバス地みたいなあまり綺麗とは言い難い曇天に抽象的な模様を作っていた。 CMが明けると、ニュースキャスターが人類を代弁して喋りはじめる。 「…厚生労働省によりますと…感染症…新たに…中国の…では…一方アメリカに対して…」 なんだかミスチルのライブ

音楽よもやま話-第8回 ゴスペラーズ-愛してるなんて言ったこともないが、そう歌いたかった

路地裏のバーで「学校のさ、一番響くところを探し回ってさ、歌ったよね?」 街の通りから少し外れた路地裏のバーで催された二次会では、度数の高いカクテルを片手に思い出話が花開く。 「渡り廊下が一番響いたんだよね、たしか。それで放送部に頼んで録音までしてもらってさ。あの録音どこ行っちゃったんだろうなー」スナック菓子を頬張りながら、空間の一点を睨む。 「そうそう。歌ってたら、人だかりが出来ちゃってサ、困ったななんて思いながらちょっとカッコつけてた」友人の指がクルクルとウィスキーに浮かぶ

音楽よもやま話-第7回 Awesome City Club-繰り返すアンビバレンス

2017年の秋、ドライブの休憩がてら、街はずれの中華料理屋であんかけ焼きそばを食べているとき、僕はそのバンドの名前を知った。 「今度さ、ある音楽学校の演奏会に特別ゲストでオーサム来るんだよね、行かない?」と友人Aは友人Bを誘う。知らないバンドだったけれど、僕はなんとなく仲間外れにされたくなくて連れて行ってくれとAに懇願した。 当時、僕は高架下のレンタルCD・DVDショップでバイトをしていたのだが、そういえば確かに何人かの客が時折彼らのCDをレンタルしに来ていることを思い出し

音楽よもやま話 -第6回 SMAP- 君は今すぐ翔び立てるのさ

 僕は今でも、時々SMAPのことを想う。空気のように常にそばにあった存在だから。  特別大ファンというわけでもなかったし、CDを借りたのだって解散騒動が起きてからだ。でも、彼らの音楽は、ずっと街のいたるところで流れていたし、テレビをつければいつでも彼らがいた。彼らの音楽っていい歌ばかりだし、カラオケで歌いやすいし、色んな人に受けがいいのだ。中居くんパートを声真似して歌ってみたり、キムタクを真似して崩しまくって歌ってみたり。  彼らが解散したあとでも、毎週月曜夜10時になるとT

音楽よもやま話 -第5回 井上陽水- 誰も知らない夜明けが明けた時

 初めて自分のギターを持とうと決意した明確なきっかけはもう思い出せない。12歳の春に、親父にせがんで買ってもらった2万円のアコースティックギターは、今では実家のクローゼットの中で眠っている。弾かれることよりも先に、その錆びついたダダリオのブロンズ弦を変えてくれと寝言を呟いている。でも、実家に帰る度、僕は弦を変えるよりも先に調子はずれのAmのコードを鳴らす。それが最初に覚えた曲のコードだからだ。少しだけアルペジオを弾いてケースにしまう。  本当はエレキギターが良かったのだけれ

音楽よもやま話 -第4回 椎名林檎- 一介の26歳男性による抽象的概念的考察

はじめに、空っぽな人間に 10代の少女が自分を指し示す言葉を見つけあぐねている時、僕はその真横でテレビに映る椎名林檎を見ていた。CDTVの歴代なんとかランキングだ。ギブソンのギターを鋭角に持ちながら彼女は「ギブス」を歌っていた。テロップに流れる、いわゆる林檎節な歌詞が刺激的だった。10代の僕にとって、少々刺激が強く、かなり暴力的でセンセーショナルな魅力で溢れていた i 罠 be wiθ U 傍に来て ごくごくイメージな話  その時の椎名林檎は、心を失いかけたかぐや姫か、声

音楽よもやま話-第3回 ニガミ17才-  ちぇっ しゃー ばさっ ごそごそ かたかた ごくっ ぱきぽきぱき きゅー

夏の切れ端、渋谷「まさかこんなところでニガミ17才の名前聞くと思わなかったわ」と彼女はハイボールに浮かぶ氷を指で回す仕草を一時中断して言った。  季節は夏の切れ端、渋谷の一角にある少し高めの居酒屋。最近よく聞く音楽は?という話題の中で僕が挙げた名前「ニガミ17才」。右端の女の子から、きょとん、きょとん、1人飛ばして、きょとん、という顔をされた。飛ばされた1人は、僕の話など飲み会開始早々からまったく興味なさげに聞くともなしに聞いていたようだった。だが、ニガミ17才の名前を聞いた

音楽よもやま話-第2回 ポルノグラフィティ-雨男と貝女と冷蔵男のトライアングル

はじめに ポルノグラフィティは人生である。と豪語しておこう。なぜそう言える?というのはおいおい、回数を重ねて語っていくとして、今回は歌詞について深堀り(というか妄想)していこう。とはいっても、歌詞の素晴らしさについて語るにしても、ダラダラと語ってしまうことになり、余裕で10万文字とかになっちゃうから、もっと絞って語ってみよう。イメソンの帝王とも呼ばれたポルノグラフィティの歌詞世界における、ある3人の恋愛模様についてだ。 ポルノ世界の定義 ポルノ世界(ちょっと表現がアレだが悪

音楽よもやま話-第1回 フィロソフィーのダンス- 踊るしかないミュージック

はじめに この「音楽よもやま話」、単に好きな音楽やアーティストについて自らの想いや思い出を記すだけのコーナーである。というかもう、よもやま話=雑談かもしらん。音楽的なことはよくわからん。でも、好きなんだってことが伝わればいいな。限界オタクの気持ちの悪い戯言に聞こえませんよう… フィロソフィーのダンス  修士論文執筆で精神をすり減らし、平成という時代の切れ端でぷすぷす燻り続けていた今年の一月、先輩のツイートをきっかけにフィロソフィーのダンスに出会った。 "さよならを好きだっ