尾田わらば

思考回路は洗濯機と似ている/小説を書き上げたい人 Twitter: @waraba_p…

尾田わらば

思考回路は洗濯機と似ている/小説を書き上げたい人 Twitter: @waraba_popular

マガジン

  • ほぼ毎日エッセイ

    ほぼ毎日(と言いながら4日に1回)書いているエッセイです。ふと考えたことを勢いで書く。1000文字未満を努力する。

  • 断片小説

    箸にも棒にもかからんかもしれん短い小説です。

  • ひそひそ昔話

    20歳前後までの忘れ去られた記憶を手繰り寄せて、話します。恥ずかしいので、ひそひそ喋るから耳を近づけて読んであげてください。

  • 音楽よもやま話

    自分を形作ってきた大切な音楽たちをエピソードを交えたり、交えなかったりして話します。

  • 日記

    現在進行形で書き続けている日記をエッセイ風にのっけてます

最近の記事

  • 固定された記事

【エッセイ】春、遠からじ。されど僕は憂う。

ベランダにアウトドアチェアを出して、僕は手に持ったマグカップの置き場を思案した。開いたドアの向こう側、部屋の奥からオペラ歌劇が聞こえる。ホフマン物語、第2幕オリンピア。主人公の詩人ホフマンが過去の失恋話を語り、ついには現在の恋にも破れる物語。第2幕オリンピアでは、精巧な自動人形オリンピアにホフマンは恋する。それがロボットだとも気づかずに。ドイツ出身のスロバキア人歌手パトリツィア・ヤネチコヴァのソプラノが、風に膨らんだカーテンをやわく裂いて届く。結局、僕はマグカップを床に置き、

    • 雨上がりの夜鳴き声に

      雨上がりの夜に、2匹の猫の話し声を聞いた。 もちろん何を話しているのかは私にはわからない。アイスコーヒーゼリーみたいな雨上がりの空気をまっすぐ突き破って、にゃあにゃあ、みゃあみゃあなどと盛り上がっている。猫の言葉はわからない。でも彼らはきっと難しい話をしている。また俺たちの餌場が一つなくなったんだ、とか三毛猫さんちの赤ちゃんが人間に奪われたみたいだとか、きっとそんな話なんだろう。 夜23時。仕事から帰ってきて、私はあまりにも疲れていた。片方ずつ靴下を脱ぎ散らして、ベッドに倒れ

      • 火星に帰りたい?

        マンションのドアを開けていつも目に入ってくるのは、緑色の屋根をした3階建てのアパートだった。道路を挟んだこちら側からでもわかるくらいヒビが入り老朽化していた。アパートはコンクリートの塀ブロックで四方を囲まれ、それなりの大きさの庭を持っていた。庭には、退去勧告に応じない雑草が点々としがみついて生えていた。もうそこには誰も住んでいないようであったけれど、おそらく以前は老人ホームのアパートだったのだろうと思う。ちょうど似たような構造の老人ホームが実家の近くにあって、やはり同じように

        • どうしようもない空腹

          元総理が糾弾に倒れたというニュースが世界を駆け巡った日の夜、僕は空腹を感じていた。どうしようもない空腹だった。民主主義への重大な冒涜だとか、ますます日本が堕落していくなとか、ふむふむテレビを見ながら、僕は伸びた顎ひげをさすっていた。父親から突然電話がかかってきて、こんな大変な日になんだろうと少しめんどくさげにスマホを手に取ると、実家の愛犬が危篤だと告げてきた。 1週間前にトリミングに行ってからというもの、ご飯を食べなくなっていた。トリミングによる老犬への負担はとても大きく、

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        【エッセイ】春、遠からじ。されど僕は憂う。

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        記事

          とにかく文章力を養うためにも、毎日エッセイを久々にやろうかしら。慣れなきゃ。

          とにかく文章力を養うためにも、毎日エッセイを久々にやろうかしら。慣れなきゃ。

          【断片小説】アンダーコントロール・フォー・ザ・ジュラシック・ワールド・エンド

          ここに終わる物語は、わたしにとっての福音である。あなたにとっては黙示録かもしれない。でも、男の子ってそういう最後にどかーんと爆発で終わってしまうようなの、好きでしょ? 最初は戸惑い、傷つくことだろう。でもその先恐れるとしても、少しは愛を含んでドラマチックに終わることが出来たのなら、たまに思い出しては感傷に浸れる。そして、そこに成長があると勘違いをする。そういう、有り体に言えばエゴイスティックなロマンチシズムを追いかけるのが男なんだ。きっと。わたしは女で、いくらか現実的で、それ

          【断片小説】アンダーコントロール・フォー・ザ・ジュラシック・ワールド・エンド

          あくまでも

          新宿は相変わらず人気が多く、新型コロナなどどこ吹く”かぜ”と言った感じだった。実際、アルタ前ではワクチン反対派の人間がマスクを付けないまま集会を開いていた。歌舞伎町の方と新宿駅東口の両方からやってくるマスクを付けた人間が、マスクを付けない人間を避けるように歩いた。一昔前に流行った団体行動のような鮮やかな避け方だった。社会が分断されているのは一目瞭然だった。それでも目まぐるしく人々が行き交う様子は、誰かが複雑なパズルを完成させるために何通りも組み合わせを試しているみたいにも見え

          あくまでも

          靴を洗わない

          初夏のゲリラ豪雨に濡れた靴が、マンションの乾いた廊下に足跡を残した。天気予報も見ずに外出したものだから、傘を持ち合わせていなかった。折り畳み傘さえ、出かけるときの晴れ模様を眺めた時にソファの上に放り出してしまった。先見性がない。想像力も、スピリチュアルな予感もない。まるで備わっていない。 とにかく、ずぶ濡れで帰ってきたあと、僕はドラム型洗濯機に衣服を投げ入れ、熱いシャワーを浴びた。髪を乾かしているときになってやっと濡れた靴の存在を思い出した。ハンガーに靴紐を括り付け浴室乾燥

          靴を洗わない

          おろおろ映画日記②「ゾンビのことを想うと夜も眠れない」

          ゾンビ映画について休日前夜はゾンビ映画を見る。連勤からの解放感が、疲れ切った魂を蘇生へと導く気がする。そんな気持ちとゾンビ映画はなんとなく親和性が高い。何かが腐り朽ちることについて考えるスペースが脳内に生まれるからだろうか。 灼熱の大地の上に陽炎がゆらゆら揺れて、その揺れ幅に呼応するようにふらふらと彷徨っている何かがいる。遠目からではそれがゾンビなのか、それとも瀕死の縁を彷徨う人間なのかわからない。安息地を求めるロードムービーと化したゾンビ映画でよくあるシーンだ。肌寒い墓地

          おろおろ映画日記②「ゾンビのことを想うと夜も眠れない」

          おろおろ映画日記①「ピッキングのセンスがないなら、どこかにキーを隠すべきだ」

          ミスター・キーファーは安楽椅子を前後に揺らしながら、パイプを吹かしていた。 「これは年代物なんだ。私のじいさんのものでね。じいさんは父に形見としてこのパイプを残したんだけどね。だが、父はじいさんとちょっとした確執があったんだ。これは、父に一度も吸われることなく、私に譲られた。私はまだ17だった」 それからずっと吸い続けている。ミスター・キーファーは、英語の理解力の乏しい僕に対して、ゆっくり話した。まるで英語の授業を受けているみたいだ。 「それで、今度は君のことを話してくれるん

          おろおろ映画日記①「ピッキングのセンスがないなら、どこかにキーを隠すべきだ」

          今後の予定

          なんとなく、筆を置いていいアイディアなり展開なりを思い付けるかな、とゴロゴロしていた。でもまあ、そんな簡単には出てこない。 どうしたものか。 先にテキトーにタイトルを作って、後から中身を加えればいい。そうしよう。そう思い立った。 ここから10回、以下のタイトルで連載しよう。映画あるあるにかこつけて何かを書いてみようかと思うよ。うむ。 ①「ピッキングのセンスがないなら、どこかにキーを隠しておくべきだ」 ②「ゾンビのことを想うと夜も眠れない」 ③「僕は生きるよ。僕が死んだら誰

          今後の予定

          ほぼ毎日エッセイDay20「音」

          この部屋は、地上15メートルくらいだろう。 空気が澄んでいる。と言いながらも実は排気ガスや黄砂がいくらか含まれているのかもしれない。しかし僕にはそういうのは1つも分からない。開いた窓から風が忍び込んでくるのが分かる。テーブルに投げ出した脚をひんやりとなぜるからだ。一対の大きな耳は集音マイクでも搭載したかのように色んな音を拾う。色んな環境音が耳元で鳴る。姿かたちの見えない何かが何も考えずに吐き捨てた音だ。幸い、拾う神がここにいて良かったと思っていただきたい。僕は目を閉じる。

          ほぼ毎日エッセイDay20「音」

          ほぼ毎日エッセイDay19「色塗り問題」

          70色入りのマーカーペンが届いたというのに使いこなせない自分がいた。自分の意見や立場が、押しなべてふらふらしているせいだ。 ○や△や□の連なりや組み合わせを丁寧に結び、あるいは慎重に消し、そうして描き上げた下絵を前に僕は腕を組んで、じっと睨んだ。 昔から色塗りは上手くはなかった。配色のチョイスは一見したところ悪くはないように思える。ところが、ペン先が紙に触れインクが染み込んでしまった束の間の後で「この色じゃなかった。欲しかったのはこの色じゃない」と嘆くことが何度あっただろう

          ほぼ毎日エッセイDay19「色塗り問題」

          ほぼ毎日エッセイDay18「アフロディーテのうそ」

          「実は、あなたのことが好きではなかった」と彼女は電話口で告げた。「申し訳ないけれど」と言う。そのまま電話は切れた。その時僕は柔軟剤入り洗剤を目盛りで測ろうとしていて、カップを左手で握った状態だった。電話の不通音は、開いた窓から忍び込む秋の虫の鳴き声に驚くほど馴染んでいた。 二年後。 「君のことが本当は好きではなかったんだ」と、僕は別の彼女に言った。「申し訳ないけれど」と間を置いて付け足した。「いつから?」と彼女は訊ねた。 「たぶん、最初から。僕らは何かを見間違っていたんだと

          ほぼ毎日エッセイDay18「アフロディーテのうそ」

          ほぼ毎日エッセイDay17「死にたい夜に」

          今でも時々、あの頃を思い出す。順調に思われた2015年は徐々に悪化の一途をたどり、年を跨ぎ、春を迎える頃最悪を迎えていた。 どうして眠れないのかわからないくらい眠れない日があった。 みな寝静まっている。誰もこんな時間に連絡を寄越してくれないから、もちろんスマホも揺れるはずもない。時折、大きなトラックがアパートの前の道路を、息切れした老犬みたいに走り去っていくときだけ静かにベッドが振動した。 深夜2時をまわっても目が爛々と緊急事態だった。充血しているのだろうことは、鏡を見なく

          ほぼ毎日エッセイDay17「死にたい夜に」

          ほぼ毎日エッセイDay16「僕がランチ時に思い出したこと」

          先輩なら全然いいよ。 と、ファミレスで長い間手を繋いだことがある。どういう経緯で手を繋ぐことになったのかはちょっと思い出せない。向かい合って座る若い男女が手を握るその姿は、はたから見ても、恋人同士のふれあいというよりはむしろ拮抗した腕相撲の仕合みたいに見えたかもしれない。 夜の7時を過ぎたくらい。コートを着なくても夜道を歩けるくらいの気温。国道沿いで、車の出入りの難しいところに立地するファミレスだった。 互いに下心があるというのでもなく、長い時間僕らは手を繋ぎあった。 誰か

          ほぼ毎日エッセイDay16「僕がランチ時に思い出したこと」