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音楽よもやま話-第2回 ポルノグラフィティ-雨男と貝女と冷蔵男のトライアングル

はじめに

 ポルノグラフィティは人生である。と豪語しておこう。なぜそう言える?というのはおいおい、回数を重ねて語っていくとして、今回は歌詞について深堀り(というか妄想)していこう。とはいっても、歌詞の素晴らしさについて語るにしても、ダラダラと語ってしまうことになり、余裕で10万文字とかになっちゃうから、もっと絞って語ってみよう。イメソンの帝王とも呼ばれたポルノグラフィティの歌詞世界における、ある3人の恋愛模様についてだ。

ポルノ世界の定義

 ポルノ世界(ちょっと表現がアレだが悪しからず)において、この「街」は純情を食い物にして、愚か者を蔓延らせている。まったくインチキ恋愛ゲームばかり。絡み合う迷宮のような街の路地裏には凶暴がひそんでいる。解体途中のビルの上ではムクドリが舞っている。そのビルの非常階段では、少年は行く当ても分からず爪を噛んでいることであろう。この街は、地獄ではなくて、まして天国でもない。楽園でもなくて、言うなれば荒野だ。正常と言い切る異常に満たされたこの街は、無感覚と無関心の大気汚染に覆いつくされている。温もりもなく生身では危険だ。
 そういうポルノ世界において、とある三人の愚か者が踏み出そうとしていた。愛が呼ぶほうへ、と。

登場人物


「雨男」・・・口の悪いロマンチスト。少年と大人の間。貝女のことを幼いころから知っている。冷蔵男のことを認めつつ、憎んでもいる。「ライン」の元・主人公。バイクが欲しい。
「貝女」・・・街のキャバレーのダンシングドール。踊り子。鮮やかな色彩を持っている。アゲハ蝶。強い人であろうともがく、揺れている人。車を持っている。「ミュージック・アワー」の元・恋するうさぎちゃん。
「冷蔵男」・・離別歴がある。決定的な喪失感を抱いていて、それに苦しむ。貝女をかつての最後の恋人に重ねる。最後の恋人のことを忘れられない。自分のことをいつも不甲斐ない男だと思っている。マメな男で、黒い車に乗っている。喫煙者。「月飼い」の元・月飼い。

第一部 大都会、午前25時


 大都会、午前25時。今夜も街のこちら側の空には、厚い雲が垂れ込め、月を隠している。雨男は、解体途中のビルの屋上に上がり、この世を憂いている。あの夜は素敵だった。でも、ずいぶんと思わせぶりな態度をとってくれたじゃないか、それとも俺は何か見間違っていたのだろうか、と。自分たちなら全て分かりあえるのだ、と。あぁ、あの夜は、素敵すぎてしまったんだ。
 雨が降る日は彼女に会えない、そういうルールが雨男と彼女の間にはある。パートタイム労働者みたいだ。
 雨男は思う。月の見えない今宵、君が見上げる空には月が見えているのだろうか?今頃テーブルの向こうのあいつとワインでも飲んでいるのだろうか?それともあいつの腕に抱かれているのだろうか…。銀の髪飾りはつけたままなのだろうか?秘め事はいつも秘め事のままとは限らない。内緒にしていたつもりだろうけど、雨男はほんとうのことを知っている。


 車から出るとき、雨男が言っていた。ずっと朝からニヤついていると。揺れているばかりのこんな私でも幸せになれるんだ、という淡い期待でいっぱいで、それが顔に出ていたのか。今夜の仕事が終われば冷蔵男に会える。その時、聞こう。あんな痛い立ち位置を超えて、私たちは互いをついに分かり合えることが出来たのだ。「強い人だから一人で大丈夫でしょ?」と振られ続けてきた私を、理解し慰めてくれたのは、冷蔵男なのだ。こんなろくでもない街で、ようやく出会えたのだ。ピンヒールを鳴らしながら街を急ぐ。

 貝女は彼女に似ている、と冷蔵男は思った。窓辺の水槽で月を飼っていた彼女だ。もういない。去ってしまった。危うげな彼女だ。ホテルの一室で冷蔵庫の低いモーター音に耳を澄ましながら、さっき貝女が聞いてきたことを思い出した。「幸せになれるかな?」そして、二言目に「愛して」だ。僕らは分かり合えないのだと、その時思ってしまった。その時の回答も、妙にくさく、セリフじみて聞こえてしまったことだろう。肩を引き寄せたところで、天窓の向こうの空をみたところで、そこに月を見つけたところで、見ている世界は同じとは限らない。自分の月はやはり決定的に欠けている。この世界の傷口のようだ。
 冷蔵男には、貝女の言葉は「助けて」と聞こえたのだ。 
冷蔵男は枕元のメモ用紙を一枚引きちぎり、短い書置きを記して、それを空のワイングラスの横に置いた。

第二部 銀の髪飾り、青いインク


 雨男は、瞬間的ではあるにしろ、彼女や冷蔵男を含む世界の全てを憎んだ。どう頑張っても、彼女には愛の言葉は届かない。俺の口が悪いせいか?いいや、違うと思う。届かないものを見せるってのも悪趣味だ。愛はそんなんじゃない。誰かに見せたり、誇るようなものではないはずなのに。
雨男は自分が進むことも戻ることもできないでいることに気づいた。さっき、ポケットを探っていると銀の髪飾りが出てきた。凶器にほど近い、貝女の揺らいだ心が具現化したようなものだ。どうしてだろう?なぜだ。なぜなんだ。どうして自分は彼女の手のひらの上でくるくると滑稽に踊っているだけなのだ?「あぁ、君はそうか」彼女はきっと、この俺の疑問の海底で、物も言わないマーメイドなんだな。


「月が綺麗」という的外れな回答に貝女は揺れた。星降る夜空に妙にムードを感じ、流れのままに口づけし、流れるままに言葉が口を告いで出てしまった。あの時のあの瞬間って、妙に夜空は優しい。冷蔵男に肩を引き寄せられたとき、彼の瞳を見ても彼の気持ちを見透かすことは出来なかった。月光による蒼い翳りが、瞳を暗くさせていたのだ。
 午前5時、目が覚めるとそこに冷蔵男の姿はなく、テーブルの上には書置きがあった。
 青いインクで「love, too death, too」とだけ書かれていた。
 その瞬間、貝女は全てを悟った。

第三部 午前5時、瞬く星の下で、淡い期待


 午前5時、雨が上がった。見上げるといくつもの星が瞬いている。雨男は、再び貝女のことを思う。そしてもう一度彼女を信じてみることにした。もう一度、子供みたいな無垢な気持ちになってあれこれ考えてみたのだ。真実か嘘かなんてそんなもん、分かった気でいたところで無駄というものだ。白馬に乗るのは自分がいい。いつまでもグズグズするんじゃだめだ。こんな見渡す限りの荒野に、彼女は一凛咲くアゲハ蝶なのだ。そこにはオアシスがある。迎えに行こう。雨男は非常階段で、爪を研ぐ。街へ駆け出す。もし会えたら言ってやるのだ。「最後の愛だとまた見間違ったんでしょ?」って

 午前5時も過ぎて。「目と目が合ったら、君はすぐその気になる。最後の愛だとまた見間違ったね」と、口の悪い友達が電話で言う。たしかにその通りなのかもしれない。学生の頃にラジオに恋愛相談していた時と変わらない。揺れているまんまだ。あの大きなスクリーンみたいな夜空が写していたのは、可愛くないひとりの強情な女の夢だったのかもしれない。ただの甘い幻だった。
 ひとしきり泣いた後で、枕元のメモ用紙を引きちぎり、自分のために手紙を書いた。恋心へ宛てた別れの手紙。寂しい..大丈夫..。

 
 時間は少し巻き戻る。冷蔵男は、街を出、東の港町にたどり着く。結局、自分は彼女のことを忘れられないのか。何回目かの命日。彼女の茜色の瞳を思い出す。夜明け前の海は今日も蒼い。生き急いでいるような時間の過ごし方はしていないけれど、いつになったら会えるのだろう。明日になれば、明後日になれば会えるのだろうか。一体いつまで悲しみを抱えなくてはならないのだろう。冷蔵男は、あなたがここにいたら、と最後の恋人のことを思った。話すべきことがたくさんある気がしている。あなたに似たひとを僕には救うことが出来なかったよ、と。


 夜が明けて。雨男は、バイクにまたがって風を一身に受けている。白馬じゃないけれど、貝女は「オンボロ」って言って笑うかもしれないけれど。疑ってみたり、不安だったりもしたけれど、最後にはハッピーエンドを期待している。

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Zombies are standing out、月明かりのシルビア


 と、前項のような物語を勝手に作ることができる。ふぉぉぉ。なんてネオメロドラマティックなんだ。
 自分で妄想しておいて、なるほど〜なんて思ってしまった。こじつけ満載な感じが多々するものの、難解なポルノ世界を少しわかった気がしたからだ。色々しっくりきた。
「カメレオン・レンズ」は、すれ違う2人の男女を描いた曲なのにどうしてジャケットデザインはペンローズの三角人間なんだろう?と謎だった。あぁ、冷蔵男と貝女と、雨男との三角模様なのかもしれないと思った。

「オー!リバル」は雨男から冷蔵男への挑戦状のようなものなんだろうと思う。ライバル同士の歌なのにどうして”銀の髪飾り”や”踊り子のステップ”が出てくるのか長年謎だったが、貝女を巡っての話なんだろうと思うとしっくりくる。「狼」は口の悪い雨男から、貝女と冷蔵男へ向けた真理をついた悪口にも思える。「フラワー」は貝女から雨男への気持ちでり、“雨宿りのバッタ”は雨男のことなんじゃないか、とか。「メリッサ」で冷蔵男は、貝女に”最後の恋人との遠い日の記憶”に鍵をかけてもらいたかったし(「MICROWAVE」にあるとおり、結局自分で鍵をかけるんだけど。鍵付き冷蔵庫というのが存在する)、最後の恋人に会えないという悲しみを、貝女の手でためらいなく切り裂いてほしかったのだろう。


「Zombies are standing out」は冷蔵男が最後の恋人へ向けた慟哭そのもののような気がする。

‘光がその躰を焼き 灰になって いつか神の祝福を受けられるように‘


 たぶん、冷蔵男は早く死にたいのだと思う。

‘死して 生きる 永遠の転生‘

 明日か、明後日か、いつか死ねば、かつての、最後の恋人に会えるからだ。それが永遠の転生の意味だと思う。難解な歌詞「ミステーロ」で、どうして冷蔵男が躰を脱ぎ捨てたいか、たぶん死にたいからだ。魂の救済を求めている。「ミステーロ」のアウトロのイタリア語のセリフで女性がどうして「私は何の返事も持ってない」、「あなたを愛する権利はない」と呟いているのか。だって彼女は死んでいるから。冷蔵男とは会えないからだ。ちなみに、その彼女=最後の恋人の名前は、たぶん「シルビア」。シルビアはイタリア語圏に多い名前である。
 そう「月明かりのシルビア」だ。彼女もまた踊り子だったのだろう。


 今回、図らずも晴一さんの歌詞ばかりになったけれど、ここに昭仁さんの歌詞についてもちらりと考えてみると面白い。晴一さんの歌詞はポルノ世界やそこに生きる人々を描き、昭仁さんの歌詞は、ポルノ世界に生きる人々の心情を強く歌っているのだ。「ROLL」や「リンク」なんかまさに信じるという言葉を見つけた、雨男から貝女へのラブレターのように思える。「Ouch!」なんかは冷蔵男と最後の恋人との生活の思い出のようにも思えてくるし。
 じゃあ!「黄昏ロマンス」は?「サボテン」は?「アニマロッサ」は?「見えない世界」は?「オニオンスープ」は?「あなたがここにいたら」ってもしかしてそういうこと??、とこのポルノ世界に住む3人のことを思いながら聞くと新たな発見があることだろう。


 ポルノグラフィティは人生である。誰かの人生を歌っている。「月」は理想のメタファーで、「水」は愛のメタファー。愛は「悲しみ」や「喜び」など色んな名前を持っていて、彼ら3人を遠くから近くから見守っている。

プレイリスト・・・三角関係のポルノグラフィティ

 今回のように、解釈ベタベタに展開することを何人かの人は心よく思わないかもしれない。だがまぁ、こういう聞き方もあるよ。ってことで、認めてくれなくてもいいので許してくれ。ここにプレイリストを置いていく。いやー、まるで一つの小説だ。舞台だ。映画だ。美しい。

プロローグ
オレ、天使⇒このポルノ世界の定義づけ
ライン⇒雨男と貝女
ミュージック・アワー⇒貝女の幼い頃
月飼い⇒冷蔵男の過去

第一部
THE DAY⇒非常階段で爪を噛む雨男
今宵、月が見えずとも⇒屋上で唾を吐く
素敵すぎてしまった⇒懐古
Part time love affair⇒雨男と貝女の関係性の整理
ルーズ
ワン・ウーマン・ショー~甘い幻~⇒貝女から冷蔵男への想い
痛い立ち位置⇒貝女と冷蔵男の駆け引き
まほろば〇△⇒貝女と冷蔵男の駆け引き
MICROWAVE⇒冷蔵男、最後の恋人を想い、遠い悲しみの記憶に鍵をかける
ネオメロドラマティック⇒冷蔵男、貝女と救いを求める
カメレオン・レンズ⇒分かり合えない男女

第二部
ANGRY BIRD⇒雨男から貝女、冷蔵男への怒り、憎しみ、嫉妬、慟哭
ジョバイロ⇒雨男から貝女への想い
LiAR⇒冷蔵男から最後の恋人への想い
アゲハ蝶⇒冷蔵男から最後の恋人への想い
夜間飛行⇒貝女と冷蔵男の夜
瞳の奥をのぞかせて⇒貝女から冷蔵男への想い
Love, too Death, too⇒冷蔵男から貝女への手紙

第三部
瞬く星の下で⇒雨男、貝女を信じる
狼⇒雨男、貝女と冷蔵男をなじる
オー!リバル⇒雨男から冷蔵男への挑戦状
サウダージ⇒貝女、恋心に別れを告げ、手紙を記す
ミステーロ⇒冷蔵男、最後の恋人の命日に街を出る
シスター⇒冷蔵男、最後の恋人を深く想う
ハネウマライダー⇒Days of the sentimentalを駆ける雨男、貝女の元へ

エピローグ
Century Lovers⇒天使によるポルノ世界の定義づけ、再解釈
愛が呼ぶほうへ⇒エンドロール、全てを見守る愛

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