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The mystery of jellyfish〜クラゲの神秘的な世界〜

海月」という言葉に何を感じるだろうか。海を悠然と漂う或る生き物を月に見立てて、古代の人々は「海月」という漢字を当てたとされている。そう、クラゲである。クラゲには「水母」という漢字表記もあり、古代からクラゲという動物に様々な想いを馳せてきたことが窺える。

 さて、クラゲと聞いたとき、皆さんはどんな印象を持たれるだろうか。毒を持つ危険な生物、或いは捉えどころのない不気味な生き物といった印象を持たれるかもしれない。その一方で、クラゲの優雅な動きに心が落ち着くという人もいるかもしれない。近年はネコやハムスターなどに限らず、クラゲに対して癒しを求める人も増えてきていると言われている。ちなみに、歴史を振り返れば、クラゲ類に魅了されてきた人は沢山いる。日本人なら誰もが知っているであろう昭和天皇もそのお一人で、昭和天皇がクラゲ類の分類を研究テーマになさっていたことは有名である(注 1 )。

 では、クラゲの魅力とは一体どのようなものなのだろうか。勿論、時を忘れさせるようなあの優雅な動きも魅力の一つだろう。しかし、私はクラゲの魅力はそのようなところに留まらないと思っている。クラゲの魅力は、もっと数多くある。それゆえ研究対象としても非常に面白い動物であり、かく言う私も大学の卒業研究でクラゲ類を研究材料として発生生物学の研究を行なっている。

 そんなわけで、本記事ではクラゲとは一体どんな動物なのかという話から始まり、クラゲ類の魅力、そして私の研究テーマについての話をする。クラゲに魅了されている人は当然のこととして、クラゲにどことなく不気味さを覚える人も是非最後までお付き合いいただき、少しでもクラゲに対する魅力を感じていただければ幸いである。

1、クラゲの分類

 生物学において分類は非常に重要である。例えば、ヒトであれば脊椎動物亜門哺乳綱霊長目ヒト科ヒト属という分類になる。また、宮城県でこの時期によく食べられるものにホヤがあるが、ホヤは脊索動物門ホヤ綱という分類になる。このように、全ての生物は門、綱、目、科、属、種の順に分類されている。

 では、クラゲ類の場合はどうなるのだろうか。クラゲ類は主に刺胞動物門と有櫛動物門の2門に跨る生物群(注 2 )であり、一般的には刺胞動物門に属するクラゲが皆さんが想像するクラゲになる。食材として利用されるクラゲはビゼンクラゲやエチゼンクラゲなどの数種に限定されるが、何れも刺胞動物門鉢クラゲ綱根口クラゲ目に分類されるものである。また、刺されると痛いクラゲとして有名なアンドンクラゲは、刺胞動物門箱虫綱立方クラゲ目という分類になる(1)。以上のように、一般的に思い浮かべられるクラゲ類は刺胞動物という分類に属し、刺胞動物は更に鉢虫類、箱虫類、ヒドロ虫類、花虫類に大別される。鉢虫類や箱虫類には水族館で展示されるような大型のクラゲが属し、ヒドロ虫類には顕微サイズのクラゲが多く属するのが特徴である(注 3 )。

 ところで、刺胞動物の「刺胞」という言葉に疑問を持たれた方もいらっしゃるかもしれない。クラゲに刺されると痛いのはクラゲが持つ毒に由来するのだが、その毒の正体が刺胞である。刺胞毒を持つものは数々の動物を見渡しても刺胞動物に限定されることから、刺胞を持つ生物を大きく刺胞動物という分類にしているわけである。

 刺胞は触手の部分からまるでミサイルのように発射される毒針なのだが、この刺胞のできがかなり凄いのである。刺胞が相手に与える圧力は何と 7 GPa と言われている(2)。体重 50 kg の人が面積 0.5 $${cm^{-2}}$$ のハイヒールを履き、片足に全体重をかけると 9.8 MPa の圧力になることを考えれば、刺胞の圧力は何と700人分の圧力が加わる計算になる!もし、700人の人が押しかけ、全体重をかけたハイヒールで一点を踏まれたとしたら、かなり恐ろしいものである。幾ら変わった趣味の人であったとしても、これは流石に耐えられないのではないだろうか。そして、刺胞から滲み出る毒はかなり強力なもので、ちょっとでも触手に触れようものなら、その毒によってたちまちに触れた生物の動きを封じてしまう。毒が強力なものであれば、例え人間であったとしても死んでしまう可能性があるほどである。このように、刺胞は非常にできのよい構造であり、クラゲが見た目とは裏腹に海のハンターのような存在になっているのは、まさにこの刺胞という構造に由来している。

 閑話休題。このようにクラゲ類を共通性という点から捉えれば、刺胞というかなりできのよい毒を持つというところから説明することができる。クラゲ類は動物の中でも非常に高性能な毒を持つことによって、脳も発達させずに海の中を悠然と漂い続けることができる存在になっているのである(注 4 )。そして、それこそが多くの人がクラゲに魅了される一つの理由を作り出している。こう考えると、刺胞というクラゲ類固有の毒は、様々な意味でクラゲ類を特徴付けている要素であることが分かる。……このようなクラゲ類の共通性を見てきたところで、次はクラゲ類の最も魅力的で、且つ興味深い多様性の部分に目を向けて行くことにする。

2、クラゲの生殖方式

 クラゲ類を共通性という観点から特徴付ける刺胞は、摂餌や防衛といった生活史(Life history)に有利なものであることを見てきた。しかし、生活史にはもう一つ重要な要素がある。そう、繁殖である。実は、この繁殖という観点から見ると、クラゲ類の驚くほど多様な側面が見えてくる。 

 繁殖を考える際は、よく生活環(Life Cycle)という概念が用いられる。ライフサイクルとは世代交代がどのように起こるのかを表わしたものであり、サイクルという言葉の通り必ず一巡するようになっている。例えば、鉢虫類のミズクラゲではライフサイクルがよく研究されており、模式的に図 1 のような過程で生殖を行なっていることが知られている。つまり、クラゲ世代ではヒトと同じように有性生殖を行い、受精卵はプラヌラ幼生を経てポリプという形態になる。ポリプとは図 2 のような形態のことを言い、ポリプもまた刺胞毒を持ち貪食である(注 5 )。ポリプはクラゲ体と異なり、無性生殖を行うのが一般的であり、一つのポリプがクローンをどんどん増やして行く。そして、条件が整えばポリプにストロビアという構造ができ、ストロビアからエフィラ幼生が遊離してくる。エフィラ幼生は成熟し、我々がよく見るクラゲ体になるのである。

 ミズクラゲのライフサイクルを見てきたが、このライフサイクルが多くのクラゲに当てはまるのかと言えば、残念ながら問題はそう単純でもない。例えば、クラゲ体を持たずポリプ体のみで無性生殖と有性生殖を同時に行う種もいる一方、ポリプ体を持たずクラゲ体で有性生殖のみを行う種もいる。また、不老不死のクラゲと呼ばれることのあるベニクラゲでは、クラゲ体がポリプ体に逆戻りする現象(若返りなどと呼ばれる)も確認されている。或いは、ミズクラゲと一見すると似たライフサイクルを持つクラゲであっても、クラゲ体でポリプ体と同様に無性生殖を行う種もいる。そうかと思えば、プラヌラ幼生ではなく、アクチヌラ幼生というまた違った幼生の形態を持つ種もいる

 このように、一口にクラゲと言っても、クラゲ類には驚くほど生殖の多様性が存在している。例え見た目が同じクラゲであっても、ポリプ体の方は全く違う特徴を持つなどということは珍しくない。そのため、ライフサイクルが完全に明らかにされているクラゲ類は少なく、ライフサイクルがよく分かっていないクラゲ類の方が圧倒的に多いのである。この傾向は特にヒドロ虫類で認められ、学術的にもまだまだ底の知れないクラゲが数多くいる。クラゲ研究の面白さはまさにこの多様性にあると言え、刺胞動物の系統発生がどのようになっているのかという問いは本当に深淵である

 そんなわけで、次は私が扱っているクラゲ類3種(ヒドラも含まれる)を紹介し、どのような点が興味深いのかを述べたい。

図 1 ミズクラゲのライフサイクル
図 2 ヒトツアシクラゲのポリプ体

3、研究紹介

 私が扱っているクラゲには、主に3種類いる。先ほどポリプの写真を掲載したヒトツアシクラゲと、ヒトツアシクラゲと同じ科に属するクダウミヒドラ、そしてライフサイクルがほとんど分かっていないカタアシクラゲモドキ属の一種である。それぞれ分類としては、ヒドロ虫類花クラゲ目クダウミヒドラ科、ヒドロ虫類花クラゲ目クダウミヒドラ科、ヒドロ虫類花クラゲ目カタアシクラゲモドキ科となる。また、学名としてはHybocodon prolifer, Tubularia sp, Euphysa sp(spとは種が特定されない場合に用いる)である。これらは、それぞれ面白さを備えている。

 先ず、クダウミヒドラから紹介しよう。クダウミヒドラは図 3 のようなポリプ体しか持たず、クラゲ世代を持たないのが特徴である。そのため、ポリプの状態で有性生殖と無性生殖を行っている。このクダウミヒドラについては、何と言ってもその再生が面白いと言える。クダウミヒドラを切断すると、切断面から完全なヒドロ花(口と触手をまとめた部分)が再生し、1個体が2個体になる。このクダウミヒドラの再生については古い研究結果が多数存在し、今から100年ほど前にはかなり研究されていたようである(例えば文献 3 )。しかし、今の観察状況からするとどうも切断をしない限り殖えないという特徴があり、なぜ切断をしないと殖えないのかは大きな謎である。また、ヒドロ花が再生する際に一体どのような物質が関与しているのかも謎であり、どうも生物電気信号が関与していることは分かっていても(文献 4 )、その機構は完全に明らかにされていない。クダウミヒドラの再生は傷を治癒する結果として起こる外傷的再生(文献 5 )であるのだが、思うにクダウミヒドラの再生とヒトの怪我の治癒などは相通ずる部分が多いのではないかと予測している。その根拠としては再生の際の生物電気信号の極性が挙げられ、ヒトの骨折では骨折部位が負の電位を示すらしい(文献 6 )のだが、クダウミヒドラの再生においてもヒドロ花の形成部位は最初負の電位を示すようである。このことから、クダウミヒドラの再生とヒトの怪我の治癒は進化的に同じ起源にある、或いは収斂進化で獲得された可能性があり、クダウミヒドラの再生機構を明かすことはヒトの怪我の治癒に対する理解を深めることになるのではないかと密かに思ったりもする。本当のところはよく分からないが、クダウミヒドラの再生機構に関する研究がもっと進められても良いのではないかと思う。

 次に、同じクダウミヒドラ科に属するヒトツアシクラゲである。ヒトツアシクラゲの面白さは幾つかあり、一つ目にクラゲ体でも無性生殖を行うこと、二つ目にクラゲ体の触手がなぜか傘の一箇所に集中していること、三つ目にアクチヌラ幼生を形成すること、そして四つ目にポリプ体からクラゲ体が遊離する際に夏眠を経なければならないことが挙げられる。クラゲ類の生殖の多様性は先述した通りであるが、休眠を経なければならないという事実は非常に面白く、嘗てどのように休眠するのかが研究対象になったほどである(文献 7 )。勿論、クラゲ類では温度や栄養条件によってクラゲ体を形成するということは決して珍しい話ではなく、例えばエダアシクラゲにおいても休眠現象は見られる。しかし、ポリプがどのように温度を知り、またどのような機構で休眠に入るのかを説明することは現段階ではできない。加えて、休眠から脱した後にクラゲを作る機構も定かではなく、中々面白いところであると言えるだろう。このようなライフサイクルの話で言えば、ヒトツアシクラゲは一般的なプラヌラ幼生ではなく、アクチヌラ幼生を形成するところも面白い。アクチヌラ幼生を形成するものにはベニクダウミヒドラなどもいるが、アクチヌラ幼生を形成する種はクダウミヒドラ科の一部の種に限定される。クダウミヒドラ科でなぜアクチヌラ幼生が形成されるようになったのかという問いは、刺胞動物の系統発生上非常に面白い問題である(注 6 )。そして、ライフサイクルの話から逸れれば、クラゲ体の触手がなぜ傘の一部分に集中しているのかも非常に大きな謎である。残念ながらクラゲの様子を画像でお見せすることはできないのだが、東北大学の浅虫生物アーカイブには(文献 8 )ヒトツアシクラゲのクラゲの写真が掲載されているため、是非この写真を一度見てみて欲しい。クラゲの触手が一箇所に集まっている様子がよく分かるかと思う。なぜ、触手が傘の一部分に集まっているのか。私にはこれが非常に不思議な現象に思えてならない。

 最後に、クラゲにおいて触手が一箇所に集まっているものは何もヒトツアシクラゲの特権ではなく、カタアシクラゲ及びカタアシクラゲモドキにおいてもそうである。ただし、黒潮生物研究所の写真(文献 9 )のようにカタアシクラゲ及びカタアシクラゲモドキでは触手が一箇所に集中しているのではなく、そもそも一本の触手しかないという特徴がある。そのため、カタアシクラゲモドキにおいては、なぜ触手が退化し一本だけになったのかということが大きな謎になる。また、カタアシクラゲモドキではライフサイクルがほとんど明らかになっておらず、ポリプの姿がそもそも日本では記録されていないほどである。それゆえカタアシクラゲモドキではライフサイクルを解明することが、第一の課題になっている。ちなみに、私のところでは幸いなことにポリプが既に形成されており、海外の文献に記されているようなポリプ(文献 10 )を観察することができている。目下、ポリプからどのようにしてクラゲが形成されるのかを調べているところである。そして、私のところで扱っているのは正確にはカタアシクラゲモドキではなく、志津川産のカタアシクラゲモドキの一種とされているもの(文献 11 )であるため、本家のカタアシクラゲモドキ(Euphysa aurata)と遺伝的、或いは形態的にどのような差があるのかを調べることも課題である。このように、カタアシクラゲモドキに関しては知られていることよりも知られていないことの方が圧倒的に多いため、研究の対象としては非常に面白いと言える。

 これまでは個々の面白さについて見てきたが、クダウミヒドラ、ヒトツアシクラゲ、カタアシクラゲモドキに跨る系統的な面白さもあると思っている。と言うのも、クダウミヒドラとヒトツアシクラゲはクダウミヒドラ科に、カタアシクラゲモドキはカタアシクラゲモドキ科に、カタアシクラゲはオオウミヒドラ科に属し、ミトコンドリアの16s領域の解析結果によれば進化的に案外近い関係にあることが知られているからである(文献 10 )。勿論、現在ではそれぞれの科は3つのクレードをなしているわけだが、それぞれのクレードに関してこれほどまでに異なる特徴が生じているということは非常に面白い事実である。また、クダウミヒドラ科の中で見れば、クダウミヒドラはポリプ体しか持たず、ヒトツアシクラゲはなぜか触手が一箇所に集中したクラゲ体を持つのが疑問である。そして、カタアシクラゲモドキとカタアシクラゲではクラゲ体が比較的似た特徴を持つにも関わらず、ポリプの方は異なる特徴を有するというのも面白いところである。系統発生になぜという問いかけをしても難しいものがあるのだが、この系統発生の謎に対して思わずなぜという問いかけをせずにはいられない。

 以上が今現在私の扱っている研究の内容である。このようにそれぞれの特徴を並べてみると、クラゲ類の多様性が非常に面白い学術的な興味を引き起こすものであることがお分かりいただけるのではないかと思う。

図 3  クダウミヒドラ

4、終わりに

 以上、クラゲ類(刺胞動物)を刺胞という共通性から捉えるとともに、ライフサイクルという多様性からも捉えた。また、実際に研究対象としているクダウミヒドラ、ヒトツアシクラゲ、カタアシクラゲモドキの一種を紹介し、それぞれの面白さや複数種に跨る謎を簡単に述べさせていただいた。

 さて、皆さんはクラゲのどのようなところに魅力を感じただろうか。きっと、人それぞれに魅力を感じる点は異なることと思う。しかし、私は常にこう思う。確かにヒトから見れば、クラゲは非常に原始的な生き物に見えるかもしれないが、クラゲの姿は生き物として一つの洗練された姿であると。特に、ヒドロ虫類のような顕微サイズクラゲに至ってはより一層そう感じ、生き物の姿として完成されているようにさえ感じられる。そして、その謎を探り明らかにしていくことで、益々クラゲの洗練されたあり方に驚かずにはいられないのである。そのため、私はクラゲの研究に魅力を覚えずにはいられない。--

 最後に、この記事で少しでもクラゲの魅力が伝わったのであれば、非常に嬉しい限りである。よろしければ、感想やご意見もいただけると幸いである。また、もしこの記事を読んだ方の中にクラゲの研究・観察をなさっている方がいらっしゃれば、是非お話を伺いたい。noteクリエイターへの問い合わせ欄から、一報いただければこれほど嬉しいことはない。最後までお付き合いいただいた読者の皆さんと、これほどまでの記事を書けるまで私の指導してくださった大学の恩師に感謝をしつつ、筆を置くことにする。


注釈

1:昭和天皇は主にクラゲ類の分類を研究なさっており、現在ではクラゲの飼育に当たり前のように使われるアルテミアも昭和天皇が柿沼好子さんに助言なさったところから始まったことである。そのため、昭和天皇の先見の明により、日本でも刺胞動物研究が非常に進んだと言える。しかし、昭和天皇のご関心はクラゲ類に留まることはなかった。貝類や植物などもご研究なさっており、「雑草という名の植物はない」と仰ったことは非常に有名である。また、海産生物の記録を詳細にまとめれており、その記録は「相模湾産ヒドロ虫類」などの本にまとめられている。まさに、昭和天皇は一人の生物学者であったと言えるだろう。

2:かつては刺胞動物と有櫛動物をまとめて腔腸動物門という分類がなされていた。しかし、現在では刺胞動物と有櫛動物が異なる系統に位置付けられており、腔腸動物という表現は余り使われることがない。ただし、有櫛動物にはウリクラゲやカブトクラゲなどが属し、有櫛動物の和名にもクラゲという言葉が普通に使われている。

3:花虫類にはクラゲ類が属しておらず、イソギンチャク類が属している。

4:高性能な毒を持つことによって、触手にかかった獲物を確実に仕留められるようになり、動物の最も基本的な行動の一つである摂餌に困らなくなったと言えるだろう。また、これだけの毒を持つことにより、クラゲ類を襲う動物が減るようにもなるため、防衛という点でも役に立つ。そのため、刺胞という構造を持つことによって、摂餌と防衛という動物の行動の基本的な部分が果たせるようになり、刺胞動物は敢えて神経系や循環器系などを発達させずとも適応的であったと考えられる。

5:ポリプはpolypusというラテン語に由来し、多くの足という意味がある。つまり、触手を足に見立ててポリプと呼んでいるわけである。ちなみに、ポリプをタコのことを指していたこともあるようで、古い著作ではポリプと言ってタコの特徴を記していることもあるようである。

6:嘗てアクチヌラ幼生は幼ポリプと見なされ、クダウミヒドラ科では変態現象を経ない直接発生が起こると考えられていた。しかし、山下・伏谷(2002)によれば、アクチヌラ幼生は”真の”幼生であり、あくまでもプラヌラ幼生とは異なる幼生を経て間接発生が起こっているようである。プラヌラ幼生ではなく、敢えてアクチヌラ幼生を経る理由は、大きな謎と言えるだろう(文献 12 )。


参考文献

1:並河洋, 楚山勇(2000). クラゲガイドブック. p 27, 28, 38, CCCメディアハウス.

2:山下桂司(2011). ヒドラ. 岩波書店.

3:T. H. Morgan(1900). Regeneration in Tubularia.

4:S. Meryl. Rose(1974). Bioelectoric Control of Regeneration in Tubularia. Amer Zool 14, 797-803.

5:巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也, 塚谷裕一(2013). 岩波 生物学辞典 第 5 版, ”再生”. 岩波書店.

6:深田栄一(1980). 生物の成長と電気信号. 生物物理 20, 36-50.

7:中山晶絵(1999). 眠るクラゲ. 遺伝 53, 44-50.

8:東北大学 浅虫海洋生物学教育研究センター(2022/8/12アクセス). 浅虫生物アーカイブ, ヒドロ虫類.

9:黒潮生物研究所(2022/8/12アクセス). カタアシクラゲモドキ.

10:Peter Schuchert(2010). The European athecate hydroids and their medusae (Hydrozoa, Cnidaria): Capitata Part 2. REVUE SUISSE DE ZOOLOGIE 117, 337-555.

11:峯水亮, 久保田信, 平野弥生, リンズィー ドゥーグル(2015). 日本クラゲ大図鑑. 平凡社.

12:山下桂司, 伏谷伸宏(2002). 腔腸動物幼生の着生に関与する外的・内的要因. Sessile Organisms 19, 111-120.

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