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広告を改め「狭告(きょうこく)」を行うべきではないか?【BtoC編】


私は電通グループなどの広告会社やデジタルマーケティングコンサルのネットイヤーグループでインターネット広告、マス広告、UXデザイン、PR、データ分析など幅広く経験してきた知見を活かして、今はPR会社カーツメディアワークスでマーケティングコミュニケーション領域のコンサルティングを行っています。「狭告(きょうこく)」は、私が考えた造語ですが、ブランド経営者や、大手企業のデジタルトランスフォーメーション推進者、デジタルマーケティング支援仲間など、この考えについて話したら評判が良いので本noteで紹介させて頂きます。


狭告とは?


日本のマーケティングは長らくTVCMなどマス広告起点でした。良い商品を大量に作り、それを販売チャネルに乗せて、広く告知すれば売れたマスマーケティング時代。マーケティングの起点はプロダクトであり、販売チャネル、コミュニケーションチャネルのうち圧倒的な影響力のあるマスメディアを抑え、いかにして効率良くリーチを拡げフリークエンシーを稼ぐかが重視されました。次に、パソコンの時代になりました。インターネットでCMより詳しい情報が相互にやりとり出来る様になり、TVCMでは「◯◯で検索」「詳しくはWebへ」といった告知を行い、オウンドサイトで企業がお出迎えする様になりました。今はスマホ時代です。SNSが浸透しさらに状況は変わりました。消費者のネット上の生活圏となるソーシャルメディアを通じたユーザー同士のコミュニケーションの場に企業がお邪魔しに行く時代となっています。

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※欧米ではコントロールできる自社SNSを「オウンド」と定義している、筆者もその考え方なので、上記図の右下の自社SNSをオウンドメディアとして捉えている。(日本はSNSを全て「アーンドメディア」と捉える考え方が一般的)

主役が消費者になり、気に入って頂ける素敵なコンテンツや体験(リアルも含む)を企業が提供し、その情報を届けることができれば、消費者自らが拡散してくれる様になりました。反面、ネガティブな拡散=炎上というリスクも考慮すべき検討事項となりました。

スマホ時代に適した手法として、SNSの広告を活用したコミュニケーション手法が狭告です。手法はリターゲティング広告です。リターゲティングと言うとダイレクトマーケティング的な買って買って訴求で追いかけ回す様なものを思い浮かべる方が多いと思いますが、狭告はそうではありません。ユーザー目線になり、ユーザーに歩み寄ってコンテンツを届ける。販促や値引きだけではなく、ブランドのエンゲージメントを高めることを目的とした情報発信を行います。ちなみに私は物欲がないタイプで、衣服や家具などの消費は家内が起点になりますが、家族でたまに大型ショッピングモールやIKEAなどに車で買い物に行くのは楽しいです。IKEAでの体験を例に狭告の活用イメージを紹介します。(なお、私は同社の支援実績はなく、いち顧客としての目線で紹介しています)

私はIKEAの店舗での買い物体験が好きです。家族で行くので、ついつい余計なものも買ってしまいます。ですが、同社のSNSアカウントはフォローしていませんし、ECの会員にもなっていません。ただ店舗に行った時は気にいった商品を見つけたら店舗内でスマホで検索をしてECサイトに行き、関連商品を調べたりします。こうした行動をするとECサイトに残った足跡(Cookie情報)をもとに買って買って的なバナーに追跡されます。仮にこうしたリターゲティングバナーが(Cookie有効期限が長く設定されており)数か月リターゲティング広告接触が続いたりするとかなりウザいです。ちなみに、IKEAに限らず企業からのメルマガは極力フォローしませんし、見ません。仕事仲間、プロジェクトメンバーとのやりとりのほとんどはメッセンジャーアプリかslackなどのビジネスチャットツールです。私の中では電話はおろか、メール自体がレガシーなものになりつつあります。

※私は仕事柄ネットを通じて入る情報が多いので厳選するため、企業のアカウントやメールをフォローしない。こうしたユーザーはネットリテラシーが全世代的に今後も上がっていくため、今後増えていくと考える。


狭告では、追っかけ回す様なウザいバナーではなく、Cookie有効期間を短く設定し、ブランドのサイトに来訪後、1~2週間を上限に、良く使うSNS上のフィードを眺めている際に「(自分が興味のある商品や内容の)投稿」をリーチさせることを狙った広告配信を設計します。手間を惜しまずリターゲティング配信とコンテンツの設計を緻密に行うことがポイントです。「リビング」の商品ページを見ていた人、「ベッドルーム」の商品ページを見ていた人には、それぞれ適した投稿を広告として配信することが可能です。私の様な「ライトユーザー」の来店動機の形成を行い、1年で1回から2回、3回と増やす様な施策として有効な施策です。

狭告のターゲットはライトユーザー


例えば、年間来訪ユニークユーザー(以下UU)数100万人のオウンドサイトを運用している場合、購買してくれている方は何割いるでしょうか?また、購買している方の平均年間購買数が例えば5回だった場合は、どの様に分布しているでしょうか?分布Aの様に正規分布の様な分布はほぼ無いと言ってよいです。

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購買回数1回の方をピークとした分布Bの様になっているケースが殆どです。

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これは購買に限りません。特定のブランドのことについて言及するユーザーの一人あたりの投稿回数の分布はもっと極端に「1回のみ」に偏る場合が多いです。あるツール(企業ヒミツ)を使用してあるブランドのブランド名を含むハッシュタグ投稿(数万件)を抽出し分析したケースでは、当該ハッシュタグ投稿ユーザーの全体の平均投稿回数は5回でしたが、「1回のみ」の方は全ユーザーの約70%もいました。10回以上投稿するヘビーユーザーは全ユーザーの7%しかいませんでしたが、そのユーザーの投稿数は投稿数全体の60%以上を占めていました。ソーシャルメディアマーケティング支援会社などが企画提案などの際に安易に「シェアを誘発」などというが、頻繁に「シェア」してくれる人はごく限られた超レアな存在であり、その存在を増やすこと、シェアを増やすことはそう簡単ではないことをきちんと理解しておいたほうが良いと思います。

一般的には、

(ライトユーザー)サイトに来訪している人>オウンドSNSをフォローしてくれている人>購買したことがある人>>>>>>>>>>>>(以下ヘビーユーザー)年2回以上購買してくる人>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>年3回以上購買や年10回以上SNS投稿してくる人

上記の様な顧客の構造となっている企業が多いと思います。

多くの企業は新規ユーザー獲得に向けた広告に注力していますが、ライトユーザー向けにしっかりと情報を発信する視点で「広告」を活用できていません。それを行うのが狭告です。顧客との関係を強化する為、オウンドSNSで素敵なコンテンツを用意することに苦心している企業は多いと思いますが、用意したコンテンツをFacebookやInstagram、Twitterなどのフィードで、ユーザーの好みに応じた投稿をしっかりと届けられている企業は少ないです。Facebookを例に挙げると、私が運用型広告の支援を開始した10年ほど前は、オーガニックリーチだけでも多くリーチしました。(例えばファンが1万人ならばその3~5割程度)ただ最近は良くて1~2割前後ではないでしょうか?それはユーザーのリテラシー向上(フレンド数やいいね!をしているページの量が増えていること)やFacebookのアルゴリズム変更などによる影響と思われます。自社SNSのフォロワー向けにも投稿を広告配信しないとほとんど届かなくなっている現状があるにも関わらず、各SNSのファンを増やす為の広告配信は行っているが、ファンになった方に広告投稿でメッセージやコンテンツを届けられていない企業は多いです。「釣った魚に餌をやらない」状態です。これができていない企業が多いからこれはチャンスとも捉えられます。これをしっかり行い、次に紹介する様な効果検証を用いて活用することで競合企業を出し抜けるかもしれません。


狭告で実店舗を含めた売上を増加


私はSNSの効果をインターネット売上のCPAだけで評価しません。何故なら大抵、実店舗の売上を増やしているので、その影響も考慮するべきだからです。全売上に占めるネット購入比率は1〜2割位の企業が多いです。ほとんどが実店舗の売上ですが、一般的にはSNSの広告やオーガニックリーチが実店舗の売上にどれだけ影響を及ぼすか定量化して把握されておらず、年間1億円のSNS広告で1万回ECで売れていたら、ECの売上増加CPA1万円といった指標でのみ運用されています。それは私から見ると大きなチャンスロスです。数理モデルを用いて実店舗への売上貢献を定量化してみると、ECに加え、実店舗の売上は3万回増えていると分かったとします。実店舗への影響を加味すると1億円で4万回売れており、合算CPAは2500円となります。リアル店舗の売上回数増加効果を加味してCPA1万円まで投資可能とする場合はSNS広告を1億円から4億円に増やす判断ができます。また、SNSでリーチを1人増やす、いいね!を1回増やすと、その数に対して0.05回売上が増えるといった定量的な指標を持つことが出来る様になりSNS運用者は、1投稿あたりのいいね!数を1000獲得できたので、(リアル店舗も含めて)売上をいくら位増やすのをアシストしていそうだという指標が持てる様になり、運用時のモチベーションを上げることができます。過去、私はこうした支援をしてきました。効果検証法はいくつかありますが、私が執筆した書籍で紹介させて頂いたマーケティングミックスモデリングという手法があります。詳しくは下記のnoteをご覧ください。

日本のマーケティングのいびつなリソース配分状況を変え、「狭告」によって(リアル×ネット)全体の売上を上げる。


殆どの企業が、マスマーケティング時代からの「広告」発想で、TVCMなどを用いて新規ユーザーを獲得することに躍起になっています。その投資金額はマーケティング予算の中でも多くを占めると思いますが、数理モデルなどを用いて定量的に把握していない企業が未だ多いと思います。

反面、デジタルマーケティングの世界ではDMPやMAツールなどを用いて、ログを分析し、メールなどのコミュニケーションシナリオを設計したりと躍起になっていますが、超ヘビーな一部のユーザーを前提にコミュニケーション設計を考えられており、ライトユーザーの対策ができていないケースをよく見かけます。

メールやアプリプッシュ通知などは主にヘビーユーザー向けの施策となるため、SNSを活用したライトユーザー向けの狭告をぜひ活用頂きたいと思います。

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IKEAを例に挙げましたが、同ブランドの様にある程度認知があり、販売チャネルも多岐にわたり、かつ購買単価が1万円を超える様な商材を扱う企業はぜひ広告予算を狭告予算へのシフトを実践することを推奨します。IKEAの様な規模でなく、TVCMを投下していない規模のブランドでも支援実績はあります。数千万円のSNS施策への投資がリアル店舗を含めた数億円の売上をリフトしていた事例もいくつかあります。狭告をしっかりと行い効果を出すにはマス×ネットで効果検証を行うこと、ユーザー目線でペルソナを考え、それに応じたコンテンツを用意し、配信設計を手間を惜しまずに行うことが重要です。私はゆくゆくはこれらを全てを支援する「狭告代理店」を目指したいと思っていますが、今は弊社実行のリソースも限られるので主に私が「狭告コンサルティング」の立場で活用のロードマップを描き、並走する支援を行っています。

ご興味を頂けた方は、下記に告知するイベントなどでお会いできれば幸いです。ここまでお付き合い頂きありがとうございました。

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