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日本人の知らない日本語文法#3「先生、窓があきています」後編

前編の記事をまだご覧になっていない方は、ぜひこちらからご覧ください。

まずは、前回のおさらいから。
前回はまず、動詞の活用形のひとつである「て形」を作るためには
動詞の分類を理解する必要がある、というところから
動詞の3つの分類をざっくり見てきました。
それが、五段動詞、二段動詞、その他 の3つです。

それではいよいよ、て形を作っていきましょう。
3分類それぞれに変換規則があります。

まず、規則が一番シンプルなのが二段動詞です。
二段動詞は、単純に「○○ます」を「○○て」に変形させるだけです。
「食べます→食べる」、「着ます→着る」のような要領です。
ただ「ます」を取り除いて、代わりに「て」をピタッとくっつけるだけです。

またその他に含まれる「来ます」「します」も、
て形に関しては二段動詞と同じ動きをします。
他の動詞だとそうではないこともあるので厄介なのですが…。
とにかくて形に関しては二段動詞と同じ、でくくれそうです。

なんだ、日本語学習者を苦しめるというほどではないじゃないか、と思った皆さん。お待たせしました。

最も厄介な存在、五段動詞の登場です。
まずはいくつか例を挙げて、規則を予想してみましょうか。

  • 行きます → 行って

  • 走ります → 走って

  • 読みます → 読んで

  • 立ちます → 立って

  • 話します → 話して

  • 乗ります → 乗って

さあ、いかがでしょう。
全ての語をすっきりと説明できる規則は見つかるでしょうか。

前編でも少し触れましたが、
現状の日本語教育文法ではかなり泥臭い方法で説明しています。

①五段動詞のうち、「ます」の前のひらがなが「い/ち/り」の場合は、
「ます」を「って」に変換。
②五段動詞のうち、「ます」の前のひらがなが「に/び/み」の場合は、
「ます」を「んで」に変換。
③五段動詞のうち、「ます」の前のひらがなが「き」の場合は、
「ます」を「いて」に変換。
④五段動詞のうち、「ます」の前のひらがなが「ぎ」の場合は、
「ます」を「いで」に変換。
⑤五段動詞のうち、「ます」の前のひらがなが「し」の場合は、
「ます」を「して」に変換。

さあ、いかがですか。
既に日本語でて形が何不自由なく作れる母語話者から見ても、「本当にこれ以外に説明する方法ないのか??」と感じてしまいます。
私の頭の中で本当にこの場合分け、してる?

一発で説明できる規則がないので、
5パターンに場合分けしてそれぞれ少しずつ小さい規則を見つけていくしかないというのが今の結論です。

これで、日本語学習者がて形の変換に苦しんでいるということがなんとなく想像できるのではないでしょうか。

今回例に挙げた「窓があきています」を改めて考えてみると、
「あく」のます形は「あきます」、「ます」の前が「き」でイ段なので、
これは五段動詞に分類されます。

そうすると、五段動詞のチマチマした場合分けに従い、
「ます」の前が「き」なので、「いて」に変換することになり、
やっと「あきます」のて形「あいて」にたどり着きます。

「あきて」は、おそらく「あきます」の分類を間違った結果だと推測されます。
「あきます」を二段動詞だと認識したと仮定し、二段動詞のルール「ます」を「て」に変換する、という規則にあてはめると「あきて」にたどり着くからです。

こうやって「て形」を勉強すると、留学生は日本で生活する中で耳に入ったり目に入ったりする日本語の中に「て形」がかなりの頻度で登場することに気が付くようになります。

実際、「て形」以外にも日本語の動詞にはいろいろな活用形がありますが、
日本語では動詞を活用し、その後ろに文法機能を持つ語をくっつけることで、かなりいろいろなことが言えるようになります。

て形だけをとってみても、
「買ってください」
「買ってみよう」
「買ってくる」
「買っていく」
「買ってあげる」
「買ってもらう」
…など、かなりいろいろな使い道があります。

このように、周りに日本語が飛び交う日常生活の中でたくさんの「て形」を無意識的に聞き、頭の中に「て形」データベースができてくると、
不思議と形を間違えずに、短時間で変換できるようになります。

ちなみに、今回は「五段動詞・二段動詞・その他」という名前で活用を説明してきましたが、
実際に日本語勉強中の方にこれを教えるとなると、実はもう一つ壁があります。
考えてみれば当たり前ですが、この「五段動詞」「二段動詞」という名前は、日本語学習者には伝わりません(中国出身で漢字からなんとなく意味を読み取れる人ならいいかもしれませんが)。

分類の名前は機関や現場によっても多少ばらつきがありますが、
五段動詞を「1グループ」、二段動詞を「2グループ」、その他の動詞を「3グループ」とする呼び方が一般的かと思います。
私がこれまでに所属してきた日本語教育機関でも基本的に上の呼び方でした。

日本語の授業を考えるときには、ある文法事象の規則を明らかにするだけではなく、
それをどうやって日本語がまだ話せない人々に伝えるか?という課題がいつもついて回ります。
これも個人的には、面白いと感じるポイントです。

というわけで今回は日本語の動詞の活用の一つである「て形」をざっくり紹介してみました。
外国語として日本語に出会っていたら?と考えるとなかなか面白いなといつも思います。

今回のように、外国語としての日本語文法について書いたものは他にも記事がありますので、ぜひこちらもご覧ください。


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