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【第26話】”思い出嫌い”

カレー、お好み焼き、ラーメン、焼き肉…

巷の好きなメニューランキング上位に上がってきそうなこの食べ物たち。私は昔から全然好きではなかった。しかも、アレルギーがあるとか、味が合わないという理由で嫌いだったのではない。

私の「好き嫌い」には、どうやら両親が影響していたのかもしれないと気がついたのは、実はつい最近のことだ。

*読む時のお願い*
このエッセイは「自分の経験・目線・記憶”のみ”」で構成されています。家族のことを恨むとか悲観するのではなく、私なりの情をもって、自分の中で区切りをつけるたに書いています。先にわかって欲しいのは、私は家族の誰も恨んでいないということ。だから、もしも辛いエピソードが出てきても、誰も責めないでください。私を可哀想と思わないでください。もし当人たちが誰か分かっても、流してほしいです。できれば”そういう読み物”として楽しんで読んでください。そうすれば私の体験全部、まるっと報われると思うんです。どうぞよろしくお願いします。

*読む時の注意*
このエッセイには、少々刺激が強かったり、R指定だったり、警察沙汰だったりする内容が含まれる可能性があります。ただし、本内容に、登場人物に責任を追求する意図は全くありません。事実に基づいてはいますが、作者の判断で公表が難しいと思われる事柄については脚色をしたりぼかして表現しています。また、予告なく変更・修正・削除する場合があります。ご了承ください。

特にカレーは、見るだけで食欲が無くなるほど苦手に思っていた。

旦那さんは、毎日カレーでも良いほどのカレー好き。ある日、夕食のメニューのリクエストを聞くと「カレー!」と嬉しそうに返事が返ってきた。私自身、苦手なのであって食べられないわけではないため、リクエストに答えて作ることにした。

レシピを見ながら、複雑な気持ちで鍋をかき混ぜる。私がどうしても食べられへんかったら、旦那さんが勝手に食べるやろ〜くらいの気持ちで作っていた。しばらくして出来上がり、お皿に盛り付ける。それを嬉しそうに頬張る旦那さんを横目に自分も…パクリ。

 「…あれ、美味しい…?」

初めてそう思ったことに、自分でも驚いた。カレーは母の味が悪いとか、私の味が上手ということではなかった。議論の後、旦那さんが一言結論をつけた。

 「Maiの嫌いなものとか苦手なものって、結局思い出の問題なんやよ、きっと。」

思い返せば、バッタモン家族の「食卓」は最悪だった。全員、必ず揃ってご飯を食べる鉄の掟もあった。思い返してみても、家族で楽しくご飯を食べた記憶など数えるほどしかない。毎度毎度、「全員揃うのを待ってました!」とばかりに、両親は私たち子供の前で、お互いを罵りあったり、他人の悪口を言い合っていた。

例えばある日は、母が一生懸命に作った料理に、父がいちいち文句をつけていた。ヒステリックに怒る母。キンキンとした彼女の声が、頭の奥を突き刺す。それに応戦する父も怒声を張り上げる。

 「熱い!品数が少ない!」
 「じゃあ!食べへんかったらいいやん!捨てるわ!!」
 「そこまで言わんでええやろ!ヒステリックになるな!うるさい!」
 「文句言うなら食べんといて!捨てたらいいやん!」
 
はぁ、しょーもない。文字通り飯が不味くなるのがおわかりいただけるだろうか。

どちらもいちいち声を荒げて怒るような内容ではない。ただし口を挟めば、父の拳が飛んでくるかもしれない。飛び火はゴメンだ。声を上げたい衝動を抑えて、黙々とご飯を流し込む。

この両親の喧嘩中の食卓に並んでいたのが、何を隠そうカレーだったのだ。ちなみに、同じようなシチュエーションで、お好み焼き、ラーメンや、ひじきの時もあった。そりゃ「美味しいなぁ」なんて思わないか。味なんてする前に飲み込んでしまうだけの食事だったのだから。

ちなみにこれは、何も食べ物に限ったことではない。映画や本、ドラマなどに関しても、特段嫌な思い出が蘇るようなものは、今までずっと”思い出嫌い”だったのだ。

何かを嫌いなのは全て私自身のせい、というわけではなく、両親や家庭での環境の影響だったことが多いように思う。特に私にとっての「食卓」は、一日の中で一番気を使う、苦痛な時間だった。誰も地雷を踏まない様に気を回しながら、自分も一刻も早くその場を去れるように、目の前の食べ物を流し込んでいた。そんな思い出が影響して、苦手な食べ物が、必要以上に増えていったのだと思う。探せば、まだ出てきそうなものだ。

旦那さんと食べるご飯は、楽しい。悪口も喧嘩もなく、その日1日の話で笑ったり話し込んだりして、平和にご飯を食べる。こんな”普通”は、今まで私の人生には用意されていなかった。

バッタモン家族での嫌な食事の思い出は、旦那さんのおかげで楽しい思い出に上書きされていっている。

もちろん今では、カレーも、お好み焼きも、ラーメンも大好物だ。

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