2023年10月10日、マーケティングのクラスでプレゼンした。

MBA1年目の秋学期は、経済学と並行してマーケティングのクラスを受講している。毎週1回全14回で、12月頭まで続く。

40人強の受講生がランダムに4人組のチームに分けられ、プレゼンの日程が決められている。このプレゼンが上手くいけば20点満点を得点できる。
他にもテストや授業参加点等いくつかの項目で点数を稼ぎ、マーケティングのクラスを通して満点100点を狙うという仕組みになっている。

プレゼンは先週から開始し、私のチームは2番手だった。出順は悪くない。

何かしらマーケティング記事を探して戦略を分析し、これをプレゼンする。
細かい条件はいくつかあるが、良いテーマが見つかれば面白そうなお題だ。

プレゼン準備

プレゼンの２週間前にキックオフ。
英語環境で馴染みのない記事を分析するのは苦痛に違いない。できればテーマは自分で決めたいところだ。
教授が参考にと教えてくれたマーケティング関連のウェブサイトをザッピングし、クラフトビールの記事を見つけた。

美味しそう。そう思って記事を読み進めた。

おもしろいかも。そう思って関連する情報を他にも調べてみた。ビール業界の動向はマーケットが大きいので情報がたくさんある。
集めた情報をまとめてメンバーに連絡した。こうしてテーマは決まった。

モルソンクアーズ社が、自社のクラフトビールブランド・ブルームーンのパッケージを刷新。そして、ブルームーンブランドのノンアルコールビールを新商品として売り出すという記事である。

私は分析パートを担当することになった。分析にはクラスで学んだ知識をいかすことが条件の一つとなっていたので、5C's分析というマーケティングツールを使うことにした。5つのCの観点でモルソンクアーズ社がどのような状況に置かれているかを調べる。必ずしも5つでなくてもいいので、私は「Company：モルソンクアーズ社」、「Customer：ビール市場」「Competitor：大手ビールメーカー」について調べた。「C's」というのは、これらの頭文字である。

プレゼンのためのマーケティング分析は、誰かの分析を後追いし自分なりに編集するという簡易なものだが、それだけでも十分学びになる。
集めた情報を自分なりにまとめた内容をスライドと共に記述するが、ここでは情報の正確性は担保しない。

5C's分析①Company：モルソンクアーズ社

ブルームーンは、モルソンクアーズ社のクラフトビールブランドである。
モルソンクアーズ社は、ミラーライト（全米売上4位）、クアーズライト（5位）等多数のビールブランドを有する巨大ビールメーカーである。また、変わり種でいうと、ハードセルツァーと言われる、サトウキビ由来の糖分による発酵で生み出されたアルコールの炭酸飲料Vizzy（低カロリーでグルテンフリー）も人気である。

クアーズライト社の2022年年間売上は107億ドル（仮に135円/ドルで換算すると1兆4千億円）で、アメリカで2番目、世界で5番目に大きい。

なるほど、クアーズライト社は巨大企業で、ビール業界において財務面、流通面、マーケティング面で安定した強みを持つはずである。

さて、肝心のブルームーンについても調べる必要がある。まずは飲む。近くのWhole Foodsで購入できた。シトラスフレーバーで爽快な味わい。オレンジを添えてみるとお店っぽくてしゃれているし、ビールなのにヘルシーな気さえする。
ブルームーンは全米売上2位(2022年)の人気クラフトビールだそうだ。ここ1年以上クラフトビール市場におけるブルームーンのシェアは毎月成長している。
1995年にアメリカのコロラド州デンバーで生まれたブルームーンは、ベルギーの伝統的な小麦ビールの製法にヒントを得て、オレンジピールやコリアンダーの風味を加えた香り豊かな独創的なビールとなっている。

とにかく何が言いたいかというと、ブルームーンはアメリカで既に大人気なのである。

日本では白鶴酒造㈱が日本国内での独占輸入販売契約をモルソンクアーズ社と締結し2023年3月31日から全国で発売されている。

5C's分析②Customer：ビール市場

スライドの円グラフのとおり、2022年の米国内年間ビール売上高は1,154億ドル（15兆5千億円）と巨大マーケットである。そして、クラフトビールの売上はその約25%を占めるので無視できない。

次に2021年の年間売上と比較してみる。インフレや各商品の価格の違いの影響を排除したいので、売上金額ではなく売上量で見てみよう。
ビール全体の売上量は約3%減少している。一方クラフトビールは持ちこたえている。
ビール好きの私としては、ビールの売上が減っているという事実はピンとこない。

さて、ビール市場で何が起きているのか考えてみよう！

ここからは様々な分析情報を読み漁った私なりの結論になるが、上述のような売上トレンドの主な要因の一つは、Z世代の市場への参加といえるだろう。

Z世代とは1996年から2012年に産まれた若い世代で、アメリカで飲酒が可能な21歳から27歳(2023年現在)がビール市場のZ世代にあたる。

Z世代は他の世代に比べて健康志向なのは、マーケティング業界では自明のようだ。Z世代は飲酒は控えめだが、飲まないということでもなく、質を重視してお酒を楽しむ。Z世代はビールを購入する際、価格以上に質を重視するという調査結果も出ている。
また、これまでの世代はお酒といえばビールだったのだが、Z世代になって初めて、ビールやワインよりもウォッカやジンを好み、嗜好に大きな変化が生じている。
さらにアメリカを代表するようなナショナルブランドビールは本物のビールではないし、魅力的ではないとZ世代は感じているようだ。
味とは異なる点では、Z世代の約30%は商品パッケージのデザインや見た目が購買決定の重要なポイントと考えている。

まとめると、ビール市場におけるZ世代の存在感が大きくなってきているということである。

もちろん、Z世代は単なる一つのフォーカスエリアであり、他の世代も考慮する必要がある。ただやはり、Z世代は将来的にさらに増え重要な顧客層となるのだ。ビール会社は将来に向けて、Z世代をターゲットとしたマーケティング戦略を本格的に仕掛ける必要がある。

5C's分析③Competitor：大手ビールメーカー

モルソンクアーズ社の好敵手はアンハイザー・ブッシュ・インベブ社（ABインベブ社）である。少し補足すると、2008年にベルギーのインベブ社がオランダ・フランスの大手金融機関から融資を受けアメリカのアンハイザー・ブッシュ社を買収・合併し名称変更したので、ABインベブ社の本社はベルギーということになる。とはいえ、アンハイザー・ブッシュ社はアメリカビールの代名詞であるバドワイザーの会社で、その本社がベルギーにあるだなんて信じたくないアメリカ人もいるんじゃないかと思う。ABインベブ社の売上はアメリカや南米の市場に支えられているので、なおさらだと思う。

ABインベブ社の2022年年間売上は577億ドル（7兆7千億円）、世界最大のビールメーカーである。ABインベブ社の主力ブランドであるバドライトはアメリカで一番売れているビールであるが、これだけではなく他にもたくさんの有名ビールブランドを有している。

少し立ち止まって考えてみよう。

クラフトビール市場に焦点を当てると、バドライト等のようなメジャーなナショナルブランドビールは関係なさそうだ。商品としての競合は、山のようにあるクラフトビールブランドになるだろう。
先述したとおりブルームーンは現在売上2位と調子がいいが、将来的にはどうなるかわからない。

もう少しクラフトビールについて考えてみよう。

クラフトビールは、たいてい小さな会社が少ない資金で製造する。しかしながら、もしクラフトビールの売上を一気に大きくし全国展開したいなら、製造設備を整え、効果的にマーケティングし、物流を安定させ、そして何よりこれらを実現するための資金を集める必要がある。

クラフトビールの売上ランキング上位10位を上のスライドの右側に載せたが、多くの大手ビールメーカーが、人気のあるクラフトビールの醸造所に投資している。資金的に厳しい醸造所が多いようだ。
つまり、ブルームーンに焦点を絞ってみても、やはり今のところ、競合はABインベブ社のような大手ビールメーカーとなるのだろう。

以上の分析を踏まえて、他のメンバーの3人が、Z世代へのPR、新商品発売、リブランディングについてモルソンクアーズ社ブルームーンの戦略を具体的に説明するという構成であった。後半のスライドは私が作成したものではないので載せないでおく。

プレゼン本番

本番前日にスライドを完成させ、スクリプトを作った。ここまで準備したのだから、本番は完璧にしたい。家で何度も練習した。英語のプレゼンで5分以上しゃべるなんて、気が遠くなる。それでも練習すると自信が少し湧く。

クラスの中休憩が終わってすぐ、我々の出番になる。
私がトップバッターである。

「Have you tried Blue Moon before?」

とても上手くいった。
クラス後に飲みにいった友人にほめてもらってうれしかった。
「クラス内のムードを作り上げてたね。」
その日のビールはひと際美味しかった。