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「眠らない」と「眠れない」(講演より)

みなさんこんにちは。

今日は、お忙しい中、ずいずい元気になるために来ていただきまして、大変にお疲れ様そして有難うございます。

私、さきほどご紹介にあずかりました、ンマニ伯爵と申します。何をしているかと申しますと、ここにありますように「精神科医」と「産業医」ですね。企業向けの労働衛生関連サービスを提供しているわけです。えーと、産業医、ご存知でしょうか。産業医は、医師免許を持ってる医者なんですが、治療とかはしないんですね。いろんな会社の従業員さん達の病気や怪我を予防したりするのが仕事です。産業医によっては併せて健診もやる人もいますが、私はいまのところ、やってません。健診の結果表を見てアドバイスするのがお仕事です。

そしてここ、シーランド公国というところ、さあどこでしょうね。そこの伯爵というのもやっております。ご存知ですか? シーランド公国。そんな国、しーらんど。と。そういう感じですね。どわははは。受けますね。私だけですか。

さあ、シーランド公国です。どこでしょうここは。ご存知グーグルマップさんのお力をお借りしております。そう、ヨーロッパのあたりですね。ここにフランス、イギリスとありますが、ドーバー海峡もありますね。その、この辺りです。ここ、拡大しますと、こうですね。やっぱり判りません。陸地はどこでしょう……っと、ないですね。そうです。実はシーランド公国ってのは、こんなです。

私はここにいる、おそらく何百何千もの伯爵のうちの一人なんですね。面白いでしょう。このシーランド公国ってのはいろいろと面白いストーリーもあるんですが、まあ今日は時間もありませんので、ご興味がおありの方は後ほど検索してみてください。

さあて、本題にまいります。
「睡眠」について、ちょっとお話してみましょう。

精神科で診察をしておりますと、たまに、そうですね、みなさんのように「お若い」方で、受診される方がいらっしゃいます。こんなパターンのことがあるんですね。

例えば定年退職された方とか、このパターンが多いんじゃないかなとも思いますが。

先ほどの方は「困って」いたんですが、そもそも、「困る」必要があるかどうか、ということなんですね。

睡眠というのは「欲求」ですが、それはもともと「必要」から生まれるものです。食欲のようなものですね。

その場合、基本はこうです。
必要であれば、サインが出る。必要じゃなければ。サインが出ない。

「眠くならない」のは、実は睡眠が足りているから、かもしれないですよ。

前のスライドの話と違うのが、この「睡眠不足」です。

睡眠不足っていうのは、「必要な睡眠をとってない状態」です。例えばですね、遅くまで残業してて、帰ったらもう真夜中、次の日も朝早く出なきゃ、みたいな状態ですね。睡眠時間が三時間くらいしか取れなかったよ、っていう。

眠いのに、仕事の関係で眠る時間が確保できない」とか、「たっぷり遊びたくて夜更かしした」り、「勉強が深夜までかかってしまって寝てない」から睡眠が足りなくなる、のが「睡眠不足」ですね。あ、場合によっては「睡眠時無呼吸症候群」「レストレスレッグス症候群」などのような身体の病気によるものもありますね。この場合も、「必要な」睡眠が取れずに日中に影響が出るという意味では、似た状態になるわけです。

これが続くと、こんなふうな悪影響が出てきますから、これは業務の見直しや生活を改めて睡眠状態を改善させる、つまり「もっと眠る」ことが「必要」なんです。

最近よく言われている「睡眠負債」ですが、これ、確かに大事なことなんですね。ただ、注意しなければならない点があるんです。

通常、お仕事されている方が、きちんと睡眠時間が確保されていれば、こんなふうになります。平日はお仕事して、疲れてくるとパフォーマンスが落ちて、で、その日のうちに睡眠で解消して、という繰り返しです。

この下の部分、グラデーションの部分、これがパフォーマンスですね。これを全部合わせると「こなせた仕事の量」って感じです。一週間でこれだけの仕事をしたぞ、あるいは勉強をしたぞ、人によっては遊んだぞ、ってわけです。

これが、平日にあまり睡眠時間が確保できないけど、週末に「睡眠負債」を解消するから、いいや、って思ってずっとそのままってのは……

こんな感じになります。

平日の睡眠では足りませんので、ちゃんと回復せずに、週末にいくと、少〜しずつパフォーマンスが落ちていっちゃうんですね。金曜日あたりは、もう集中力も落ちて、呆っとしたりちょっと眠かったりなんかして、ミスも多くなったりします。会議なんかあった日には、即落ちですね。こういう講演会でもそうですね。いや、ひょっとして睡眠不足じゃなくても眠いですか?

それでもってこれを週末の「睡眠負債の解消」で何とかしようとしますと、まあ最終的には睡眠時間の帳尻は合うわけなんですが、よーく見て見ますと、この、グラデーション部分が「戻る」わけではないですよね。集中力が落ちた状態で仕事をしてる部分が週末に補えるわけじゃない。週末に仕事、してませんから。

すでに過ぎた日を遡って、仕事のやり直しができるわけじゃないですよね。だから、この時、効率良くない仕事になっちゃってた部分、これは戻らない。睡眠時間として帳尻は合っても、結局トータルの「仕事量」としては、帳尻が合わないわけです。

その上、リフレッシュ出来る時間も減ってしまいます。休日の多くの時間が潰れてしまいます。これじゃあ、メンタル的にも、色んなしんどい物が溜まっちゃいそうです。

「この時期だけ忙しくて」なら、まあ仕方がないんです。この半期に一度、こういう週がある、なんて場合は。そういうことも、まあ無い方が良いんですが、世の中、そううまくはいかないもんです。

そしてこれが「自分のいつものリズム」になってしまうと、長期的にはソンしてしまう、って、何となく解っていただけるんじゃないでしょうか。

皆さんがたの中に、社長さん、会社の経営者や管理を任されてる方、いらっしゃるかもしれないですね。従業員のみなさんの睡眠を確保できるような環境のほうが、やたらと仕事を詰め込むよりも、結果として業績アップに繋がるんですよ。ぜひご検討ください。

また、眠る時間があっても眠れず、対処が是非とも必要な状態があります。

睡眠の必要があるのに、脳が勝手に活発に動いてしまう症状が出てしまうような病気で、それを止めるために睡眠導入剤や安定剤を使って「眠らせる」必要がある場合ですね。これも、「病気の症状だから」その病気の治療のため、眠らせる必要があるわけです。放っておくと、もともとの病気が悪化してしまうことがあるんです。

いってみれば、脳内が「火事」になったような状態です。これは、脳みそ自体から発生した病気ですから、自然に鎮火するのは難しいですし、火が自然に消えるまで待っていては、色んな不具合が出てきてしまいます。「被害」ができるだけ少なくなるよう、早く火を消す必要があるというわけです。

また、うつ病の症状が重いような時には、眠るエネルギーすら足りなくなってしまって眠れないようなことが出てきます。そのような場合にも、一時的に薬の力を借りて眠る必要があることもあります。それで眠るエネルギーが出てきたところで、自然に眠るようにする、ということですね。

じゃあ、これはどうでしょうか。

これはよくあるパターンかもしれません。日中にあった色々なことが頭にあって。心配事ですね、それで眠れなくなる、と。

これ、睡眠導入剤安定剤で眠れば解決、でしょうか?

でも、薬で心配事、解決しませんからね。これは日中の心配事を別の形で解決する、ってことが必要なわけです。これはお酒でも一緒ですよ。もっとも、お酒はぼんやり麻痺させて寝付きを良くしますが、睡眠の質は落ちてしまって結局トータルではソンする、といわれていいます。

そして、こういうときは薬の効果もあんまりないもんなんです。薬で問題は消えないからですね。そのままです。

脳が「心配してしまう」ことを強制的に止めるほどの力は、現代の普通の睡眠薬にはありませんから、薬を飲んでも布団に入れば心配事が頭に出てきます。だから眠れない。

そこで「眠れないから」といって睡眠薬をどんどん強くしたくなってしまう方もいらっしゃいます。眠れないのは、睡眠薬が弱いからだ、って思われてしまうわけですね。

けれども、心配事が解決しないままに強くしていくと、翌日のだるさやふらつき、生活リズムの乱れ等の副作用だけがあって、かえって辛い思いをしてしまったり、下手したらそのせいで日常活動に影響が出て、ますます心配事が増えてしまったりも、してしまいます。

ストレスはお酒で解消……されないですね。麻痺させて「今、見ないこと」にして先延ばししているだけです。結果、先延ばしした分だけストレスは長く続いて苦しむ期間も長くなります。

心配事や悩みに際して睡眠薬で眠る、というのにも、そういう側面があります。心配事への現実的な対処を放置したままで、睡眠だけ確保しようとして「逃げるように」睡眠を取っても、いつまでも心配事は続いてしまい苦しみが長引きます。

本来の心配事に、「薬を飲んでるのに眠れない」という苦しみが、重なってしまうわけです。

心配事が続いて抑うつ状態になったりすれば、それはそれで別の薬、場合によっては一時的に睡眠薬を使う必要が出てくることはありますが、それは「薬で眠れるようにする」というのとはまた目的が違う、ということになりますね。

さあこれは、どうでしょう。「何となく」です。対処が必要な「病的な不眠」との区別はつくのでしょうか。

大体の目安は「日中に普通に動けているかどうか」ですね。家事や仕事が出来てるなら、それで睡眠はまあ、問題ないという感じです。午前10時ころに眠気がこないで普通に動けていれば、まあ大丈夫です。昼食後には、大抵の人が眠くなりますが、動いて眠気が取れるようならば、オッケーでしょう。

そんな状態であれば、「夜、もっと眠らなきゃならない」ような状態ではないものと思います。ましてや、夜に薬を飲んでまで眠らなきゃ、ということはまずありません。

こういった講演をしますと……特にここにいらっしゃる皆さんのような「お若い」皆さんにアンケートを取りますと、睡眠に不満のある方がだいたい1〜2割といったところのようです。おおむね満足されてる、ってことですね。

睡眠に「不満」があるって方の大半も、薬を飲む必要がないんじゃないかな、と思います。それが、年齢とか日中の活動量に応じた、「自然な睡眠量」の場合がほとんどだからです。

「病気」でないものは、「治療」できませんよね。

むしろそれで、「薬で」対処すると、とくにご高齢の方には、色んな副作用が出てきちゃいます。これ、本当に重大です。

現代の睡眠薬は、昔の小説やドラマであったように、大量に飲んで自殺、というような危険性がほとんどないため、安全なものという風にいわれてきました。しかし最近の研究では、長期にわたって飲み続けるときに発生する依存の問題や、特に高齢者が服用したときに転倒などで問題になりやすい、ふらつきや脱力の副作用が注目されてきています。そのため近年では、以前ほど手軽には睡眠薬をおすすめしなくなってきています。

むしろ、こうした薬を使ってでも「眠らなきゃいけない」とか「ぐっすり寝たい」というより、そういうふうに思ってしまうようなこと自体を変えていく必要もあるのかもしれないですね。その年齢や日中の活動の状況で、「夜はぐっすり」というのは、逆に不自然な状態にも思えます。

「薬を飲むと安心だから」っていうのも、なんだか逆に心配です。それだとなんで「安心」なのか、っていうことを、ちょっと考えてみる必要もありそうです。最近の睡眠薬の大半は、抗不安薬……精神安定剤の一種ですね。それと成分がよく似ているので、効果も似ています。

睡眠薬には副作用として抗不安作用があり、抗不安薬には副作用として眠気があります。飲んで感覚が少し鈍くなったり、体の力が抜けてリラックスした感じを「安心」と錯覚している可能性もあります。

今の睡眠で「苦痛」「不満」なのは、「不必要」なものを「必要」だと思いこんでいるから、かも、と。

なので、睡眠に不満がある、という人は、ぜひ「睡眠」ではなく、日中の「活動」での満足を意識しましょう。眠っている間には何も出来ませんが、起きている間には自分の意思で様々な活動ができます

寝ている間には自分で問題を解決できません。起きている間に解決しましょう。

「眠ることだけが楽しみ」という人は、問題は睡眠じゃなく日中の過ごし方にあるんじゃないかな、と思うわけです。むしろ「眠るのがもったいない」と思えるくらい、日中が充実していると良いかもしれないですね。まあそれも行き過ぎると困ったことにはなるんですが。

要するに「睡眠薬」は、「解決策」ではないんです。

さあ、お年や活動とともに睡眠時間は短く、浅くなっていきますが、それでも充実した睡眠が欲しい、という方は、「じゃあ病院で薬を」の前に、まずはこれをやってみましょう。

特に「朝日を浴びる」は大事です。お仕事や勉強されていた頃は、毎日通学や出勤してましたからね。今でもされてるかもしれませんが。自然と朝日を浴びていたんです。自宅で自営業の方も、朝に店の前を掃除したりシャッター開けたり、してましたでしょ。

勉強やお仕事から離れられても、これ、ぜひ何か朝にやること決めて、朝日を浴びるといいです。散歩でも掃除でも、近所のゴミ拾いでもいいでしょう。30分ほど朝の光を浴びましょう。

あとは、仮眠、お昼寝ですね。これ、意外に多くて。「眠れないんです」というんですが、よくよく話を聞いてみると、2時間も3時間も昼寝されてる方、いらっしゃいます。それじゃ夜に眠れないのも当たり前。それで睡眠薬飲むのは、もってのほか、です。ただし、30分以内の仮眠は、「パワーナップ」とか言って、却って気分をシャキッとさせて午後の活動が集中できるようですから、取り入れてみても良いようです。くれぐれも、仮眠、ですから、時間に注意しましょう。

……ここにあります、この「放熱」ですが、眠くなると、赤ん坊の体、そうだったでしょ。体が熱くなってくると、ああ、眠いんだな、って。これ、眠るときに、体の熱を「放熱」しているから、外からは「熱く」感じるんです。余計な熱を放出して、体を「眠りモード」に持っていくんですね。これは、体が冷え切っていてそれ以上体温が下げられなかったり、周囲が暑すぎて体温を下げられなかったりすると、この機能がうまく働かなくなって、眠りにくいといわれています。なので、寝る前にはちょっと体を温めておくと、室温で放熱しやすくなる、というわけです。ただし、あんまり熱いお湯だと逆効果ですから、ご注意下さいね。

残りは、こんな感じですね。

眠れない方の中に「2時になったのも、3時になったのも、覚えてて……」っておっしゃる方がいらっしゃいます。これ、時計を見るたびに、一生懸命「眠れないことを確認」して、毎日毎日、何度も何度も「私は眠れない……私は眠れない……」って自分で自分に暗示を掛けてるのと一緒なんですね。なので、眠れない方は、寝床で時刻が確認できないように、時計が見えない状態にしておいて、起きる時刻に目覚ましが鳴るだけ、という風にしたほうが良いんです。

「早起きしちゃって困る」というのも、一工夫です。「困る」と思うから、「困る」んです。いえ、笑わないでください。真剣です。なんで「困る」のかといいますと、「早起きしてはいけない」と思っていたり、「何をすればいいか分からない」から、ですね。

別に早起きしても良いじゃないですか。睡眠が足りてれば、早く目が覚めるのが「正常」です。薄暗くて不安なら、電灯をつければいいんです。同室者に迷惑なら、リビングで過ごしましょう。音を出したら……って心配なら、イヤホンでラジオでも聴いたり、静かに読書でもしときましょう。デッサンなんかも良いですね。早起き日記を書いても良いでしょう。ブロクなんかもですね。「早く起きたらやること」をあらかじめ決めておくことで、「どうすればいいのか分からない不安」を減らすことができます。

そう。あとこれ。「思う」だけで、実は「きちんと寝た」のと似た効果があるんだそうです。不思議ですね。逆にいえば、必要な睡眠を多く見積もり過ぎてしまっていて、実際と比較して「眠れなかった」と「思う」ことで、ちゃんと寝ているのに寝た効果が半減してるかもしれないですよ。前の方で説明したような「睡眠不足」でどの程度効果があるかは……って感じですが、少なくとも「何となく眠れなくて」という位であれば、こういうやり方も効果がありそうです。

ポイントは、こうです。

「睡眠不足」であれば睡眠を増やすのが「必要」ですが、通常の「睡眠の不満」には「眠らなきゃダメ」と思い込み過ぎないことも、とっても大事なのかも、ってな感じですね。

では皆さん、眠くならずにお聴きいただき、ありがとうございました!

一日はまだまだ終わりません!

今日もこれから、しっかり活動してまいりましょう!


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