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序 青文字系雑誌は、夢と好奇心の扉だった

#プロローグ

「青文字系雑誌」は、夢と知的好奇心の扉だった。

誰でも着ているような服じゃない、学校にしていけるようなメイクじゃない、エッジのきいたスタイリングの表紙。
原宿マップに、ストリートのスターたち。
お金よりも工夫が秘訣の着まわし。
テレビによく出てるタレントのあの子も、なんだかいつもと違う、生き生きした表情にみえる。
読者モデルが受け身(インタビューを受けたり、プロにスタイリングされたりする)ではなく、セルフプロデュースやコラボレーションで、新しいファッションやライフスタイルを発信していくというDIY感。

…最初は、そうなりたい、という気持ちよりも、ただ眺めているだけで新しい世界が広がるようなときめきを感じていた。
そして好きなモデルやアイテムの写真をプリクラ帳にスクラップしていくうち、だんだん自分の世界も青文字に染まってきた。
次第に、憧れの人からおしゃれや生き方のヒントを吸収して、私もなりたい自分になるんだ、と思えてきたのだった。
たとえそんな自分が周りから浮いていたとしても、居場所はちゃんとある。
それを教えてくれたのが、青文字系雑誌だった。

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1993年に創刊して、青文字系雑誌の代表格だった『Zipper』が2017年に休刊したとき、これが青文字系の「終わりの合図」なのかもしれない、と感じざるをえなかった。
とくに『Zipper』が多くの女の子たちを牽引してきた重要な要素のひとつが、「パチパチズ」と呼ばれた読者モデルの存在だけれど、もはやInstagram、Twitter、ブログなどのほうがパチパチズの最新情報や詳しいファッション、ライフスタイルを知る手段として便利になっていたし、SNSと雑誌とがうまく補い合ってどちらも楽しめるような共存関係は、その頃すでに崩れつつあったのだと思う。
青文字系に限らず、雑誌という媒体が、かつての栄光を取り戻すというのはやっぱりもう難しいのだろうか。

私と青文字系雑誌との出会いは中学生の頃、2005年前後のことだけれど、この15年のあいだにも「雑誌」というもののポジションは大きく変わっている。
『Zipper』をはじめ青文字系雑誌はほとんどが休刊(廃刊)してしまった。
いまの女の子たちにとっての「雑誌」というメディアと、私がティーンの頃の「雑誌」とは、同じ実感を抱かせるものではないはずだ。
言わずもがな、雑誌やファッションにおける「青文字系」という言葉も死語になりつつある。「あったね!」「懐かしい!」と言われるか、もはや知らないかのどちらかだ。

もしもまだ希望があるなら、「好き」を貫いているファッションリーダーに、雑誌の中からメッセージを発してほしい。
同じ服を買うだけじゃ、同じ髪型やメイクをするだけじゃ近づけない、その人を形成するさまざまな面を見せてほしい。
そういうものを贅沢に詰め込んだ、ごちゃごちゃした一冊を手にしてみたい。

雑誌がなくなったこの時代にも、青文字系のエッセンスはどこかで脈々と流れているのだろうか。
ロリータとかパンクとかデコラとか、いわゆる「青文字系ファッション」の女の子たちは、原宿のストリートからめっきり減ったように思われる。
青文字系雑誌にスナップされていたような、カラフルでデコラティブだったり、アイテム合わせが独特だったり、どこのブランドのファンなのか一目瞭然だったり。

でも、ラフォーレ原宿の地下に行けば、ロリータ系ブランドには世界各国から集まったロリータの女の子たちがひしめき合っているし、MILKCandy Stripperなどの青文字系女子御用達ブランドも、デザイン・人気ともに勢いはとどまることがない。
いま「現役」の10代20代にとって、「青文字系」なものは、まだ魅力を失っていないはずなのだ。
そして、青文字系で育ち、その「魂」のようなものを持ち続けている20代後半〜40歳前後の世代は、社会に出て必ずどこかで引き合う気がする。
そして、取り込んだ青文字系のエッセンスを新しい形で表現し、発信し、次の世代へと引き継いでいるはずだ。
私自身もそうありたいと思っている。

「好き」を貫けば、共感しあえる人に出会えて、きっと道は開ける、と青文字系雑誌は伝え続けてくれていたのだから。

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私がこのnoteの執筆をはじめることにしたのは、青文字系雑誌の読者だった元少女としても、ライターとしても、そんなことをずっと思っていたからだ。
そしていま、『Zipper』と、同時期に青文字系雑誌の代表として君臨した『CUTiE』『KERA』をもう一度読み返している。
そんな青文字系雑誌が、女の子たちのファッションやライフスタイルとどのように影響を与え合ってきたかについて、あらためて向き合ってみたい。

それは、雑誌が消滅していこうとするこの時代に、「雑誌」という媒体の価値そのものを捉え直す試みでもあり、世の中に消費されてうわべを流れていくだけではない「かわいい」という、私が大好きな街が生んだ文化やエネルギーの本質に迫る旅でもあると思うのだ。

(文/絵:大石 蘭)


*今後「青文字系」についてのいくつかの雑誌をテーマで分けて、執筆リリースする予定です。 またマガジンでの購読も予定中です。
ぜひ感想やご意見もきけると嬉しいです。どうぞ応援のほどよろしくお願いします。

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PROFILE
大石 蘭 / ライター・イラストレーター
1990年 福岡県生まれ。東京大学教養学部卒・東京大学大学院修士過程修了。在学中より雑誌『Spoon.』などでのエッセイ、コラムを書きはじめ注目を集める。その後もファッションやガーリーカルチャーなどをテーマにした執筆、イラストレーションの制作等、ジャンル問わず多岐にわたり活動中。




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