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歳時記を旅する43〔紅葉狩〕前*弁当の箸の借り貸しもみぢ狩

土生 重次
(昭和五十七年作、『扉』)
 ある年の十一月一日、家族で上高地を訪れ、上高地帝国ホテルから梓川の右岸を、上高地温泉ホテル、ウエストン碑を経て河童橋まで歩いた。この時期、広葉樹の色付きは最盛期を過ぎていて、穂高の山肌は今年の雪が谷筋に白く光る。黄葉の落葉松と白樺の枯木の林の間を流れる梓川を見ながら、お昼ご飯をいただいた。
英人牧師W.ウエストンは紀行文『日本アルプスの登山と探検』(明治二十九年)で、登山の食料には、濃化した保存食をできるだけ多く持ってゆくとよいという。著者が挙げる牛肉エキス「ボブリル」Bovrilは今でも手に入れることができる。これを湯に溶かせばおいしいスープができる。
 句は、忘れた人の箸か、みんなのおかずの取り箸か、お腹が減って逸る気持ちが伝わる。紅葉明かりのお昼ご飯。
(岡田 耕)

(俳句雑誌『風友』令和五年十月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)

写真/岡田耕
    (上高地)

   

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