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読書メモ

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要約でもないし、感想文でもないし、書評でもありません。本の内容を自分自身に憑依させて書いている感じですので、より正確に本の内容を知ろうと思ったら、ご自身で読むことをオススメします。
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記事一覧

『美の仕事 脳科学者、骨董と戯れる』を読む。

言わずと知れた脳科学者茂木健一郎が、骨董古美術雑誌『目の眼』で連載していた記事がまとまった本。門外漢である茂木が、編集長の白洲信哉と共に様々な骨董古美術店を訪れ、モノを鑑賞し、その世界へと魅惑されていく。

個人的に良かった場面をいくつか引いておく。
日本橋にある「壺中居」の井上さんと3人で話しているシーン。

“「これはいつぐらいのものなんですか?」
「18世紀後半……」と井上さん。「最盛期のも

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森田真生『数学する身体』『計算する生命』を読み直す。

一般的に数学は「極めて抽象度の高いゲーム」と思われているので、数学者はまるで頭の中だけで巻き起こる“純粋な思考”のようなものをしている感じがするが、数学者の岡潔は、むしろ数学における情緒の重要性を説く。それは五感で触れることのできない数学的対象に、関心を集めてやめないことを指す。

数学は、粘土板や紙とペンといった道具との相互作用を通じて発展していった、数や幾何学が織り成すある種の生態系と捉えた方

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『おいしいものは田舎にある』『隠居志願』『ぼくのワインができるまで』『美味礼讃 (上)』といった、玉村豊男が書いたり翻訳した本を立て続けに読む。

何年か前に『料理の四面体』を読んで以来、玉村豊男の「多彩なライフスタイル」と「知への態度」に、勝手に弟子入りしている。弟子は師の一挙手一投足を取り込まなければならない。

『おいしいものは田舎にある』は、雑誌に掲載されていた80年代のエッセイをまとめたものだが、この本では広島風お好み焼きが意外性をもって紹介されていた。ということは、おそらくそれまで関東圏では広島風お好み焼きが知られていなかったとい

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デヴィッド・グレーバーの『官僚制のユートピア』『民主主義の非西洋起源について』、イヴァン・イリイチの『脱学校の社会』Remix。

デヴィッド・グレーバーの『官僚制のユートピア』『民主主義の非西洋起源について』、イヴァン・イリイチの『脱学校の社会』を立て続けに読んだ。
以下、この3冊と自分の考えをごちゃまぜにしたRemix。

国民国家のあらゆる規制や制度は、結局のところ、権力が暴力を行使できることで成り立っている。当たり前だ。いくらルールを作っても、それを強制させる力がないとルールがルールとして成り立たない。
さて、国民国家

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アレックス・バナヤン『サードドア 精神的資産のふやし方』について

アレックス・バナヤン『サードドア 精神的資産のふやし方』について

アレックス・バナヤン『サードドア 精神的資産のふやし方』を読む。

“「まずファーストドアがある。正面入り口のことさ。長い行列が弧を描いて続き、入れるかどうか気をもみながら99%の人がそこに並ぶんだ」

「次にセカンドドアがある。これはVIP専用入り口で、億万長者、セレブ、名家に生まれた人だけが利用できる」

「学校とか普通の社会にいると、人生にも、ビジネスにも、成功にも、この2つのドアしかないよ

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『「美味しい」とは何か 食からひもとく美学入門』を読む。

本書の半分近くは「美味しいものは人それぞれ」という主観主義と、「料理本来の味」を求める純粋主義、この2つの大きなイデオロギーを解体することに費やされている。

たとえば、何時間も煮込まれた豚骨ラーメンのスープを飲んだときに、Aさんは「濃厚だね」、Bさんは「濃すぎるね」、Cさんは「すっきりした甘さだね」と言ったとする。主観主義に立脚すれば「人それぞれ感じ方は違うよね」となるはずだが、日常的な現実とし

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『生の短さについて 他二篇』を読む。

セネカにおいて、生は立派に活用すれば長く、浪費すれば短くなるものだという。

ではその生の浪費とはなんだろうか。少し長いが、多くの例を確認することで、その浪費のイメージをざっと掴んでしまおう。

“ある者は飽くなき貪欲の虜になり、ある者はあくせく精出すむだな労役に束縛され、ある者は酒に浸り、ある者は怠惰に惚ける。また、常に他人の判断に生殺与奪の権を握られている公職への野心で疲労困憊する者もいれば、

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