E104:歳を取るか、重ねるか…
先日、かつての同僚と再会して、思い出話をしていたときのこと。彼は現在アラサー。
最初のうちは、こわばっていた表情も徐々に和らぎ、
最後はお互いが知っている懐かしい同僚の話をして、ひとしきり盛り上がった。
話をしている時も、大きな身体を精一杯折り曲げて、彼の視線が、私を見下ろす形にならないように、ずっとかがんで話をしてくれた。
こんなことを言ってはなんだけれど、これには内心とても驚いていた。
私の知っている「かつての彼」は、こんなことができる人ではなかったから。
びっくりはしたけれど、本当の意味で戸惑ったのはこの後だった…。
「本当に申し訳ございませんでした!」
話も終わりに差し掛かり、それぞれの仕事に戻ろうとした時、彼は突然頭を下げて、謝罪してきた。
私は…一瞬、ぽかんとして、慌てて声をかけた。
「いや。いや。そんな、気にしないで。ずっと前に1年間だけ仕事をしただけだから、覚えていないのも仕方ないよ。僕なんかね、昨日会った人の名前も怪しい時があるから。年だよね。情けないでしょう?」
そう言って、笑いかけたが
彼は表情を崩さず、首を強く、横に振った。
実際、彼は私のことを覚えていなかった。
けれども、当時から世代も、部署も、プロジェクトも全部違ったので、彼とはいつも世間話程度だった。それから何年も経てば、覚えていないのは仕方がない。だからそんなことは、声をかけた時から、想定内だった。
でも彼は、そういうことではないのだ、と言う
「源太さん聞いてください。私はあの頃ご一緒した方々に、きちんとお詫びがしたいんです」
そう言ったあと
彼は静かに語り始めた。
お名前を覚えていないのはそもそもダメなんですけれども、源太さんとご一緒していた頃、私は新卒1年目でした。私に具体的な記憶がなくて申し訳ないんですが、その頃ご一緒していたとしたら、私は多分とても失礼なヤツだったと思います。
社会人として働くことの意味もわからず、先輩に対する礼儀も知らず、散々周りから叱られ、苦言を呈されて、やっと今の私に至ります。
その頃、ひょっとしたら、私の態度にご立腹されたこともあるのではと思っております。私はその点を改めてお詫びしたいと思っているのです。
…何ということでしょう!
感動し、興奮しつつも
実は、同時に、ちょっと困っていた。
なぜなら
「大丈夫ですよ。あなたはしっかりしてましたよ」
なんて言える状況ならよかったのだけど、
新人の頃の彼は、概ね
「彼の言った通り」だったから、笑
全然使い物にならないとか、そういうことではないのだけれど、やっぱりいろんな点において、言葉も、仕事ぶりも、ちょっとこの子は危なっかしいなぁ、みたいなところがあった人だから…。
返しに困った時はこうする。
つまり、同意もせず、否定もせず、相手に質問で返すこと笑
実際私はこう返した。
「そんなふうに思ってらっしゃるんですか?」
「はい」
「私は、今のあなたが素敵だと思いますよ」
「そうですか。それならいいんですけど、まだまだですから」
彼はやっと、はにかんだような笑顔を見せた。
その笑顔は昔と変わっていなかった…
こういうの、すごくいい!
話を終えて、心に爽やかな風が吹いた。
仕事をしていると、これとは逆のパターンをよく見る。「悪くなっていく」若手をたくさん見てきたから…。
それに、自分だって大した事は言えない。
彼ほどにはないにしても、私の新卒1年目なんて
穴があったら入りたい言動が山ほどある。
20代のあの頃…。
ほんとに…ああああ恥ずかしい!
ああ、それでも、そんな私を
すごく可愛がってくれた先輩がいた……
星が、きれいだったな……
その話は、また明日。
【66日の19日目】
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