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エピローグ第27話:最終回『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖


クソッ…ハア…ハア…

それでは…

「Cメロの歌詞」と「ウィロビーの置き手紙」の関係について話そう…

第3のサビ「あなたのキスを忘れましょう」について語った前回を未読の人は、まずコチラからどうぞ…

ウィロビーは自殺する前に、妻アンへ宛てて手紙を「二通」書いた。

「一通目の手紙」は鏡台の引き出しに隠されていて、これは以前に書かれたもの。

書かれていた内容は「私たちに関する自分の記憶をつづったもの」で「果てしない愛情・無償の愛」について記されていたと、目の付きやすいテーブルの上に置かれていた「二通目の手紙」の冒頭で語られる。

そして「二通目」の内容は「こんにち語るべき重要なこと」が書かれているというんだ。

こんな風にね…

My daring Anne,
There's a longer letter in the dresser drawer I've been writing for the last week or so.
That one covers us, and my memories of us and how much I've always loved you.
This one just covers tonight, and, more importantly today.

これって…

以前に書かれた「一通目」が『ルカによる福音書』で…

映画で朗読される「二通目」が『使徒行伝(使徒言行録)』のことじゃないの…?

その通り。

ウィロビーから妻アンへの手紙は「この映画が『使徒行伝』のパロディになっていること」の種明かしにもなっている。

さっき引用した手紙の冒頭部分は『使徒行伝』の冒頭部分のパロディになっているんだね。

1:1 テオピロよ、わたしは先に第一巻(『ルカによる福音書』)を著わして、イエスが行い、また教えはじめてから、
1:2 お選びになった使徒たちに、聖霊によって命じたのち、天に上げられた日までのことを、ことごとくしるした。

ホンマかいな…

本当だよ。

そして脚本を書いたマーティン・マクドナーは、それを「不謹慎だ」と捉える人がいることも十分理解していた。

だからジョークを言った後で、わざわざ「the act」という言葉を持ち出し、ちゃんとエクスキューズを入れているんだ。

『使徒行伝』は英語で『The Acts』だからね…

Tonight I have gone out to the horses to end it.
I cannot say sorry for the act itself, although I know that for a short time you will be angry to me or even hate for me for it.
Please don't.

「今夜、俺は馬小屋で命を絶つ。『使徒行伝』それ自体をネタにしたことについては謝りようがない。おそらく君は腹を立てるだろうし、そのことで俺を嫌うかもしれないが、それはやめてくれ。」

チェーホフも『The Shooting Party(狩場の悲劇)』の冒頭で同じようなエクスキューズを入れとったな…

作品内に頻出する聖書のパロディや不謹慎ジョークに対して…

わたしは自分自身の快適な生活に注意を払うには、あまりにも無精だったので、故人のみならず、生者でさえ、かりにそれが当人の希望なら、わたしの部屋の壁にかかってくれていて一向苦にならなかった*。

*註 こういう表現に対して、読者に謝らなければならない。不幸なカムイシェフ(手記を書いた予審判事のこと)の小説には、この種の表現がふんだんにある。わたしがそれらを削除しなかったのは、彼の小説の全文を印刷することが、作者の性格をはっきりとさせる上に必要であると考えたからに、ほかならない。――A・Ч(アントン・チェーホフ)

中央公論社版(訳:原卓也)より

マーティン・マクドナーは、そこもきちんと踏襲したんだね。

ハア…ハア…ハア…

そしてこんなふうに手紙は続く。

ここはどんなジョークになっているのか、わかるかな?

This is not a case of I came in this world alone, and I'm going out of it alone or anything dumb like that.
I did not come in this world alone, my mom was there.
And I'm not going out of it alone, cos you are there, drunk on the couch, making Oscar Wilde cock jokes.

「この世界に孤独な存在として来たのではない。そこにはママがいた。そしてこの世界から孤独な存在として去るのではない。そこには君がいた」

ママは「聖母マリア」ってすぐにわかるけど、この世を去る時にいた「you(君)」は誰のことだろう?

ポイントは「or anything dumb like that(馬鹿げた話みたいだが)」だ。

特に意味の無い「要らないフレーズ」をわざわざ入れたことには意味がある…

<続きはコチラ!>


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