日の名残り第14話_a

「WAR」~カズオ・イシグロ『日の名残り』徹底解剖・第14話

さて、始めようかイソグロ。

・・・・・

その前にオイラたちの簡単な自己紹介を!

ん?

私の名前が…

あれ?

「カヅオ」になってる…

あんまり「カツオ、カツオ」と呼ぶのもどうかと思ってね…

「ナカヂ」に合わせてみた。

・・・・・

シリーズ終盤間近でメインキャラの名前を変えるとは…

常識が通用せん世界や、ここは…

これまでの流れを知らん人はおらんと思うけど、念のため前回を貼っとくで…

じゃあ、ついでに『日の名残り』の登場人物も紹介しておこう…

ーー『日の名残り』主要登場人物ーー
執事長スティーブンス(主人公。かつての同僚ミス・ケントンの住むコーンウォールまで自動車旅行をする)
女中頭ミス・ケントン(遠いコーンウォールの地へ嫁ぎ、現在はベン夫人として暮らしている)
館の主人ダーリントン卿(英国の大物貴族。ナチスドイツの協力者として戦後は激しいバッシングを受け、失意のまま亡くなる)
新しい主人ファラディ氏(アメリカ人の大富豪。下ネタ好き。映画版はルーイス氏に変更)

いちいち口を挿むなよな。まったく鬱陶しい連中だ。

おい、イソグロ。こいつらに猿ぐつわをしておけ。

あ、ああ…

つ、鶴に「猿ぐつわ」とは、これ如何に…?

貴様は本当に救いようのない奴だな。

この期に及んで、しょーもないギャグなど言いおって。

そんなにギャグが好きなら、貴様だけボールギャグにしてやろうか?

ヒィィ!

それだけは御勘弁を…

イソグロ、さっさとやれ。

すまん…お前たち…

悪く思うな…

・・・・・

身動きもできんように、きつく縄で縛っておけ。

あ、ああ…

わかっている…

フガフガフガ!

(鶴に「亀甲縛り」とはこれ如何に!)

(くそォ…)

やれやれ…

ようやくこれで「こちら」も準備が整ったぜ。

ずいぶんと「あちら」を待たせてしまっているからな。

あちら?

本部だよ。

今、本部の大講堂には、お偉方をはじめ全スタッフが集まっているのだよ。

もちろんMもな…

お前の『忠誠の誓約』をライブで聴くためにだ。

大講堂に…全スタッフが…?

今回のお前への「特例」は、反対意見も多かった。

だからこのような場が設けられたのだ。組織の全員が証人となるためにな。

お前の覚悟をその目で確かめれば、反対する者も納得できるだろうということだ。

・・・・・

本部の大講堂とはスカイプで繋がっている。

ほら、聞こえるだろう?

この歓声…

いや、お前に対するブーイングが…


「ブーーゥ!ブーーゥ!」


・・・・・

フガフガフガ…

(可哀想に…ひどいブーイングだ…)

フグフグフグ…

(組織の裏切り者や。仕方ないやろ…)

フゴフゴフゴ…

(でもよく聴くと応援の声もあるよ…)

おいイソグロ、帽子取れよ。

姿も見えてるんだぜ。みんなに失礼だろ?


「ブーーゥ!ブーーゥ!」


す、すまん…
忘れてた…

サッ

・・・・・

さあ、朗誦するのだ。『忠誠の誓約』を。

さあ!


「ブーーゥ!ブーーゥ!」


・・・・・

(カヅオさん…)

さあ!


「ブーーゥ!ブーーゥ!」


・・・・・

さあさあさあさあさあ!


「ブーーゥ!ブーーゥ!」


・・・・・

フガフガフガ…

(カヅオさん…集中して…)

フグフグフグ…!

(せや!気にしたらアカン!)

フゴフゴフゴ…

(そんなブーイング、気にしないで…)


「ブーーゥ!ブーーゥ!」


Sinéad O'Connor 『WAR』

!?

ある人種が勝り

別の人種が劣るという考え方が

最終的に…そして永遠に葬り去られるまで

世界は戦場!

フガフガ!?

(カヅオさん!?)

市民を等級に分けて差別する

そんな国がなくなるまで…

肌の色が目の色と同じように

何の意味も持たなくなるまで…

私は戦争を叫ぶ!

イソグロ…

お前、自分が何をやっているのか…

基本的人権が人種の差別なく

保証されるようになるまで

私は戦争を叫ぶ!

貴様…

そして悲しい人間の支配欲…

児童虐待!

そう、児童虐待!

この非人間的な隷属が

完全に排斥されるまで…

・・・・・

世界は戦場だ!

いったいどういうつもりだ…

俺は誰にも忠誠など誓わない!

そして誰からも指図など受けない!

お前にも、組織にも!

うおおおおお!

お、おい…

やめろ貴様…

何をする…うわァ…!

君たち!

力を貸してくれ!

フガフゴ!?

(どうやって!?)

後ろ手に縛ってある縄の先端を引くと、ほどけるようにしてある!

ンガンン!

(やったァ!)

その縄で、こいつを縛り上げてくれ!

早く!



ハァ… ハァ… ハァ…

お前たち、いい度胸してるな。

やかましいわボケェ!

よくもこのワイをコケにしてくれたな!

調子に乗るな。

こんなことして、どうなるのかわかってるのか?

一部始終が本部にライブ中継されていたんだぞ…

ハァ!せやった!

・・・・・

すぐに第二第三のヒットマンがやって来るぞ。

そして長崎の修道女…

貴様の大切な「シスター」も今頃は…

ああ!カヅオさん…

すぐに妹さんへ電話を!

うむ…

「RRR…RRR…RRR…」

頼む、出てくれ…

「RRR…RRR…RRR…」

どうしたんだ…早く!

「おかけになった電話は現在電源が入っていないか、電波が届かない場所にあります…」

ああ!

ほら、礼拝中ってことも考えられるし…

バカめ。

さっき私に写メを送ってきた仲間が、この異変を知って、もう修道院で女を拉致している頃だ。

いや、もう運び出した後かもしれんな…

なんちゅう卑劣なやつや…

お前らそれでも人間か…

悔やんでも仕方ない…

すべて私のせいなのだ…

一度は組織に全てを捧げる誓いを立てたにもかかわらず、兄妹の縁を捨てきれなかった私の責任だ…

これからどうしましょう?

ここにいても危険ですし、妹さんも心配です…

とりあえず…長崎へ向かってみては?

そうだな…

ナカヂもこのまま連れて行こう。車のトランクにでも入れて…

組織は非情だから可能性は薄いが、交渉の材料になるかもしれん。

よっしゃ!

お前は今から人質や!

愚か者め…

そんなことをしても無駄だ…

組織は貴様ら如きと交渉などしない。

では僕がレンタカーを借りてきます。

ここで少し待っててください…



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



では皆さん、出発します…

また東京に戻って来れることを祈って…

ねえ…カヅオさん…

妹さんと連絡取れた?

いや…

相変わらず電話が繋がらない…

し、心配せんでもええ…

彼氏と長電話でもしとるんやろ…

年頃の娘にはよくあることやで…

お前が一番ビビってるじゃんか。

能書きはいいから、もうちょっと詰めろ。狭くて敵わん。

なんでコイツがワイの隣におるねん!?

コイツの指定席はトランクやったはずやろ!?

でもトランクの中じゃ、僕たちの監視の目を盗んで、何をしでかすかわからないでしょ…

そして、子供のええじゃろうを、彼の隣に座らせるわけにもいかない…

そうなると後部座席は、その並びにならざるを得ない…

くそゥ…

ねえねえ、おかえもん。なんか音楽かけようよ!

重苦しいムードにならないように!

そうだね。

じゃあ僕のお気に入りリストにあるやつを…

これなんかどうかな?

わお!超クール!

なんだかロードムービーの始まりみたい!

お前の脳味噌どないなっとんねん…

ワイら恐怖の組織に命を狙われとるんやで…

喉が渇いた。

おい、鶴。飲み物をくれ。

なんやと!?

ワイはお前の召使いとちゃうで!

ナンボク…

彼は身動きが取れないんだ。

隣にいる君が飲み物などの世話をしてあげてくれ。

くそゥ…

なんでこのワイがコイツに奉仕せんとあかんのや…

虐待や…

これは動物虐待や…

由々しきアニマル差別やで…

大変だな。いちいちオチを付けるのも。


ボブ・ディラン『Gotta Serve Somebody』
歌:エリック・バードン(元アニマルズ)


――続く――


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