日の名残り第37話1

「長崎とイギリス」~カズオ・イシグロ『日の名残り』徹底解剖・第37話


~~~ 三日目・昼 長崎港 ~~~


ブォーーーーー
(フェリーの汽笛)


いよいよ五島列島へ出発だい!

おい、この航路図見てみい!

このフェリーは中通島の奈良尾港経由やさかい、福江まで四時間半もかかるんやで。

ホントだ…

本土からそんなに離れてないのに、結構時間かかるんだね…

ちゃんと調べておけばよかったな…

船で行くのは初めてだから…

無事でいてくれよ、マイ・シスター…

まあエエわ。いまさら急いだところで状況は変わらん。

のんびり行こ、のんびり。

たっぷり時間はあるさかい、まずは自己紹介でもしとくか。

あと、前回はコレや。

ねえねえ…

この長崎の地図を見て思ったんだけど…

長崎ってイギリスに似てない?

ハァ?

何言うとんねん。

だって、ほら…

長崎をこうして見ると…

おお!確かに似てる!

西海市はスコットランドだな!

五島列島の北部「宇久島」は、なぜか佐世保市なんだけど、やっと理由がわかった…

あれは「北アイルランド」なんだ…

ウェールズが惜しいな。地形はバッチリなんだが…

時津町と長与町は、長崎市と領土を交換したらいい。

長崎半島に至っては、コーンウォール半島そのものやんけ…

でさ…

切り離した長崎県の残りの部分も、こうやって見ると…

ヨーロッパやんけ!

なんだこれ!?

島原半島はイベリア半島そっくりじゃないか…

対岸の熊本県がアフリカで、佐賀県がロシアやな。

平戸はスカンジナビアや。

諫早市と大村市も、フランスそっくりだ…

しかもノルマンディーやブルターニュの半島まである…

そして東彼杵郡がベルギーだ…

ハウステンボスなんて、まさにオランダのアムステルダムと同じ位置だよな。

だからあんなところに作ったのか?

そして佐世保が完全にハンブルクになってる。同じ軍港同士だからな。

ねえ?そっくりでしょ?

ちょー面白くない?

とんでもない発見をしよったな…

『日の名残り』の旅の目的地「コーンウォール」は、やっぱり「長崎」のことでもあったんや…

僕もこれで確信が持てた。

今までは80%だったけど、これで100%そうだと言える。

80%でも十分な数字だが…

しかしなぜ「コーンウォール=長崎」だと思うようになったんだ?

その理由とは、ジャック・ケルアック『LONESOME TRAVELER(邦題:孤独な旅人)』なんですよ。

ジャック・ケルアック『孤独な旅人』
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第29話で紹介した本だ!

確か、収録されとる8つの短編の順番を逆さまにすると、『日の名残り』の物語そのものになるっちゅう話やったな。

その通り。

"Piers of a Homeless Night"
『故郷なき者達の夜の桟橋』

"Mexico Fellaheen"
『メキシコの農民達』

"The Railroad Earth"
『鉄道の大地』

"Slobs of the Kitchen Sea"
『キッチンの海の野蛮人達』

"New York Scenes"
『ニューヨーク・シーン』

"Alone on a Mountaintop"
『山上の孤独』

"Big Trip to Europe"
『ヨーロッパへの大いなる旅』

"The Vanishing American Hobo"
『消えゆくアメリカのホーボー』

この8篇の順番を反対にすると、完璧に『日の名残り』になるんだ。

これとコーンウォールがどう関係するんだ?

問題なのは『ヨーロッパへの大いなる旅』という短編。

実はこれ、ケルアックが「自分のルーツ」を辿る話なんだ…

フランスのブルターニュ、コーンウォールへと…

コーンウォール!?

ジャック・ケルアックの先祖は、コーンウォールから来たのか?

コーンウォールはコーンウォールでも、フランス・ブルターニュ地方のコーンウォール…

ケルアックの父方の先祖はブルターニュのコーンウォール、母方の先祖はノルマンディーからやって来た。

フランスにもコーンウォールがあったのか!

フランス語では「Cornouaille」と綴る。

英仏のコーンウォールは昔から深い繋がりがあるんだ。

元々は同じケルト人の住む地域だった。今でもケルト文化を色濃く受け継ぐ「ケルト国」の一つとされている。

そういや「アーサー王物語」の『トリスタンとイゾルデ』も、コーンウォールとブルターニュが舞台やったな…

あの物語は、ケルト族の内部抗争を描いたものだったよね。

コーンウォールの騎士トリスタンは、アイルランドの王女イゾルデと恋に落ち、それが王に発覚してしまい、コーンウォールからブルターニュへ逃げて行くんだ。

さて、ケルアックの父方の祖先「ケルアック男爵」は、ブルターニュのコーンウォールの貴族だった。ある時カナダに広大な土地を拝領することになり、意気揚々と新大陸へと渡っていった。

その後ケルアック家は、アメリカのニューイングランド地方へ移る。

そしてケルアックの父がノルマン人の母と結婚し、ジャックが生まれた。

短編『ヨーロッパへの大いなる旅』は、このルーツを辿る旅だったんだ。

ちなみに俺が忠誠を誓う「チャンネル諸島」は、ブルターニュとノルマンディーのちょうど間の海に浮かぶ島だ。

なんだかケルアックに親近感が湧いたな…

執事スティーブンスのコーンウォールへの旅には、カズオ・イシグロ自身のルーツである長崎への旅が重ねられていた…

そしてそれは、ケルアックのコーンウォールへの旅からインスパイアされたもの…

確かにそんな気がするな…

きっとそうだ…

いや、絶対にそれで間違いない…

おや?

いつのまにか雨が上がってる…

見て見て!

虹だ!

わかりやすくフラグが出てたもんな。

実に鮮やかな虹だ…

あんなにクッキリ見えるのは滅多にないよね…

きっとカヅオ君と妹さんが無事に会えるという吉兆かも…

おい、カヅオ!

例の歌動画、流すに絶好のチャンスやで!

へ?

今『虹の彼方に』を流さんで、いつ流すっちゅうねん!

ああ、そうだな…

じゃあ今度は、妹が中学生の時の秘蔵映像を…

いろいろ入ってるんだな!

ここ数年会ってないから、昔のばっかりだけどな…

あったあった、これだ…

ポチっとな。

なんじゃこりゃあ!?

雨はもうええ!

虹や、虹!

ま、間違えた…

すまん…

こっちだった…



『Over the Rainbow』 - Eva Cassidy
covered by Jess Greenberg


――つづく――


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