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燻る「インフレ」の ”種火” 。

 往年の名作「タワーリング・インフェルノ」(The Towering Inferno、1974年)を久々に見た。忘れもしない、筆者が生まれて初めて「お金」を払って映画館に見に行った作品だ。当時は超高層ビルで火災が起きるなどという想定自体が無く、かなり話題になった。翌年「ジョーズ」が大ヒットした時も海水浴客が減ったと言うが、高層ビルに昇るのも怖くなったものだ。

 どうにも消せない「火」を消すために最上階にある貯水槽を爆破するという強行手段に出るのだが、中には体を柱に括り付けたものの、凄まじい水量で流されてビルの外に叩き出されてしまう犠牲者も出る。これを見ていて不覚にも「損切丸」「今のインフレと同じだ」と思ってしまった。

 3月:米CPI(前年比)+5.0% 予想 +6.1% 前月 +6.0%
 コアCPI +5.6% 予想 +5.5% 前月 +5.5%
 2月:日本CPI +3.3% 予想 +3.3% 前月 +4.3%
 コアCPI(除.生鮮・エネルギー)+3.8% 予想 +3.6% 前月 +3.5% 

 コアCPIが総合CPIから乖離して上昇するのを初めて見た。これこそが今「真・インフレ」が進行している証拠日本でも一時「コストプッシュ・インフレ」が声高に叫ばれたが完全に的外れ。従前から解説しているが、「円安」も@150円台 → @130円台原油価格も@120ドル台 → @70ドル台まで下げており、商品価格が「インフレ」を牽引している訳では無い電力会社を含め昨今「値上げ」が殺到しているのは「人件費」の高騰が主因。だからこの「インフレ」はかなり粘着質

 モノの「値段」って何だろう? ー 「卵」価格高騰に思う。|損切丸|note でも書いたが、モノの「値段」の30%は「人件費」。特に日本では「平成デフレ期」に人件費を叩いて叩いて経営してきた会社、店舗が多数を占めたため反動が大きい。大企業もそうだし、体力の無い中小企業は①大幅値上げか②廃業の二択を迫られる厳しい状況が続く。多すぎた店舗、企業の淘汰が進むまでまだまだ時間がかかりそうだから「インフレ」は当面続く。どんな会社も「人」無しでは成り立たない。

 サービス業が「物価」の主体となっているアメリカではこの傾向が顕著。その結果がコアCPI>総合CPI。この辺りはFRBが十分に理解しており、銀行の「資金繰り」破綻への対処とは別次元の判断となる。マーケットの一部には何としても「利上げ」阻止をしたい向きが多いが、今回も勝負は負け。5/3+0.25%「利上げ」は完全に織り込まれ「金利@5%時代」を迎えそう。

 これを冒頭の映画に例えると、消防車で高層ビルにいくら散水したところで表面の火は消せても、燻る ”種火” は容易には消せないということ。途中急いで水量を増やしたが、e.g., +0.75%×4回、既に延焼が広がっていて手遅れ。 ”種火” が残る限り「火」は何度でも燃え広がる。

 筆者が ”種火” の証拠と見ているのがWTIとビットコインだ。どちらも市場規模が小さく流動性に乏しいが、それだけに*需給、即ち「金余り」を反映しやすい。この辺りの値段が上がってくるということは、まだ ”種火” が残っているということ。

 *巨額の隠し資産等を "かくまってきた" クレディスイスの破綻に伴い、表に出せない、いわゆる「アングラ・マネー」(Underground Money)が行き場を失っているという特殊事情もある。特に「戦争」で40兆円もの「外貨準備」をアメリカが差し押さえた衝撃は凄まじく、産油国を始めとした独裁国家ではおいそれと「ドル」に投資できない

 一つ面白いのは、コロナ後の世界 Ⅳ - 「インフレ」「デフレ」どちらに向かうのか?(続編)|損切丸|note で "レッドチーム" に属する、あるいは "寄り" の国々で全く別の現象が起きている点。中露の3月CPIはそれぞれ+0.7% ← 2月+1.0%、+3.5%(!!) ← 2月+11.0%と下落。どこまで指標を信じるかということもあるが、全く根拠の無い話でもないだろう。BRICSの一角で水力発電主体のブラジルやヨーロッパでは天然ガスのパイプラインが通るスペイン中国寄りのギリシャにも同様の傾向が見える。

 よくよく考えて見ると、これらの国々では①原油は@40ドル台で供給され②サプライチェーンのシフトで人手は余っている。世界的に見ると「脱・グローバリゼーション」の帰結とも言える極端な不均衡が生まれ、一種の「デフレ」圧力が働いている。だから筆者にも 「ディープリセッション」か「スタグフレーション」か。|損切丸|note という疑問が湧く。

 だが「お金」の流れからいくと "アメリカチーム" の影響は圧倒的で、全体としては「インフレ」が勝り「スタグフレーション」シナリオで進むと筆者は見ている。中国もアメリカと同等の7,000兆円近く「借金」しており、「お金」の価値が上がる=「デフレ」に突入するとは考えにくい

 そうするとやはり燻る ”種火” まで消さなければいけないが、その役割を担うのは日銀と「損切丸」は想定している。30年近くに渡って500兆円もの「過剰流動性」を世界にばらまいてきた責任は重い最上階の貯水槽を爆破するのは日銀による「利上げ」になりそうだ。残念ながら映画同様相当の犠牲者が出そうだが、とにかく「火」を消さないことには事態は収まらない

 あとは植田新総裁がどれだけ上手くやってのけるかモタモタすればまた「火」は燃え広がってしまうので個人的には早く着手した方が被害は少なくて済むと思うが、さて。こちらは「水」に流されないよう、しっかり体を固定させておく必要がある。おっと「火」にも注意が必要だが。


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